
人手不足や後継者不在に悩む地方企業、成長の壁に直面するスタートアップ。その一方で、豊かな経験を持ちながら、年齢を理由に活躍の場を狭められるシニア人材がいる。プロ人材機構は、その経験を「経験資本」と捉え、企業の課題解決に生かす事業を展開している。
年齢ではなく、「経験」をどう生かすか
企業が壁にぶつかったとき、必要なのは新しい知識だけとは限らない。過去に似た局面を乗り越えた人の判断、失敗から得た知見、組織の中で人を動かしてきた実感が、次の一手を支えることがある。
一方で、豊かな経験を持つシニア人材が、年齢というフィルターによって労働市場から弾かれてしまうこともある。働きたいシニアがいる。人手不足や後継者不在に悩む企業がある。それでも両者が十分につながっていない。
プロ人材機構は、この状況を単なる人材のミスマッチではなく、既存の労働市場にある構造的な課題として捉えている。同社が向き合うのは、50代後半から70代の経験豊かな経営層・プロ人材の知見を、企業の課題解決に結びつけることだ。
同社は2024年1月に設立された「インパクトスタートアップ」である。東京都港区赤坂に本社を置き、経営層・プロ人材に特化したヘッドハンティングおよびアドバイザリー事業を展開している。掲げるミッションは、「個人の経験知を、社会資産へ。一人の物語を次代の力へ変える。」というものだ。
「スペックや人脈」ではなく、課題解決に伴走する
プロ人材機構の特徴は、シニア人材をフルタイムで独占することを前提にしない点にある。必要な時に、必要な分だけ知見を共有する「プロビジョンシェア」や、経営層のヘッドハンティングを通じて、企業の課題に合わせた関わり方を設計している。
同社が重視するのは、「スペックや人脈の切り売り」ではない。シニアが培ってきた「修羅場や失敗の意思決定の歴史」を、企業の課題に合わせて“翻訳”することだ。同社はこの知見を「経験資本」と表現している。
経験は、そのまま置くだけでは活用しにくい。どの企業に、どの課題に、どのような形で生かすのか。その接続が重要になる。プロ人材機構は、相手企業の課題に応じて最適なポジションを創出し、企業に入り込んで従業員と共に汗をかきながら、ノウハウをインストールする実務型支援を目指している。
代表は、25年にわたり累計3万人以上の経営層と面談してきたヘッドハンターである。同社では、その面談実績に基づく「目利き力」と、シニア同士の対等な目線で行う後方支援体制を強みとしている。コアメンバーも平均年齢70歳のプロフェッショナルで構成され、若手社員と共に世代を超えてフラットに働いている。
地方企業の承継課題に、シニアの経験をつなぐ
同社が特に課題として見ているのが、地方企業の人材不足と後継者不在である。地方では、優良企業が「後継者がいない」という理由で倒産の危機に陥ることがある。こうした現実に対して、プロ人材機構は「シニア×地方創生プロジェクト2026」を立ち上げ、地方企業へプロ経営者としてシニア人材を紹介している。
後継者という言葉からは、若い人材を思い浮かべがちだ。しかし同社は、数々の修羅場をくぐり抜け、人の事情に耳を傾ける「余裕」を備えたシニアが適していることがわかってきたとしている。
大企業や都市で経営層として活躍した経歴は、地域に根差す企業において信頼を得やすいという現実もある。また、シニア人材の中には、利益一辺倒ではなく、地方への貢献や知識・経験の伝承への関心が高まっている人も多いという。
ここで同社が目指しているのは、単に人を紹介することではない。シニアの「経験資本」を、地方創生のための「公共財」として社会実装していくことだ。シニア活用を「福祉」としてではなく、知見を社会全体で使い倒すべき「公共財(コモンズ)」として定義している点に、同社の視点が表れている。
スタートアップの成長の壁に「もう一人の創業者」を
プロ人材機構が向き合う対象は、地方企業だけではない。成長痛に苦しむスタートアップやベンチャーも、同社が支援を想定する企業である。
スタートアップやベンチャーの経営者が直面する成長の壁や組織の危機は、シニアが過去に経験し、手痛い失敗を重ねてきた課題かもしれない。同社は、そうしたシニアの失敗経験を、若い経営者が同じ失敗を繰り返さないための知見として捉えている。
インタビューシートでは、シニア人材を「人生の先輩」であり、「もう一人の創業者(No.2)」として巻き込むという表現が使われている。経営者の孤独に寄り添い、共に未来を切り拓くプロ人材との「信頼の橋」をかける。それが、同社が提供しようとしている価値である。
若き情熱と、シニアの経験資本が交わることで、事業運営に新しい視点が入る。プロ人材機構は、その接点をつくる役割を担っている。
「超高齢化」を経験資本市場として捉え直す
プロ人材機構の長期ビジョンは、日本が世界に先駆けて直面する「超高齢化」を、社会課題ではなく、日本最大の「経験資本市場」として再定義することにある。
「若さ」だけでなく「経験」が循環する社会を目指す。同社はその具体的な目標として、2030年までに1,000件の地方事業承継支援の実現を掲げている。
そのために、単に人材を紹介するだけでなく、経験資本を組織へ定着させる「オンボーディング支援ツール」の開発や、シニアが過去の肩書を外して次への挑戦を語り合える「知のシェアリングコミュニティ」の展開も進める。
同社は、インパクトスタートアップ協会(ISA)の一員として、経験資産の社会実装を通じ、地方創生と経済の持続的な成長の両立という課題に挑んでいる。
経験は、個人の中に眠ったままでは社会の力になりにくい。だが、それを必要とする企業や地域につなぎ、課題に合わせて翻訳し、現場に定着させることができれば、次の世代を支える力になる。プロ人材機構の取り組みは、シニア人材を「支援される側」として見るのではなく、社会を動かす知見の担い手として捉え直す試みである。




