
ロケの最中、ほんの一瞬の転倒が、大きな代償を残すことがある。
元サッカー日本代表の 前園真聖(52)がテレビ東京の旅番組ロケ中に転倒し、右膝外側半月板を損傷する重傷を負った。全治半年。事故が起きたのはゲームの本番ではなく、ルール確認の最中だったという。しかも出演者側は事前に危険性を指摘していたとされる。元トップアスリートを襲った今回の事故は、ロケ現場の安全管理だけでなく、近年変化してきたテレビ番組の構造そのものを浮き彫りにしている。
ロケの一瞬の転倒が大けがに
事故が起きたのは2月28日。
テレビ東京の人気旅バラエティー番組「旅バラ・バスVS鉄道乗り継ぎ対決旅」のロケ中だった。
番組内のミッションとして予定されていたのは、ブランコに乗って靴を飛ばすというゲームだった。
しかし、本番前のルール確認の際、足元が不安定な斜面で前園はバランスを崩し転倒。右膝を強く痛めた。
診断は右膝外側半月板損傷。
マネジメント会社によると、全治は半年。日常生活で支障なく歩けるまでにも1カ月半以上かかる見込みだという。
前園は手術を受け、現在はリハビリに入っている。
「少しでも早く皆さまの前に戻れるよう頑張ります」とコメントしている。
元サッカー選手にとって半月板損傷はどういうケガか
半月板とは、膝関節の中でクッションの役割を果たす軟骨組織である。
太ももの骨とすねの骨の間にあり、膝の衝撃を吸収し、関節の安定性を保つ重要な部位だ。
サッカー選手にとって、半月板は特に重要な部位とされる。
急停止、方向転換、ジャンプ、着地。こうした動作のすべてで膝には強い負荷がかかるからだ。
そのためサッカー界では、半月板損傷は決して珍しいけがではない。
しかし一度損傷すると、膝のクッション機能が弱くなり、次のような影響が出ることがある。
まず、膝の痛みや腫れ。
次に、関節の引っ掛かりや不安定感。
さらに重症の場合、将来的に変形性膝関節症のリスクも高まるとされている。
現役選手の場合、競技復帰には数カ月から1年近くかかるケースもある。
引退後でも膝への負担は残りやすく、慢性的な痛みを抱える元選手も少なくない。
前園は現役を退いて久しいとはいえ、サッカー選手として長年膝を酷使してきた体だ。
その意味では、今回の負傷は決して軽視できるものではない。
出演者側は危険性を指摘していた
今回の事故をめぐって議論を呼んでいるのは、もう一つの点だ。
前園のマネジメント会社は、出演者側がロケ内容の危険性を指摘し、ゲーム内容の変更を求めていたと説明している。
しかし、その意向が十分に反映されないまま撮影が進み、事故が起きたとされる。
テレビ東京は謝罪を発表し、外部法律事務所とともに事故原因の調査を進めるとしている。
テレビ番組の収録では、出演者に対する安全配慮義務があるとされる。
制作側が危険性をどこまで認識し、どのような対策を取っていたのかが今後の焦点となる。
バラエティ番組で続くロケ事故
近年、テレビ番組のロケ中に出演者がけがを負う事故は少なくない。
歌手の MISIA は2020年、乗馬取材中に落馬して胸椎を骨折。
タレントの 松本伊代 は2022年、バラエティ番組の収録中に腰椎圧迫骨折。
俳優の 佐野岳 もスポーツ番組の企画で膝の大けがを負っている。
こうした事故の背景には、テレビ番組の構造変化があると指摘する関係者も多い。
テレビ制作費の減少と「旅番組」の増加
テレビ業界ではここ十数年、番組制作費が減少傾向にあると言われている。
広告収入の減少や視聴率低下が影響し、大規模なスタジオ番組やドラマ制作は以前ほど簡単ではなくなった。
その中で増えてきたのが旅番組やグルメ番組だ。
理由は単純である。
比較的少人数のスタッフで制作でき、スタジオセットも必要ない。
制作費を抑えながら番組を成立させやすいからだ。
しかし、同じ形式の番組が増えすぎると、今度は差別化が難しくなる。
そこで生まれたのが、
対決
ミッション
ゲーム要素
といった演出だった。
ただ移動するだけでは番組としてのドラマが弱い。
だから「ハラハラする仕掛け」を加える。
こうして旅番組は、次第にゲーム番組に近い形へと変化していった。
「面白さ」と安全のバランス
テレビは本来、視聴者を楽しませる娯楽だ。
そのためには多少のハプニングや挑戦も必要だろう。
しかし、今回の事故が示したのは、そのバランスの難しさだ。
元日本代表のアスリートでさえ、わずかな転倒で半年のけがを負う。
それは、ロケ現場が常に予測不能なリスクを抱えていることを意味している。
視聴者の多くが旅番組に求めているのは、必ずしも過激なゲームではない。
土地の風景や人との出会い、旅の空気感だ。
番組を「面白くする」ための演出が、出演者の安全とどう折り合いをつけるのか。
今回の事故は、テレビ制作の現場にその問いを突きつけた出来事でもある。
今後の焦点
前園の回復が待たれる中、テレビ東京は事故原因の調査を進めるとしている。
ロケの安全管理は十分だったのか。
危険性の指摘はどう扱われていたのか。
そしてもう一つ問われているのは、テレビ番組の作り方そのものだ。
制作費が減り、番組の形が変わる中で、テレビはどんな「面白さ」を目指すのか。
その答えを探る作業は、今回の事故をきっかけに、テレビ業界全体に求められている。



