
2025年、企業の人手不足はついに臨界点に達した。東京商工リサーチの調査によると、同年1月から9月までの人手不足に関連する倒産は過去最多の285件を記録し、年間で300件を超える見通しとなった。採用難と人件費の高騰が、多くの中小企業の経営基盤を静かに、しかし確実に蝕んでいる。
だが、視線を移すと風景は一変する。
画面の向こうに広がる71万人の潜在労働力
ヘッドセットを身につけ、真剣な眼差しでモニターに向かう担当者。画面の向こうには、自宅からオンライン会議に参加する女性たちの顔が並ぶ。タスクの進捗や業務の改善点、そして時にはプライベートな悩みまでが交わされるこの光景は、株式会社アイドマ・ホールディングスのオフィスでは日常のひとコマだ。彼らは、企業が嘆く人手不足という空洞を、在宅ワーカーという潜在労働力の熱量で埋めようとしている。

同社が2015年から展開する主婦向けの在宅ワーク求人サイト「ママワークス(mama works)」は、現在、国内外で登録会員数71万人を突破した。この数は、単なるサービスの登録者数に留まらない。育児や介護、あるいは居住地といった制約によって従来型の勤務が難しくとも、働きたいという強い意欲を持つ人々がこれだけ存在しているという、日本社会に眠る潜在労働力の確かな規模を示している。なぜこれほどの働き手が集まり、そして企業は彼女たちを頼るのか。
単なる求人媒体の枠を超え、企業と働き手の双方に伴走する同社経営支援事業部の事業部長・奥澤裕人氏に、AI時代における新たなワークインフラの実像を聞いた。
営業支援の雄が人材に注力する理由。アイドマ・ホールディングスの正体
アイドマ・ホールディングスは2008年の設立以来、長きにわたり国内の中小企業を支援し続けてきた。売上の約66%を営業支援サービスが占める同社は、いわば営業分野におけるトップランナーである。そんな同社が、なぜ主婦向けの在宅ワーク求人サイトという人材支援領域に乗り出したのか。その答えは、同社が中小企業の経営課題と向き合い続けてきた歴史の中にある。
奥澤氏
「アイドマ・ホールディングスとしては、累計で2万社以上の企業様の伴走支援をさせていただいてきました。中でも、人手不足や営業のお悩みは当然深刻ですが、何か一つの問題を解決しただけで業績が好調になり全てが上手くいく、というような簡単な話ではありません。営業支援で売上が上がれば、今度はそれを回していくための人材が必要になり、『人が採れない』という新たな問題が生まれます。移り変わる経営課題や、複数の課題が同時に発生しているのが中小・ベンチャー企業の実態なのです」

奥澤氏が語るように、企業が抱える課題は複雑に絡み合っている。そこで同社は、営業、人事、AI活用、バックオフィスの効率化、さらには資金調達など約19種類に及ぶ支援パッケージをクラウドユニットとして用意し、企業の状況に合わせてカスタマイズする統括的な支援を展開している。その解決策の重要なカードの一つとして位置づけられているのが、在宅ワーカーの活用なのだ。
「ママワークスの運営において、私たちは自らを求人媒体の会社というより、コンサルティング会社であると捉えています。コンサルティング会社が、その手札として在宅ワーカーの活用をご提案している、という表現が実態に近いです」
単なる人材マッチングにとどまらないこの伴走する姿勢こそが、同社の支援を独自のものにしている。そのコンサルティングの哲学は、彼らが展開する主力プラットフォーム「ママワークス」の根幹にも色濃く反映されているのだ。
掲載がゴールではない。ママワークスが実現した独自の仕組み
企業の経営課題を解決する一環として、2015年に産声を上げたママワークス。主婦が在宅で働くためのサイトとしては国内でも先駆け的な存在であり、当時はまだ在宅ワークという言葉さえ浸透していなかった。それがコロナ禍を経て爆発的に伸び、今や71万人の会員を抱える一大プラットフォームへと成長した。
ママワークスが圧倒的な支持を集める背景には、一般的なクラウドソーシングサービスとは異なる決定的なビジネスモデルの違いがある。
通常のクラウドソーシングでは、プラットフォームが仕事の仲介に入り、手数料を徴収するケースが多い。さらに案件ごとの単発契約になる場合が多く、長期的な関係構築が難しい。ママワークスは、企業とワーカーが直接契約を結ぶ求人サイトの形をとっており、間に手数料が発生しないため、企業はコストを抑えることができる。契約形態も業務委託に限らず、アルバイト、契約社員、あるいは在宅の正社員まで、双方が納得すれば自由だ。
「あくまで求人サイトなので、仕組みとしては一般的な就職情報サイトと同じです。ただ、普通の求人媒体は『載せたら終わり』ですよね。私たちは載せてからが始まりなんです」

ママワークスの集客とワーカーへの啓蒙活動は類を見ない手法で行われている。サイト内には、先輩在宅ワーカーの体験談、仕事の選び方、必要な準備、さらには「在宅ワークあるある」といったコラム記事が数千本も蓄積されているのだ。大規模な広告宣伝に頼るのではなく、在宅ワークの働き方に悩む人々が検索を通じてこれらの記事に辿り着き、SEO(検索エンジン最適化)によって自然と会員数が増加していく盤石なシステムが構築されている。
そして驚くべきは、それらの記事を執筆しているのが、ママワークスを利用する在宅ワーカー自身であるということだ。
「ママワークスに登録しているライターが、同じくママワークスのユーザーを取材して記事を執筆しています。この地産地消のエコシステムが完成しているからこそ、圧倒的なスピードで質の高いコンテンツを拡充できるのです」
在宅ワーカーが在宅ワーカーの悩みをすくい上げ、自らの実体験に基づく言葉で解決策を提示する。この地産地消のメディア運営こそが、働き手の不安に寄り添い、ママワークスという場への深い信頼を醸成する原動力となっている。だが、この信頼はプラットフォーム上の仕組みだけで築かれているわけではない。その根底には、ワーカーたちのリアルな声に日々耳を傾け続ける、徹底した同社の現場主義が存在する。
私たちこそ最大のヘビーユーザー。仕事を創出する3ステップの伴走支援
アイドマ・ホールディングスがこれほどまでに在宅ワーカーの心理や課題に精通しているのは、彼ら自身が最大の実践者だからである。現在、同社には約3,500人もの在宅ワーカーが稼働している。
「私たち自身が在宅ワーカーのヘビーユーザーであり、毎日彼らと接し、プライベートな相談にも乗っています。それが一番の強みです」
アイドマ・ホールディングスはママワークスを通じた人材の紹介にとどまらず、企業に対してどのような業務を在宅化できるかという業務の切り分けから、採用、そして日々の運用ルールの策定までを一貫してサポートする伴走型コンサルティングを行っている。そのリモート組織構築の支援実績は、延べ6,500社に上る。
特に同社が注力しているのが、第一段階である業務の切り分けだ。多くの中小企業は、人手は足りないが、何の業務なら在宅で任せられるのかわからないという悩みを抱えている。そこで同社がコンサルタントとして入り、経営者と月に一度のミーティングを重ねて業務の棚卸しを行う。「その業務は在宅ワーカーにお願いできますよ」「他社でもこのように在宅化しています」と提案し、切り出せる業務を一つひとつ可視化していくのだ。
「私たちがコンサルタントとして入ることで、『あ、それならお願いしてみようかな』と企業側に気づきが生まれます。この瞬間に、在宅ワーカーができる新しい仕事が一つ増えているわけです。コンサルティングを通じて、ある意味で在宅ワーカーさんたちの仕事を私たちの手で増やすことができているともいえます」
こうして新たに創出された仕事に対し、面接のノウハウや契約書のひな型提供といった採用のサポートを行い、最後に勤怠管理やタスク依頼の手法といった運用ルールを定着させる。この「切り分け・採用・運用」の三位一体の伴走支援があるからこそ、在宅ワーク未経験の企業でもリモート組織の構築が可能になるのである。
在宅ワーク特有の孤独を打ち破る。信頼を生み出す雑談とリアルな場づくり
自社での大規模な運用と、これほど膨大な企業の支援現場から見えてきたのは、在宅ワークならではの孤独と信頼関係の不足という切実な課題だった。オフィス勤務であれば、食事や休憩時間での自然な会話から人となりを知り、信頼が育まれていく。しかし、通常の在宅ワークにおいて、そのような余白の時間は生まれない。
「人間関係を構築するような雑談が生まれないと、深い信頼関係を必要としない限定的な業務しかお願いできなくなってしまいます。だからこそ、オンラインミーティングの場で意図的に人間的なコミュニケーションをとる時間を確保する必要があるのです。例えば、ミーティングの後半はプライベートな話や悩みを共有する時間にあてましょう、といったルールづくりを利用者の皆さまにもご提案しています」
業務の進捗確認だけでなく、あえて時間を割いて対話を重ねる。この一見非効率に思える取り組みが、結果的にワーカーのモチベーションを高め、業務の質を劇的に向上させるのだという。
オンラインでの対話に加え、リアルな絆を育む場づくりにも余念がない。同社では半年に一度ほどのペースで「パートナー感謝祭」と題したイベントを開催し、全国に散らばる在宅ワーカーたちをリアルな会場に招待している。普段は画面越しでしか会えないチームメンバーが直接顔を合わせ、親睦を深める貴重な機会だ。会場にはキッズスペースが完備され、クリスマスの時期には社員自らがサンタクロースに扮して子どもたちをもてなすという徹底ぶりだ。

さらに、2020年8月からは在宅ワーカーの子どもを対象とした「オンラインdeキッズスクール」事業も開始している。プログラミングやそろばん、オンラインでの料理教室などを提供することで、子どもが学んでいる間に親が仕事に集中できる環境を作っている。
「在宅ワークを推進している私たちだからこそ、在宅ワークが当たり前になったあとの親子の関係や、家庭のあり方について考えなければなりません。収益を追求するだけではなく、在宅ワークを取り巻く家族のあり方に関わり続けることにも使命感を持って事業を進めています」

単なる働き方支援にとどまらず、在宅ワークが定着した後の家族のあり方までを見据えたこの事業は、同社がいかにワーカーの生活背景全体を包摂しようとしているかを如実に示している。
国境も年齢も超える潜在労働力。時差と経験を価値に変える新市場
「働きたい意欲があるにもかかわらず、従来の労働環境で働くことが難しい人々を社会と繋ぐ」。ママワークスが切り拓いたこの理念は今、子育て世代の主婦という枠を超え、より広範な潜在労働力の発掘へと向かっている。
その象徴とも言えるのが、海外在住ワーカーやシニア層の台頭だ。 現在、同社を通じて働く海外在宅ワーカーは約9,000人を数える。彼女たちにとって、物理的な距離や時差はもはやハンデではない。例えばドイツに在住するあるワーカーは、日本の終業時間に合わせて業務を引き継ぎ、日本時間の翌朝までに翻訳や資料作成を納品するというサイクルでチームに貢献している。地理的な制約がない在宅ワークにおいて、時差はむしろ24時間稼働するチームを生み出す付加価値へと転換されているのだ。
さらに、「ママワークス」という名称でありながら、60歳以上のシニア層も約15,000人が在宅ワーカーとして登録している。長年のキャリアで培った専門知識を持ちながらも、定年退職や体力的な問題で第一線を退いていた彼らが、再び企業の最前線で力を発揮し始めている。
育児や介護に追われる世代、海外移住者、そして第二のキャリアを歩むシニア層。これまで労働市場の周縁に置かれがちだった人々が、テクノロジーを介して企業活動の中心に関わるようになっているのだ。アイドマ・ホールディングスは、こうした日本社会に埋もれた潜在労働力がもたらす経済効果を、GDPの約1%(約5.8兆円)に匹敵すると試算している。
企業は人手不足の解消という至上命題をクリアし、働き手はライフスタイルを諦めることなくキャリアを継続する。まさに理想的なエコシステムと言えるが、現実の労働市場はそう単純ではない。意欲ある働き手がいかにして自らの価値を企業に認めさせ、キャリアを築いていくのか。そこには、明確な戦場選びの戦略が存在した。

戦略的な戦場選びがキャリアを決める。ミスマッチを解消するコンサル目線
労働市場の全体像を見渡せば、実は圧倒的に働き手が余っているのが実態だという。例えば、ママワークスで一般的な事務職の求人を出せば、わずか1日で30人、時には100人もの応募が殺到する。企業側は多数の候補者から選り好みができるため、自ずと採用の門戸は極めて狭くなる。
「応募が殺到する事務職の枠には、5年、10年の実務経験を持つ方も多く応募してきます。在宅ワークに向けてスキルを身につけたばかりの段階で、そうした経験者と同じ土俵で競うのは非常にハードルが高いのが現実です。ご自身のやりたいことを優先するあまり、あえてライバルの多い場所を選び、不採用が続いて自信を失ってしまうのは、戦う場所の選び方として少しもったいないと感じることもあります」

企業と働き手のミスマッチを解消するためには、自分自身のやりたいことだけでなく、企業が今、何を求めているかにも目を向ける必要がある。
一つの枠を争う事務職ではなく、例えば営業を支援するサポート業務や、新規事業の試行錯誤を共にするポジションなど、企業の売上や成長に直結する領域であれば、企業は意欲ある人材を常に求めている。競争率が比較的低く、熱意と円滑なコミュニケーション能力があれば飛び込める領域は確かに存在し、在宅ワークの中でも報酬が高めに設定されているケースも多い。
しかし、そうした未経験から始められる業務では、単なる代わりの利く作業で終わってしまい、中長期的なキャリアが描けないのではないかという懸念も残る。その問いに対し、奥澤氏は在宅ワークにおける実際のキャリアステップについて次のように語る。
「最初は一担当者として入ったとしても、長く働くうちに組織の運営側に回り、他の在宅ワーカーの採用面接や育成、マネジメントを担うようになったという方も多くいます。また、業務を通じて別のスキルが評価され、兼任するようになるケースもあります。現場の業務を最も理解している存在として信頼され、そのまま在宅の正社員へ登用されるケースも珍しくありません。中には事業のコアメンバーとして、より責任あるポジションを任されるようになった方も実際にいらっしゃいます」
案件ごとに単発で関わるのではなく、企業と長期的なパートナー関係を築き、求められる役割に応じて自身の領域を広げていく。この正社員的なキャリアアップが、在宅ワークという土俵でも十分に実現可能なのだ。自身のスキルに固執しすぎるのではなく、企業からのニーズに応えることで、確固たる居場所を築き上げる。これこそが、アイドマ・ホールディングスが提示する戦場選びの知見である。
そして今、この企業からのニーズの最前線に、かつてない新たな波が押し寄せている。それがAIの台頭だ。
人はもっと人と関わるために。AI時代における在宅ワーカーの価値とは
生成AIの急速な普及は、労働市場に「仕事が奪われるのではないか」という不安をもたらしている。特に在宅ワークの領域では、その代替リスクが懸念されているのも事実だ。しかし、現場の最前線から見えてくる景色は少し異なる。
ここ1、2年で、AIを活用できる人材が欲しいという求人は急激に増加しているという。ただし、多くの中小・ベンチャー企業が求めているのは、高度なITスキルを持つバリバリのAI専門家ではない。AIで何ができるのかという情報がまだ企業側に足りていない中で、こんなことができるのではないかと、対話を重ねながら一緒に手探りで試行錯誤してくれる人材へのニーズが高まっているのだ。
AIの正解がない今、完璧な専門スキルがなくともAIを自らの能力を拡張する武器として使いこなし、企業と共に泥臭く活用法を模索できる姿勢こそが、新しい在宅ワーカーの強力なアピールポイントとなる。
さらに、テクノロジーがどれほど進化しようとも、人間が果たすべき役割の本質は変わらないと奥澤氏は語る。

「人間の仕事とは何なのだろうか、と考えた時に、最後はやはりコミュニケーションになると思っています。AIが発達して人と関わらない仕事が自動化されれば、逆に私たちはもっと人と関わることに時間を使えるようになる。AIが人から仕事を奪うのではなく、私たちが人とずっと関わり続けるために、AIに仕事をやってもらう。そういう考え方が良いのではないかと思っています」
人手不足という日本社会の構造的な課題に対し、アイドマ・ホールディングスは「ママワークス」というプラットフォームと、徹底した伴走型コンサルティングを通じて一つの答えを示した。画面の向こう側に広がる71万人の潜在労働力は、単なる空洞の穴埋めではない。彼らが持つ熱量と多様な経験、そして新しいテクノロジーを貪欲に取り入れようとする姿勢は、AI時代における企業の最も強力な成長エンジンとなるはずだ。



