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株式会社HIROTSUバイオサイエンス

https://hbio.jp/

〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート22階

生物の力でがんの早期発見を支援する。HIROTSUバイオサイエンス・広津崇亮CEOの果てなき挑戦

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
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HIROTSUバイオサイエンス 広津崇亮CEO
HIROTSUバイオサイエンス 代表取締役 広津崇亮氏(撮影:綿引亮介、以下同)

厚生労働省の調査によると、日本におけるがん検診の受診率は依然として5割前後で推移している。検査に伴う痛みや時間的拘束、そして費用が大きな壁となり、早期発見の機会を逸している人は少なくない。

この長年の社会課題に対し、生物の特性を活用した新たなアプローチで検査の選択肢拡大を目指す企業がある。東京都千代田区に本社を置く株式会社HIROTSUバイオサイエンスだ。同社が提供する「N-NOSE®」は、線虫の嗅覚反応を利用し、尿を用いてがんのリスクを評価する一次スクリーニング検査である。本検査は確定診断を目的とするものではなく、医療機関での精密検査につなげるための一次スクリーニングとしての役割を担う。

基礎研究の成果を実験室に留めず、自らの手で社会実装へと導いた代表取締役の広津崇亮CEO。彼の異例のキャリアと、最新の研究成果、そして医療の枠を超えた社会貢献活動から、同社が描く「がん検査が当たり前になる未来」の輪郭に追った。

 

尿一滴で23種のがんを網羅。急成長する「入り口の検査」の実力

既存のがん検査の多くは、特定の部位ごとに異なる検査を受ける必要があり、受診者への身体的・経済的負担が大きかった。これに対し、N-NOSE®は体長わずか1ミリの線虫が持つ、がん患者の尿の中のがんの匂いを検知するという特性を利用している。

この技術により、一度の尿検査で胃がんや大腸がん、乳がんなど23種類のがんに関連するリスクについて判定することを目的としている。特筆すべきは、その簡便さである。2025年8月からは、全国どこからでもポスト投函による検体提出が可能となった。価格も16,800円(税込)と、全身網羅型の検査としては比較的導入しやすい価格帯を実現している。

事業としての成長スピードも目を見張るものがある。広津氏によれば、会社設立は2016年だが、検査機器の量産体制が整い本格的な販売を開始したのは2021年のことだという。現在、福利厚生等での法人導入企業数は約2,500社にのぼり、N-NOSE®を受検した人の数は100万人に迫る勢いを見せている。

同社はN-NOSE®を確定診断ではなく、あくまで「入り口の検査(一次スクリーニング)」と位置づけている。受検をきっかけに医療機関での精密検査につながるケースも増えており、早期発見への新たな導線としての役割が期待されている。手軽にリスクを把握し、早期発見への導線を作ること。それこそが、がんを治療可能な病気へと変える第一歩となるからだ。

 

難治がん・すい臓がんの特定と再発予測へ。岐阜大学との共同研究が示す希望

N-NOSE®の技術は現在、一次スクリーニングの先にある「がん種の特定」へと進化を遂げつつある。全身網羅的な一次検査で高リスクと判定された後、具体的にどこにがんがあるのかを絞り込むためのプロセスだ。このがん種特定検査では、線虫の嗅覚受容体を遺伝子組み換え技術によって操作するという画期的なアプローチがとられている。特定の部位のがんの匂いだけに特異的な反応を示すようカスタマイズされた特殊な線虫を用いることで、がん種の特定を可能にする仕組みである。

中でも同社が注力しているのが、早期発見が極めて難しく、生存率が低い、すい臓がんへのアプローチだ。

すい臓がんは、根治的とされる手術を受けた後でも、12ヶ月以内に半数以上が再発するという過酷な現実がある。いかに早く微小な再発の兆候を捉えるかが、患者の予後を大きく左右する。

同社および岐阜大学医学部附属病院の発表(2025年12月29日付の国際学術誌『BMC Surgery』に掲載)によると、尿を用いたN-NOSE®の検査データが、すい臓がんの再発リスクを捉える予測因子となり得る可能性が示されたという。再発した患者において、術後のN-NOSE®の数値上昇が確認されたのだ。

広津
「すい臓がんは患者さんにとって長期的な不安を伴うがんの一つです。尿を検体として用いて、再発リスクを早い段階で捉える可能性が示された意義は大きいと思います」

すい臓がん特定検査を筆頭に、他の特定がんについても開発が着実に進行中だという

頻繁な画像診断や血液検査に比べ、手軽に繰り返せる尿検査は、再発の恐怖と闘う患者や家族にとって、心理的・肉体的な負担を軽減する新たな選択肢となり得るだろう。

 

日本の科学を救うため。リスクをいとわない科学者CEOの信念と夢

このような革新的な技術の背景には、広津氏自身の特異なキャリアと思想がある。2000年に英科学誌『ネイチャー』に線虫の嗅覚に関する論文を発表し、若くして実績を上げた彼は、なぜ大学の安定したポストを捨てて起業の道を選んだのか。そこには、日本の科学技術力の衰退に対する強烈な危機感があった。

「日本が科学立国と言いながら研究費を下げ始めた頃、私は大学の教員でした。博士号を取ってもポジションがなく、現在では博士課程に進む学生すら激減している。このままでは新しいものは生まれず、ノーベル賞も永遠に出なくなります」

広津氏は、大学の教授陣が国に研究費増額を訴える行動の正しさを認めつつも、「国が貧しくなっている中で訴えるだけでは政治家にも理解されず、意味がない」と冷徹に分析した。ならばどうするか。

「自分でリスクを負って外に営業し、こういうやり方をすれば研究費が集まるという姿を自ら実証しようと思ったのです」

ベンチャーキャピタルではなく、自ら事業会社や銀行を説得して回り、これまでに累計73億円超の資金を調達した。「科学者が輝く未来」という同社のタグラインは、単なる理想論ではない。科学者自らがビジネスの最前線で血を流し、新たな資金獲得の道筋を切り拓くという強烈なメッセージなのだ。

さらに広津氏の視線は、自身のビジネスの成功だけには留まらない。

「上場等による創業者利益で自分がお金儲けをしたいわけではないんです。やりたいのは、次世代の若手研究者の育成です。将来の夢は『大学を作ること』ですから」

既存の仕組みでは、資金を持つ者と研究の価値を審査する者が別々になりがちだ。しかし、科学者である彼自身が資金を持ち、目利きとして有望な研究に直接、圧倒的なスピード感で投資できる環境を作りたい。その壮大なビジョンの実現に向け、広津氏は自ら先頭を走り続けている。

同社のイメージキャラクター「線虫くん」
 

音楽の力で「生きる力」を。小児がん支援ライブで目にした輝きある情景

同社の「命と向き合う」という理念は、医療的アプローチとは別の側面からも実践されている。それが、2020年から継続的に支援を行なっている小児がん治療支援チャリティープロジェクト「LIVE EMPOWER CHILDREN」だ。

現在、小児がんに特化した検査は開発を進めているところだ。同社は研究開発を進めるとともに、医療技術と社会支援の両面から、今まさに病と闘っている子どもたちをエンターテインメントの力で支える活動にも取り組んでいる。

以前、大きなホールで開催されたライブで、小児がんを克服した子どもたちがステージに上がり、元気にダンスをする姿を見て、広津氏自身が深く感動したという。さらに2025年からは、外出が難しい子どもたちのために「病院サーキットライブ」が開始され、2026年1月には名古屋大学医学部附属病院に著名なアーティストたちが訪問した。そこで広津氏が目にしたのは、子どもたちの「生きる力」が爆発する瞬間だった。

「普段の治療は相当つらいものだと思います。でも、点滴を引きながら病室から出てきた子どもたちが、音楽を聴いて自発的にダンスをしたり、楽しそうに歌ったりしている姿を見ました。ああいう瞬間を作れるのは本当に素晴らしいことだと思います」

音楽が引き出す患者自身の生命力や前向きな感情は、厳しい治療を乗り越えるための確かな原動力となる。目先の企業利益を超え、社会全体で命を支える土壌を作ることこそが、同社の真意だ。
 

AI導入でさらに進化する精度。がん検査を日常の当たり前へ

受検者が100万人に迫るという実績は、単なるビジネス上の数字ではない。それは圧倒的なビッグデータの蓄積を意味する。

「受検者が増えればデータが蓄積され、精度は進化し続けます。実はこれまでN-NOSE®はAIを使わずにあの精度を出していましたが、現在、ビッグデータを解析するAIを用いた製品の開発・発売に向けた取り組みが進められており、データ解析の高度化による評価精度の向上が期待されています。」

発売当初から着実に向上してきた検査精度は、テクノロジーの掛け合わせによってさらなる次元へと突入しようとしている。

病気になってから多額の医療費をかけて治療する社会から、日常的な検査で未然にリスクを管理する社会へ。「生物の力で、がんの早期発見の機会を広げる社会の実現を目指している」。一人の基礎研究者の情熱と冷徹な実行力から生まれた線虫がん検査は、日本の医療構造、そして科学のあり方そのものを変革する可能性を秘めている。がん検査が特別なイベントではなく、日常の当たり前になる日は、そう遠くないかもしれない。

※本検査は医療機関における診断を代替するものではありません。
 結果に応じて医療機関での精密検査を受けることが推奨されます。

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ライター:

Webライターとして活動。主にエンタメ系、サステナビリティ関連の記事などを扱っています。

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