東北を起業家の楽園にしたい|会津電力株式会社 常務取締役/RYOENG株式会社 代表取締役 折笠哲也さんの熱い想い
「東北を起業家の楽園にしたい」と熱い想いを語る折笠哲也さん。RYOENG株式会社 代表取締役、会津電力株式会社および同グループ会社の常務取締役などを務め、排水GX(グリーントランスフォーメーション)事業を展開しながら、東北から起業家を輩出する活動に尽力しています。自らの生きる目的をエネルギーに変え、東北から日本を、日本から世界を変えていこうとする魂の起業家・折笠さんに、会津電力とRYOENGでの取り組みを中心に、これまでの歩みと今後のビジョン、ステークホルダーへの想いなどについてお伺いしました。
◎聞き手:加藤俊
「自分は何のために生きているのか」。生きる目的が起業のモチベーションに
加藤
折笠さんは、排水GX事業を行うRYOENG株式会社の代表取締役の他、会津電力株式会社をはじめとする、再エネ発電事業を行う会社でそれぞれ常務取締役を務め、さらには地元ワイナリーの役員に参画していると伺っています。いずれも地域に根ざした事業展開を行っていますが、起業家になろうと考えたのはいつ頃からなのでしょうか。
折笠
まず私のことについてお話しさせてください。小学校の頃、私は「小学校のがん細胞」と呼ばれ、友達は「折笠君と遊んじゃ駄目」と親に言われていました。今でいうADHD(注意欠如・多動症)です。そのため中学・高校とあまり集団にはなじめない子どもでした。
その後、航空自衛隊に約1年、その後パナソニックの販売子会社を経て、東京のTWOTOPという自作系のパソコンショップに転職しました。当時は上場を目指すほどの勢いのある会社でしたが、80億円の負債を抱えて民事再生法を申請。私は調達部門のナンバー2だったので、幹部と弁護士と共に、債権者とのハードな交渉に立ち会い、人間の怖さと優しさ、法律やお金に対する責任などを学びました。
会津に戻り、母親が経営していた居酒屋を継ぎ、3店舗まで広げたものの経営に行き詰まりました。東京での経験がフラッシュバックして、「今度は自分が会社を倒産させてしまうかもしれない」と、うつになりました。
この時、「自分は何のために生まれてきたのか、何のために生きるのか」と深く自問自答しました。そして、私が一番うれしいのは、人が幸せになることなどだと気付き、これからの自分はそのために生きていこうと決めました。この時期に親しい仲間が自ら命を絶ち、私は世界から自殺をゼロにするために生きようと、具体的な目標が生まれました。こういった体験を通じ、私が生きる目的となるモチベーションが形成されてきたのですね。
そして、2011年3月11日に東日本大震災が起きました。くしくも私の40歳の誕生日でした。居酒屋にお客さまは全然来なくなり、会社がつぶれそうな状況になりました。
福島第一原発の影響で、福島の子どもたちにホールボディカウンター(体内に存在する放射性物質を計測する装置)を寄付しようという動きがありましたが、自分は1円も寄付できませんでした。「こんな一大事のときに、地域のために何もできないのか。何のために経営してきたのか」と、本当に悔しい思いをしました。ここで、稼ぐ力、いざというときに困っている人を支援する力を持たなければいけないということに、あらためて気付きました。
このときに、株式会社MAKOTO代表取締役の竹井智宏さんからEO(Entrepreneurs’ Organization)を紹介されました。EOは世界的な起業家組織で、全世界で約1万5千人のメンバーがいます。ここで、いろいろな仲間たちと学び、成長させていただいております。
このような経緯を経て、現在は、RYOENG株式会社の代表取締役の他、再エネ発電事業を行う会津電力、アイパワーセット株式会社、アイパワー株式会社で、それぞれ常務取締役を務めています。
また、ワイナリーのアイプロダクツ株式会社でも常務取締役、一般社団法人会津自然エネルギー機構では理事を務めて再エネ啓蒙活動を行っています。
EO North Japanについてはこちらから
持続可能な社会づくりと地域のエネルギー自立を目指す会津電力株式会社
加藤
会津電力の設立は、当時大きなニュースとして、多くのメディアに取り上げられました。会津電力についてご紹介いただけますでしょうか。
折笠
東北大震災での福島第一原子力発電所事故をきっかけとして、原子力発電(原発)に依存しない安全で持続可能な社会づくりと会津地域のエネルギー自立を目指すために、2013年8月に喜多方市で設立されました。
当初は雪国で太陽光発電事業をやることは無理だといわれました。いろいろな人に相談したのですが、「風で飛ばされたらどうするのか」、「雪が降ってばかりいて発電しないだろう」などと、ネガティブな意見ばかりでした。しかし、ヨーロッパでは、安全性を担保し、事業コストを低減して実用化されている。海外ではパネル面にきちんと傾斜を付けて雪が落ちやすいようにするなどのさまざまな工夫をしているのです。
このような先進事例と事業構想をもとに、銀行から1,500万円ほど融資をしてもらい、実証実験をする場所を造りました。そこで、どうやったら日本で事業採算性が確保できるかを検証しました。パネルの角度を0~55°まで変えて、架台もさまざま組み方をして、監視カメラで撮影してデータを取りました。その結果、雪国での施工方法を確立しました。例えば、通常は架台の高さが40~50cmですが、2.5mと非常に高くしたり、パネルの配置や角度など、いろいろなことを工夫しています。
このような努力をしながら、リスクも取りつつ、地元の金融機関から資金を借り入れ、地元の企業に発注して、地元に資金を循環させるという仕組みを説明して回った結果、会津にある17市町村のうち8市町村、5つの金融機関、83の企業・個人から出資をしていただき、会社を運営しています。
議決権の3分の2以上はわれわれ役員が持っていますから、第三セクターではありません。責任はわれわれが取りながら、スピーディーに意思決定するというのが特徴です。第三セクターの弊害としては、リスクを取らない、チャレンジをしない、議案がなかなか議会を通過しないといったことがありますが、会津電力にはそういった心配はありません。
住民説明会のときには、最初に必ず次のような話をします。「自治体に出資してもらっています。ですから、われわれは変なことは絶対にできません。とはいえ、100%安全なことはあり得ません。万が一、問題が起きたら、われわれは地元の人間なので決して逃げません。必ず問題解決のための対応を行います」。こういう説明をすると、その後、多くの方に理解していただきやすくなります。
商売は信用が全てです。いろいろな方々から出資していただいているということは、強烈な信用になります。出資者して頂いた皆さんのおかげで、事業が展開できるのです。
「白馬の王子様はやってこない。自分たちで何とかするべきだ。」
加藤
当時、「地元の名士が主体となって設立したことで、信金・信組なども出資をしてくれた」という記事を読んだ記憶があります。実際にその要素は大きかったのでしょうか。
折笠
そうですね。やはり特に佐藤彌右衛門さんと遠藤由美子さんの存在が大きいと思います。特別顧問の佐藤彌右衛門さんは、創業225年を超えた大和川酒造店の九代目です。元監査役の遠藤由美子さんは、震災当時に福島県の教育委員長をされていました。お二人とも地域のご意見番という存在です。代表取締役社長の磯部英世さんも、消防団長として地域に根差した活動をしてきましたし、地元大手ゼネコンの番頭役も担ってきました。取締役会長の山田純さんは、時価総額が世界33位の大企業・クアルコムの本社副社長や、日本法人の社長・会長を歴任しています。本当にいいチームだったと思います。
彼らに私も含めたチームで、何度も自治体に足を運び、「金もうけをするのでなく、次世代のためにこういうことを実現したいのだ」という話をしました。震災直後でしたので、この事業の必要性は理解していただきました。しかし、実績がないということで、初めはどこの自治体も首を縦に振ってくれませんでした。
それでも17市町村を全て説明したところ、磐梯町の町長が「分かった。まず、うちが出す」と英断を下してくれました。彼はかつて耶麻郡のトップをされていたので、他の耶麻郡3町村にも声を掛けてくれて、同時に参画いただけました。その後、実績を認めてくれた他の4町村も賛同してくれて、現在8市町村から出資を受けています。
われわれはエネルギー事業をやりたいのではなく、自治をしたいのです。
佐藤彌右衛門さんは、しばしば次のように言います。
「白馬の王子様はやってこない。自分たちで何とかするべきだ。誰かが何かをしてくれるという時代はとっくに終わっている。会津には、豊かな食、エネルギー、水、文化、歴史など、足元にたくさん素晴らしいものがある。何かよそから持ってこなくても、今、足元にあるもので豊かに暮らしていける。この豊かな社会を子どもたちに引き継いでいくのだ」。
彼は「ブレーキの壊れたダンプカー」と称されるくらい、強烈なリーダーシップで率いてくれます。他の再エネ事業者から「なぜ会津電力さんはうまくいったのですか」と聞かれるのですが、私は「間違いなく、佐藤彌右衛門さんのリーダーシップだと思います」と答えています。70歳になりましたが、ものすごくエネルギッシュです。もう少し抑えたほうがいいのではないかと思うほどですが(笑)
「四方よし」を実現し、収益を地域の未来をつくる子どもたちに還元する
折笠
会津電力には、現在、88カ所の太陽光発電所と、1カ所の小水力発電所があります。数は少ないですが、われわれは設立当初から水力発電にはかなり力を入れています。会津には、原発5基分の水力発電所があり、首都圏に電力を供給しています。もともと豊富な水力資源があるので、有効活用をしたいと考えています。ただし、太陽光発電以外は開発期間も長く、専門知識も必要になります。われわれも水力発電に関しては、簡易調査も含めて100カ所で調査しました。
海外メーカーにも何度も出掛けて現場を視察してきました。海外は、オイルショック以降、化石燃料に依存しないように技術開発を続けてきていますので知見が豊富です。特にヨーロッパは先進的で、小水力発電機のメーカーもたくさんあるのです。
その結果、ようやく会津若松市で小水力発電所を稼働できるようになりました。2019年4月から運転を開始した戸ノ口堰小水力発電所で、最大出力は31.4kWと非常に小さいものですが、年間5万円を20年間、合計100万円を子どもたちの教育のために、市へ寄付しています。現在では4カ所で開発を進めています。
バイオマスの分野では、既存のLPガスボイラーを、木を燃料としたペレットボイラーに置き換える熱供給事業を行っています。
風力発電では、川内電力株式会社という子会社をつくり、2023年3月に運転開始予定です。130mという非常に大きな風車を3基回します。完成後は、年間数百万円を20年間、川内村の子どもたちに寄付します。もちろん、会社の運営費用の確保や、次の事業への投資は行います。しかし、余剰が出たら地域に還元するようにしないと、地域の方々からの理解が得られないと考えています。その還元先は、未来をつくる子どもたちです。
当時は村長も建設に反対の立場でしたが、何度も伺って趣旨を説明することで、ご理解いただけるようになり、今は一緒にお酒を飲むくらいの仲になっています。また、住民説明会でも反対意見はありましたが、同様の説明をして賛同していただけました。
われわれは地域のために事業を行うことを大切にしています。われわれ、自治体、住民、そして未来世代も含めた「四方よし」を実現しているのです。
東北・会津の希望となるために上場を目指すRYOENG株式会社
加藤
折笠さんが代表取締役を務めるRYOENG株式会社についてもご紹介いただけますか。
折笠
RYOENG株式会社は、設立当初は太陽光発電システムの販売・設計・施工をメインの事業としていましたが、これからは排水GX事業をメイン事業にしていきます。排水処理をするとともに、排水を脱水・乾燥処理したものをエネルギーとして利用する取り組みを行っています。この機械は中国のメーカーの製品ですが、弊社が日本の総代理店として契約しています。また、弊社自身がメーカーとなって開発しているものもあります。
通常の排水処理では、凝集剤を入れて不純物と水に分けて、排水しています。残ったゼリー状の不純物も99%が水分です。産業廃棄物処理は重量で価格が決まるため、脱水・乾燥処理で絞り、約20分の1の重さにしています。弊社が開発したものは、さらにその半分の重さにすることができます。当然、廃棄物処理費用も半分になります。
折笠
ここまで脱水・乾燥させていくと、汚泥によっては燃料化できるようになります。そのまま工場で燃料として使えるようになれば、そもそも廃棄物処理費用が不要になります。燃えやすく、結果的に排出されるCO2の大幅削減にもつながります。この機械を自治体の下水処理施設などに設置していただくビジネスを展開しようと思っています。
また、ハムやソーセージなどの工場の排水では、ラードなどの油が出て処理に困っています。これを弊社の技術で燃料化することを考えています。排水中の油を燃料化することはとても難しいのですが、何とかできそうなところまできています。これができるようになれば、コストが大幅に削減されますし、その油を使って発電もできればCO2削減にもなります。これからこの技術は世界でも展開していきたいと思っています。
資金的に余力のない小さい会社が水処理装置を入れられずに困っているので、何とかしたい。また、貧困で苦しむ世界の子どもたちの多くは、水からくる下痢で命を落としていくので、ゆくゆくは水処理技術で世界の水環境を改善したいのです。
加藤
折笠
今後、弊社は上場を目指しています。上場の目的は、分かりやすい信用がほしいということに尽きます。地域を良くするためには、地元企業、住民、自治体、金融機関など、いろいろな人に協力していただかなくてはいけません。影響力がなければ、何を言っても絵に描いた餅になってしまいます。そのために上場したいのです。会津にはまだ上場企業がありませんから、実現すれば大きな希望になると思います。
もう一つは起業家育成の観点からです。会津での起業の成功モデルを示し、会津で起業家をどんどん増やしたいのです。東北を起業家の楽園にしたい。世界からも「起業するなら東北」と言われるようにしたいのです。東北の現状は、若者が流出して、あまり魅力がない地域のように感じる人もいますが、実際は素晴らしい精神文化があって、本当にいいエリアだと、自信を持って言えます。四季もより深く感じられる本当に素晴らしいエリアです。
東北から日本を変え、日本から世界を変えていきたい
折笠
弊社では、まず企業として収益確保を目指しますが、その資金の出口は次世代育成です。また、会津と世界をつなぐハブとなる企業を目指しています。地方を元気に、そして、日本を元気にしていきたいのです。
私は親しい仲間の自殺という悲しい体験を通じて、世界から自殺をゼロにすることが、生きる目的、働く目的になっています。これは自分1人ではできないことですが、志ある起業家が数多く育つことで、その夢はいつか実現できると思っています。その仕組みがEOにはありますので、仲間たちと共に起業家育成プログラムを立ち上げています。
社会起業家のプラットフォームをつくり、社会を再構築したい。お金を稼ぐことに価値を置く時代は終わり、今は全世界がSDGsの方向に進んでいます。貧困など、既存の資本主義で取り残された課題を解決しなければなりません。東北を、そういったソーシャルビジネスの最先端の地にしたいと思っています。
私は、高杉晋作の「おもしろきこともなき世を面白く すみなしものは心なりけり」という言葉が大好きです。まさにそのとおりだと思います。世界は非常に不公平で、全く平等ではありませんし、むしろ残酷です。だからといって、批判しても仕方がありません。どのように変えていくかということは、まさにわれわれの心の持ちようや行動に懸かっていると思います。そういった思いを持った素晴らしい仲間と行動していけば、いつの日か必ず世界は変えられる。そう思っています。
東北は、人口減少という同一の危機感で皆がまとまりやすいため、逆にチャンスだとも言えます。皆が「地域のために」と活動していくことで、大きなうねりが起きると思います。東北をとても楽しく、笑顔で生きていけるエリアにして、日本・世界に影響を与えていきたいですね。
日本人のまじめさ、サービス精神、他を思う気持ちは、世界に誇れる精神文化です。これだけでも日本はポテンシャルが高い。日本が世界でリーダーシップを取ることもできると考えています。
東北から日本を変え、日本から世界を変えていきたい。世界から自殺がゼロになり、戦争も貧困もなくしていきたい。そのために、そう思う起業家を増やしていきたいのです。
世界で貧困に苦しんでいる子どもたちは、対岸の火事ではありません。自分たちの子どもも、そうなるかもしれません。自分ができることをしていきたいのです。大事なことは、自分事だと捉えることです。そう思ったとき、他者への感謝が生まれます。人は1人では生きられませんので、感謝を忘れてしまうと破滅に向かいます。感謝に気付くことが、とても大事だと思っています。無力と微力は違います。微力でもいいから行動を起こすことが大切なのです。
◎企業情報
RYOENG株式会社(リョウエン株式会社) 旧社名:会津太陽光発電株式会社
https://ryoeng.co.jp/
代表者:折笠哲也
所在地:〒969-6214 福島県大沼郡会津美里町冨川字古屋敷3
TEL:0242-93-9333 FAX:0242-93-9336
設立:2012年2月
従業員数:8名(役員2名、社員6名)
会津電力株式会社
https://aipower.co.jp/
代表者:磯部英世
取締役会長:山田純
常務取締役:折笠哲也
監査役:五十嵐乃里枝
特別顧問:佐藤彌右衛門
所在地:〒966-0014 福島県喜多方市関柴町西勝字井戸尻48-1
TEL:0241-23-2500
設立日:2013年8月1日
従業員数:9名(役員3名、監査役1名、従業員5名)