
朝の通勤時間、ガソリンスタンドにはいつもより長い列ができていた。給油機の前に並ぶ車の運転席では、ドライバーたちがスマートフォンでガソリン価格のニュースを確認している。「また上がるらしい」。そんな声が交わされる。
中東情勢の悪化によって原油価格が上昇し、日本のガソリン価格にも再び値上げの波が迫っている。政府はレギュラーガソリン価格を1リットル170円程度に抑えるため、補助金制度の再開と石油備蓄の放出を決定した。今回の対策は、家計の燃料費にどの程度の影響を与えるのか。
中東情勢の緊迫で原油高騰 ガソリン180円の可能性
米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃以降、世界の原油市場は神経質な動きを見せている。中東地域での軍事衝突が拡大すれば、原油供給が滞る可能性があるためだ。
日本にとって、この問題は遠い国の出来事ではない。
日本は原油輸入の約96%を中東に依存している。主な輸入先はアラブ首長国連邦、サウジアラビア、クウェート、カタールなどだ。つまり、中東の情勢不安は、そのまま日本のガソリン価格に直結する。
特に懸念されているのがホルムズ海峡である。世界の原油輸送の重要な海上ルートで、日本向けタンカーの多くがここを通過する。もし安全な航行が難しくなれば、日本への原油供給そのものが減少する可能性もある。
こうした不安から原油先物価格は上昇。石油元売り会社が卸価格を引き上げる可能性が報じられ、店頭価格が180円を超えるとの見方も広がった。
その影響もあり、各地のガソリンスタンドでは値上げ前に給油を済ませようとする「駆け込み給油」の動きが見られている。
政府が補助金再開 ガソリン170円水準を目標
こうした価格上昇に対応するため、政府は燃料油価格激変緩和補助金を再開する。
この制度は、国が石油元売り会社に補助金を支給し、その分を卸価格に反映させることでガソリンスタンドの店頭価格を抑える仕組みだ。
政府はレギュラーガソリンの全国平均価格を「1リットル170円程度」に抑える方針を示した。
補助金は3月19日から支給される予定で、ガソリンスタンドの店頭価格に反映されるまでには1週間から2週間ほどかかる見通しとなっている。
高市早苗首相は記者団に対し、「中東情勢の先行きは依然として予断を許さない状況だ。事態が長期化する場合でも、国民生活を支える支援を柔軟に検討していく」と述べた。
この制度は2022年、ロシアによるウクライナ侵攻で原油価格が急騰した際に導入された。最も大きな抑制幅は1リットル41.9円で、当時は200円を超えかねないガソリン価格を抑える効果があった。
日本単独で石油備蓄放出 供給不安の払拭へ
政府はさらに踏み込んだ措置として石油備蓄の放出も決めた。
通常、備蓄の放出は国際エネルギー機関(IEA)と協調して実施される。しかし今回は、日本が独自の判断で放出に踏み切る。
共同通信によると、日本が単独で備蓄放出を行うのは1978年の制度開始以来初めてとされる。
放出されるのは次の備蓄だ。
民間備蓄 15日分
国家備蓄 約1カ月分
まず16日にも民間備蓄を市場に供給し、その後、国家備蓄を段階的に放出する。
現在、日本は約254日分の石油を備蓄している。政府はこの一部を放出することで供給不安を抑え、原油価格の過度な上昇を防ぐ狙いだ。
家計シミュレーション 年間燃料費はいくら増えるのか
ガソリン価格の変動は、家庭の生活費にも直接影響する。
仮にガソリン価格が170円から180円へ上昇した場合、どの程度の負担増になるのだろうか。
一般的な家庭用車の平均的な燃料使用量は、年間約800〜1000リットルとされる。
例えば次のようになる。
ガソリン170円
年間燃料費 約17万円
ガソリン180円
年間燃料費 約18万円
つまり、1リットル10円の値上がりで年間およそ1万円の負担増になる計算だ。
車を2台所有する家庭や、通勤距離が長い地方では影響はさらに大きくなる。
トラック輸送など物流業界では燃料費の割合が高いため、ガソリン価格の上昇は食品や日用品の価格にも波及する可能性がある。
いつ入れるべき?ガソリン価格が落ち着く時期
では、ドライバーにとって「給油のタイミング」はいつが良いのだろうか。
今回の政策スケジュールを見ると、大きなポイントは二つある。
一つは備蓄放出の開始である。
16日から市場に原油が供給されるため、供給不足の不安は一定程度和らぐ。
もう一つは補助金の開始だ。
19日から石油元売りに補助金が支給されるが、ガソリンスタンドの価格に反映されるまでには1〜2週間程度かかるとされる。
そのため、価格が比較的安定するとみられるのは「3月下旬から4月初め」と考えられる。
ただし、原油価格は中東情勢に大きく左右される。軍事衝突が拡大すれば、再び値上がりする可能性もある。
ガソリン価格の行方 日本のエネルギー政策の試金石
ガソリン価格は家計だけでなく、日本経済全体にも影響を与える。
燃料費の上昇は物流コストを押し上げ、食品や生活用品の値上げにつながる可能性があるからだ。
政府は今回、補助金と備蓄放出という二つの政策を同時に打ち出した。これはエネルギー危機への「防波堤」とも言える措置だ。
ただし、日本の原油輸入の大半が中東に依存しているという構造は変わらない。エネルギー安全保障の観点からも、今回の危機は日本のエネルギー政策を見直す契機になる可能性がある。
ガソリン価格を巡る攻防は、まだ始まったばかりだ。



