
小学館の漫画アプリ「マンガワン」をめぐる問題は、単なる炎上では終わらなかった。発端は、性加害で有罪判決を受けた作者を別名義で再び原作者として起用していた件だったが、その後に別の原作者起用問題まで明らかになり、3月には第三者委員会の設置にまで発展した。謝罪文や配信停止だけでは収束しなかったのは、読者や業界が求めるのは「遺憾である」という言葉ではなく、「誰が何を知っていて、なぜ止められなかったのか」という説明だからである。
「知らなかった」では済まない別名義起用が発端
小学館は2月28日、マンガワン編集部が『堕天作戦』作者の山本章一氏について、過去の未成年に対する性暴力事件と処分歴を踏まえて連載を中止していたにもかかわらず、別のペンネーム「一路一(いちろ はじめ)」で『常人仮面』の原作者として起用していたと公表した。
会社側はこの判断について「重大な瑕疵」があったと認め、作品の配信停止と単行本出荷停止を発表した。
重いのは、単に問題のある人物を起用したという一点ではない。
過去の経緯を把握しうる立場にいた編集部が、別名義という形で再起用を通していたこと自体が、組織の判断と管理体制の問題として受け止められた点である。
「ほかにもあった」ことが判明、問題はさらに深刻に
さらに事態を大きくしたのが、3月2日の追加公表だった。
小学館は『星霜の心理士』についても、原作者起用の経緯と確認体制に調査が必要だと発表。
J-CASTニュースなどは、「アクタージュ act-age」の原作者だったマツキタツヤ氏を別ペンネーム「八ツ波樹(やつなみ いつき)」で起用していたと報じた。
マツキタツヤ氏は、2020年に「アクタージュ act-age」の原作者として連載中に強制わいせつの疑いで逮捕・有罪判決を受けている。
小学館は公式発表でも、編集部は過去の有罪判決を把握した上で起用判断を行っていたと説明した。
つまり、山本章一氏に関する問題が偶発的な見落としではなく、編集部の判断構造そのものに疑問があるのではないかという見方が強まったのである。
謝罪を重ねても消えない不信感
小学館は3月9日、山本章一氏の事件について、被害女性への謝罪の機会を得たことを公表し、女性の尊厳を深く傷つけたと認めた。
さらに3月19日には、原因究明と再発防止策の策定のため第三者委員会の設置を決議したと発表。
通常であれば、謝罪、公表、外部調査の3段階まで進めば企業不祥事は一定の鎮静化に向かう。
にもかかわらず、この件が収まらないのは、責任の輪郭がまだ十分に見えていないからだ。
誰が起用を主導したのか、どの段階で社内共有がなされたのか。過去の事実を把握しながらなぜゴーサインが出たのか。
そこが曖昧なままでは、再発防止策もまた抽象的な言葉に見えてしまう。
問われているのは作品管理ではなく企業統治
この問題を出版業界内部の騒動として片づけるのは無理がある。
日本漫画家協会は2月28日、透明性のある調査と再発防止を求める声明を出しており、業界全体の信頼に関わる問題として受け止めている。
実際、ここで傷ついたのは作品ブランドだけではない。
被害者への配慮、読者への説明、現場の編集権限と会社の監督責任、そのすべてが一度に問われた。
作品を成立させるための編集判断と、人権侵害歴のある人物を再起用しないという最低限の倫理ラインが衝突したとき、会社がどちらを優先したのかが厳しく見られているのである。
第三者委員会の報告で本当に見たいもの
今後の焦点は明らかだ。
第三者委員会が、一般論としての再発防止策を並べるだけで終わるのか、それとも起用の意思決定過程と管理監督責任を具体的に示せるのかである。
読者が求めているのは、美しい反省文ではない。
どのような判断の積み重ねがあって、この問題が起きたのかという企業の内部構造の可視化である。
そこまで踏み込めなければ、今回の件は「説明した」のではなく「言葉を出した」だけだと受け止められ続けるだろう。
小学館マンガワン問題が収まらない理由はそこにある。



