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弁護士法人 永 総合法律事務所

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03-3519-3880(代表)

職場でのメンタルヘルス対策 〜職場でのうつ病:理解と対策〜

コラム&ニュース コラム
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(写真ACより) 

「メンタルヘルスは職場環境において重要な要素であり、その管理と対策は組織全体の生産性と従業員の幸福を左右します。

本稿では、まずメンタルヘルスが何であり、職場での日常的な体制づくりからメンタルヘルス不調者の早期発見とその対応、休職中の支援までを記します。

うつ病をはじめとするメンタルヘルスの問題は、誰にでも起こり得るものであり、それに備えるための知識と理解が求められます。
この記事が、職場でのメンタルヘルス対策の一助となることを願っています。

メンタルヘルスとは

メンタルヘルスとは体の健康ではなく「心」の健康状態を意味するものです。

昨今では職場で働く従業員のメンタルヘルスの不調による精神疾患が著しく増加し続けています。

 企業は雇用する従業員に対して「労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(労働契約法第5条)との「安全配慮義務」を負っています。従業員のメンタルヘルスの不調につき、会社が必要十分な配慮を怠っていた場合には、安全配慮義務違反による損害賠償等の法的責任を負うおそれもあります。労働生産性の大幅な低下にもつながる問題であり、企業の従業員のメンタルヘルス対策への取り組みが非常に重要となってきています。

 メンタルヘルスの不調と一口に言ってもその種類は種々様々です。比較的発症しやすいものとしては、うつ病(強い憂うつ感、意欲や集中力、判断力の低下など)や、適応障害(環境の変化による神経過敏、絶望感など)、統合失調症(妄想、予測不能な言動など)、不眠症、そしてパニック障害などです。

とりわけ職場のメンタルヘルス不調で最も多く発症しているのがうつ病の罹患によるものです。うつ病を発症する原因は環境要因、個々人の性格要因、脳内の分泌物質など様々なファクターが複雑に絡み合って発症すると言われており、その治療にも数カ月単位の長期間がかかるのが一般的です。 

職場におけるメンタルヘルス対策については国も重く見ており、労働基準法や労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などの法令のほか厚生労働省の指針や通達などを示すことで企業に適切な対応を求めています。

メンタルヘルスに対する日常的な体制づくり

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(1)メンタルヘルス不調の原因

 従業員がうつ病に罹患しないように、メンタルヘルスに不調を起こさないようにするためには一体どうしたら良いのでしょうか。

 メンタルヘルスといっても既に説明したとおり多種多様の症状があり、当然その発症原因もまた多種多様です。それでも従業員がメンタルヘルスの不調を訴える共通の原因として指摘されているのは、従業員に過大な精神的負荷をかける業務環境です。例えば深夜残業・休日出勤などの長時間労働、経験がなければ対応が困難な慣れない業務、突然の異動・転勤などの急激な環境の変化、職場内におけるパワハラ、モラハラ、セクハラなどの人間関係が挙げられます。

 メンタルヘルスの不調は身体のケガや病気とは異なって、その症状が表面に出にくいのが特徴です。不調の程度が業務不能にまで達しているかの判断が外部から一見して分かりにくいという点もメンタルヘルス問題の対応を難しくしている要因です。

 企業としては、このようなメンタルヘルスの特徴を十分理解したうえで、メンタルヘルス不調者が出ないように、それぞれの企業ごとに工夫しながら職場におけるメンタルヘルス対策の体制づくりを日頃からあらかじめ準備しておくことが大切です。

特に長時間労働に起因するメンタルヘルス不調については、タイムカードなどにより企業側で従業員の勤務状況をより詳細に管理しやすい部分です。これら企業で客観的にチェックしやすいポイントはどこなのか等の点に注意しながら対応することでメンタルヘルス不調者の発生を防ぐことが大切です。

(2)会社がとるべき事前の予防策と事後の対応策

 企業のとるべき対応としては、大きくメンタルヘルス不調者を出さないための「事前」の予防策と、メンタルヘルス不調者が出てしまった場合における「事後」の対応策の2つの体制をあらかじめ準備しておく必要があります。

 具体的には、事前の予防策のうち長時間労働に起因する精神的負荷については、各従業員の労働時間を的確に把握できる体制の整備、長時間労働を必要としない仕事の役割分担など社内システムの見直しと工夫を行うことが必要です。一定時間を超えて働く長時間労働に至った従業員については確実に医師の面接指導を受けさせるなどのフォローも必要でしょう。

 ハラスメントに起因する精神的負荷については、ハラスメント相談窓口を整備して従業員に周知徹底するとともに、実際に相談があった場合の具体的対応として担当者向けのマニュアルを事前に準備しておくことが考えられます。そもそもセクハラ対策、パワハラ対策、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策はメンタルヘルス対策とは関係なく会社の義務であることをしっかり意識する必要があります。

 他方、事後の対策としては、休職命令などメンタルヘルス不調者が出た場合に企業として迅速かつ適切に対応できるように、昨今のメンタルヘルス問題がクローズアップされている現状に合わせて就業規則を正しい形に改訂しておくことがマストです。

 また、メンタルヘルス問題においては専門家たる医師のアドバイスが極めて重要になりますので、普段から相談できる精神科や心療内科の医師と連携しておく必要があります。

現場対応としては、部下のメンタルヘルス不調に気付いた上司が、人事部のメンタルヘルス担当者にすぐに状況を報告できる体制整備が必要です。しばらく様子を見ることでズルズルと現場対応が遅れた結果、従業員のメンタルヘルス不調が悪化してしまったといった状況は絶対に避けなければなりません。

メンタルヘルス不調者の早期発見と発見時の対応

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(Pixabayより)

(1)メンタルヘルス不調者の早期発見

以上のような体制づくりがきちんとできていたとしても、なおうつ病の罹患をゼロにすることは難しいでしょう。
 そのときに企業としてはメンタルヘルス不調者をできるだけ早く見つけ出し、きちんとした対応をしてあげることが何より重要になります。上司としては、部下のメンタルヘルス不調のサイン(言動面でのサイン、ケアレスミスの頻発など勤務態度面でのサインなど)を見逃さないように注意しましょう。大切なのは常日頃から部下の言動などに気を配っておき、それまでの様子や態度と比べて変わった点がないかにつき注意を払うことが重要です。  

(2)メンタルヘルス不調と思われる従業員への初期対応

メンタルヘルス不調かなと思われる従業員がいた場合には、

① メンタルヘルスの不調が疑われる従業員の心身の不調をそれ以上悪化させないこと
② 従業員がメンタルヘルス不調に陥っているのか、陥っているとしてその程度はどのくらいなのかを見極めること

の2つのポイントを意識してください。

①については、メンタルヘルスの不調が疑われる者に対し、安易に励ましの言葉をかけたり、「そんなの大したことないから気にするな」などと本人が不安や心配している点を全否定するようなアドバイスをすることは絶対に避けてください。

その代わりに、従業員の努力を誉めたり労う言葉をかけること、その従業員が会社にとってかけがえのない大切な人材であることを伝えること、体調を回復させたあとにまた一緒に働いて欲しいのでいまはまずゆっくり静養して欲しいことを伝えるのが良いでしょう。

②については、実際にメンタルヘルス不調に陥っているのか、陥っているとしてその程度はどのくらいなのか、不調の原因が業務に起因するものなのかあるいはプライベートでの事情によるものなのかについて見極め、通常の業務遂行が引き続き可能なのかどうかを早期に判断しなければなりません。

 メンタルヘルス不調に陥っており、なおかつその原因が業務によるものであった場合、企業としては、休養や配置転換などによりそのストレス原因を積極的に排除することを検討しなければなりません。不調の程度がひどい場合は休職させることも視野に入れて検討することになります。

 他方、メンタルヘルス不調に陥っているとまでは言えない場合、その従業員は単純に業務遂行上の能力が不足している者という可能性が高いわけですから、業務態度の改善のための是正指導をすることになります。それでもなお改善の余地が見込めないということであれば解雇も視野に入れて検討することになります。

それではこれら従業員のメンタルヘルスの不調の有無及びその程度、就業可能な状態か否かの判断を会社としては一体どのようにして為すべきでしょうか。これについては会社はメンタルヘルスの専門家ではありませんので、産業医を含む精神科または心療内科の医師など専門家の判断(診断書)に委ねざるを得ないところです。

休職中の対応

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(写真ACより)

 従業員がメンタルヘルスの不調により通常の業務遂行が不能のケースで、その不調に業務起因性がある場合、会社としては療養中の従業員につき業務不能だからとしていきなり解雇することはできません(労基法第19条)。まずは就業規則に基づき休職させることを第一選択として考えることになります。

 休職とは、ある従業員について労務に従事させることが不能または不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対し雇用関係を維持させつつも労務への従事を免除または禁止することをいいます。

 休職制度は主に就業規則において具体的な要件などを定めてはじめて適用できるものですので、昨今のメンタルヘルス問題の急増に備え、適切に対応できる内容にあらかじめ就業規則を整えておくことが非常に大切になります。

  私傷病による休職の場合は、就業規則に定められた休職期間を満了した後においてなお復職させることができないと判断した場合、会社としては、就業規則の定めに従い、その従業員につき自然退職または解雇をすることになります。

  休職期間が満了すると休職していた従業員から復職したいとの申出がなされるのが通常です。それを受け、会社としては従業員を復職させるべきか、具体的には従前の職務を通常の程度に行える健康状態にまで回復したといえるかどうかを判断することになります。この場合の判断については休職開始時と同様に専門医の診断によるべきです。メンタルヘルスの場合は肉体の怪我と異なりその性質上病状の判断が分かりにくく、複数の専門医が診断してもその意見が分かれる場合も往々にしてあります。主治医、産業医のほかに別の医師によるサードオピニオンを取るなど、復職可否の判断に際しては丁寧かつ慎重に対応する必要があります。

  なお、復職に際しては、休職期間満了後にすぐに従前の業務に復帰させるのではなく、休職期間中に休職状態のまま、1~2カ月ほどリハビリ出勤のような形で慣らし運転をして様子を見るというのも良い方法です。リハビリ出勤の段階でそもそもきちんと出社ができない、あるいは軽作業すらできないという状態であれば復職を認めないという判断に傾くことになります。

復職時の留意点

 メンタルヘルスの不調については一度休職期間を経て体調が復活したとしても比較的短期間で再び発症してしまうことが多いという特徴があります。

 会社が従業員を復職させる場合、会社としてはその従業員が出来る限りスムーズに従来の職場に復帰し、メンタルヘルス不調を再発させないよう配慮してあげる必要があります。

特に上司としては、その従業員の復職後の体調につき、遅刻欠勤がなく勤怠が安定しているか、仕事中に虚脱状態になるなど不安定な態度に陥っていないかなど勤務状態を十分に注意するとともに、当面の間は時間外労働やストレスのかかりやすい業務を対応させない、定期的に産業医やカウンセラーとの面談を実施させるといった配慮をしてあげることが必要です。

場合によっては、周りの同僚たちにきちんと不調の状況を説明したうえでコミュニケーションを積極的にとるなど職場全体での理解と協力を求めていくことも有用でしょう。

  それでもなおメンタルヘルスの不調が再発してしまった場合、会社としては再度の休職命令を検討することとなります。休職と復職を繰り返して今後も回復する見込みがないケースにおいては休職命令を出すことなく解雇や自然退職とさせるべきかも視野に入れて検討することになります。
ただ、その場合であっても専門医による判断を踏まえて慎重に対応すべきなのは言うまでもありません。

まとめ

 昨今は長時間労働など過度な負荷により従業員がうつ病を発症するというケースが非常に多く発生しています。

  会社としては雇用する従業員に対して安全配慮義務を負っています。従業員のメンタルヘルス不調につき、会社が適切な対応を怠っていたと判断された場合には損害賠償等の法的責任を負うおそれもあり、実際にメンタルヘルス不調の原因を巡って会社と従業員が争いになるケースや裁判例が多く発生しています。

  会社としてはすべての従業員が自社で安全かつ健康に業務に邁進できるよう日頃からきちんと準備して丁寧に対応するのと同時に、万が一メンタルヘルス不調を抱えてしまった従業員がいた場合には、会社全体の問題として受け止めて速やかに従業員に寄り添った対応をとることが大切です。

◎ 執筆者プロフィール
永滋康
永 滋康(えい しげやす)
慶應義塾大学法学部法律学科 卒業。中小企業法務、不動産取引法務、寺社法務を専門とする弁護士法人永総合法律事務所の代表弁護士。日本弁護士連合会代議員。第二東京弁護士会常議員。文部科学省再就職コンプライアンスチームメンバー。東京家庭裁判所 家事調停委員。
弁護士法人 永 総合法律事務所HP:https://ei-law.jp/
寺社リーガルディフェンス:https://ei-jishalaw.com/ 

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