
元警察官として現場を見てきた岸田考平氏。目の当たりにしてきた社会の実態への課題意識をもとに、2023年、大阪でPlusFixer株式会社を立ち上げた。「明日を創る力になる」を掲げ、官公庁向けの装備資機材レンタルから認知症サポート、リスクマネジメントのコンサルティング、警備業まで幅広く展開する同社。既存の枠組みでは拾いきれない悩みや課題を、警察官時代の知見を活かしてサポートしている。立ち上げの背景や事業への想い、そして次世代に残したい未来について、岸田氏に話を伺った。
既存のソリューションでは解決できない領域の「受け皿」となる
大阪府を拠点に、“困難をサポートするサービス”を生業としているPlusFixer株式会社。代表の岸田氏は元大阪府警の捜査官であり、また再雇用・再々雇用の場を提供しており同社は、長年の経験によって培われた知見を社会に還元している。
「守るために何をするべきか。そして攻めるならどこなのか。警察官として培った視点を、依頼者のために活かしたくて会社を立ち上げました」と話す岸田氏。創業時から会社の基盤となっている事業が、企業の危機管理コンサルティングと被害に遭われた個人への相談業務だ。ストーカー、DV、児童虐待相談といった人に相談しづらい内容や、警察への相談で大ごとにはしたくない、弁護士への相談はハードルが高いなど、既存のソリューションでは解決が難しい問題の新たな受け皿となる。
「警察官だった当時、立場の関係で伝えたくても伝えることができないことがありました。でも今は、民間という立場だからこそサポートできることがあります。過去の経験と知識をもとに、今、どういう形で伝えられるか。私たちは第三の受け皿としてサポートします」(岸田氏)
内部にいた人間だからこそ分かることを、今は民間の立場からサポートできる。その逆転の発想が、同社のサービスの基盤となっている。
そして現在力を入れているのが、認知症サポート事業だ。警察官時代、岸田氏は生活安全部で、認知症にまつわる問題がなかなか解決に至らない現実を数多く目にしてきた。繰り返す徘徊行動、警察での長時間預かり、家族の負担…重大な社会問題にもなっている。実際、1日に複数人の徘徊者を保護したことも数知れないといい、年々増加しているのが現状だ。
そこでPlusFixerでは警察OBを再雇用・再就職する形でマンパワーを確保し、認知症を取り巻く支援体制を整備。届け出代行、GPS導入、自宅搬送業務を担う仕組みを提供している。社会貢献と雇用創出を両立させる仕組みを整えており、セーフティネットのような形で警備業を活用している。
そのほかにも、官公庁向けの装備資機材のレンタル業務も同社ならではだ。警察や自衛隊を対象に、最先端の監視カメラや水中ドローンといった捜査支援資機材を提供。数多くの事件の捜査が同時に進む中、捜査本部が所有する機材だけでは到底まかなえない。また、予算等の関係から、最新の機械を揃えることも難しい。そこで、民間ならではのスピード感で最新機材を貸し出し、捜査の現場がスムーズに進む支えとなることを目的としたサービスだ。
さらに、警察官時代に岸田氏が得意としていた情報解析サービスも請け負っている。官公庁の捜査・調査、あるいは企業内で秘密裏に行われる内部調査など、機微な情報を扱う場面で活用される。会社内で横領事件の疑いが生じたケースなど、表沙汰にせずに事実関係を確かめたい状況で頼られる存在だ。
「警察官ではなくなり、令状もないので強制捜査はできません。でも、役割分担だと思っています。警察は公的権力として令状や法律に基づいて人助けをしていますが、一方で、警察では助けられないこともある。そういうところに、当社が違う側面から相談に乗って、心のケアまでする。どちらも人助けとしては同じです」(岸田氏)
警察官25年のキャリアから、独立という選択へ
岸田氏は高卒で警察官の道へ進んだ。就職氷河期と重なり就職に苦戦していた当時、「人の役に立つ仕事ができるなら」という思いで警察の門を叩いたという。交番勤務を半年したのち、機動隊、さらに薬物捜査を経験。その後は人身売買の捜査などを中心に関わっていた。
そうして現場を重ねるうち、社会の裏側で起きていることを目の当たりにしていく。
「知れば知るほど、こうやって社会は成り立っているんだな、という裏側の仕組みが見えてくるんですよね。その中で、うまく立ち回ってお金を違法に稼いでいるのは分かるけれど、もし法に触れなかったらこの金額で成り立つのだろうかとか、今まで自分らが調書で取ってきた内容は本当なのかとか、社会の構造的なところに興味がわいてきたんです。
また、スカウトの事件に関わる中で、誰が被害者なのかがわからなくなることもあったんですよ。被害者である女の人に『お金を稼がなきゃいけないのに邪魔するな』『働く場所がなくなるからやめてくれ』と言われるわけです。だから、こういう状況を作ってしまったお金の循環の仕組みがそもそもあかんと思ったんですよね。そういう社会を取り巻く仕組み側から、何かできることがあるんじゃないかと考えるようになりました」(岸田氏)

そして25年勤め上げた警察官を退職。岸田氏は当時の思いをこう振り返る。
「周りからは当然反対されました。でも今の時代、警察官の定年退職後の再就職先がなくなってきているんですよ。今でさえそうなら、自分の頃はもっとないだろうなと。そっちの方がむしろ不安でした。チャレンジするなら50代では遅いだろうし、40代の今、腹を決めようと思いました」(岸田氏)
退職後は警察時代の同期の声掛けで建設会社に転じ、現場監督を経験。その後、警察OBのつながりから人が集まり、2023年、PlusFixer株式会社を設立するに至った。元上司やかつての先輩、同僚との信頼関係が、そのまま事業の骨格となっている。
社名に「Plus」と付けたのは、「本来的あるものに付加するサービスでありたいから」だという。OBたちの知識と経験により、新たな立場からそれまでできなかった困難を解決できるようになる。これこそ、同社の目指す姿だ。
知識は財産。社会に信用と安全を
―仕事で大事にしていることを教えてください。
岸田:信用と安全です。これはクライアントに対しても当たり前ですが、社内に対しても同じです。僕は従業員の皆さんが、ずっと警備員でいる必要はないと思っています。身体を壊したり、心を病んでしまったり、仕事が嫌になったりした人のリハビリの場でいいと思うんですよね。しんどいと思ったら頼ってもらう。そういう、社会にとってのセーフティーネットであることが、当社の会社の存在意義だと思っています。
─警察OBの方の老後のキャリアについて、どのように考えていますか。
岸田:再就職先で困っている人が増えていて、なんとかできたらと思っています。だから、うちではOBに関して基本的に年齢制限を設けていません。80歳であれ、90歳であれ、年齢に関わらず知識は財産ですから。
逆に、警備業には指導教育責任者という資格を持った人が必要で、これを持っている警察OBは多いんですよ。しかも、一般の方がその資格を取るより、警察経験者の方が理解度が深いと感じることが多い。だから、私たちの仕事にも必要な存在なんです。
お互いに警察というバックグラウンドを持つ者同士、みんなでこの業界を明るく盛り上げていけたらと思っています。

挑戦と安心を支えるセーフティーネットでありたい
──これからの未来のビジョンを教えてください。
岸田:何よりも、この会社を継続させていきたいです。これからの時代、途中でリタイアする人がどんどん増えていくと思います。そういう人たちのセーフティーネットであり続けたい。当社で今働いてる方には、「いつでも辞めていいよ」と伝えています。お金がある程度貯まったら、やりたいことにチャレンジしたらいい。失敗したら戻ってきたらいいと。
みんなそれぞれの形があっていいと思うんですよね。逆に、それで成功をつかんで、「そのきっかけがPlusFixerだった」って言ってくれてる方が嬉しいです。
──「それぞれの形があっていい」という考えは、どこから生まれたのでしょうか。
岸田:僕自身がそうだったんですよ。もともと、警察になりたいという強い意志があってなったわけでもなく、人から「白バイ向いてる」と言われたから白バイに乗ってみて、怖いと思ったからやめて。人との縁で薬物捜査の道を進んで…。そういう巡り合わせで今があるんです。
白バイ専門になりたいとか、レジェンドと呼ばれる人になりたいと思ったこともありましたよ。でもいろいろな人がいて、その人に合っていること・やりたいことがありますから、それをしたらいいと思うんです。

─「挑戦の背中を押すこと」と「受け皿になること」の両方を大切にされているのですね。
岸田:無理はしないでほしいけれど、何をするにしても諦めてほしくないと思います。「もし何でもできるならやってみたいこと」って、誰しも持っていると思うんです。自分のお店を持ちたいとか、経営者になりたいとか。周りからは「無理だよ」と言われるかもしれませんが、一回やってみてほしい。その時に、戻れる場所があれば安心して頑張れるじゃないですか。当社をそういうセーフティーネットだと思ってほしい。
その人の人生だから、引き止めもしないし、一歩踏み出すのを応援します。でも、もしその人が戻ってくる時は、きっと何かを得た状態で戻ってくると思うんですよね。そうしたらそれがうちの会社の力にもなる。そうやってお互いに支え合いながら業界を盛り上げていく、そんなあり方もいいんじゃないかと思うんです。
◎企業情報
会社名:PlusFixer株式会社
所在地:大阪府大阪市北区堂山2-8-11 共栄ビル
設立:2023年
代表:代表取締役 岸田 考平
URL:https://plusfixer.biz/
◎インタビュイー
PlusFixer株式会社 代表取締役
岸田 考平



