
福岡県豊前市に拠点を置く豊前総合法律事務所。所長の西村幸太郎弁護士は、地方から日本の相続文化を変えようとしている。数多くの“争族”案件を手がけてきた現場経験を糧に、「予防こそ最大の法務」と語る。その視線の先には、地方創生と法務の融合がある。
紛争の現場から見えた「予防法務」の本質
西村弁護士のキャリアは、一貫して法と市民の接点に立つものだった。熊本大学法学部、広島大学法科大学院を首席で修了後、2013年に弁護士法人あさかぜ基金法律事務所での勤務を経て、2016年に豊前ひまわり基金法律事務所の所長に就任。以降、地域に根ざした法務サービスを提供してきた。
「多くの遺産相続のトラブル、いわゆる“争族”を経験してきました。けれども、紛争を経験したからこそ、事前の対策で防げることが多いと痛感しました」と振り返る。
その実感が「笑顔相続」という理念へと昇華する。「少し専門家に相談するだけで、争いを避けられるケースは多い。市民が気軽に弁護士にアクセスできる社会をつくらなければならない」と強調する。

地方のネットワークを「束ねる」存在へ
2019年、事務所名を「豊前総合法律事務所」に改め、地域の法務ネットワークを再構築した。人口減少や高齢化が進む地方において、法律事務所の役割はますます重要になっている。
「相続や終活、企業顧問など、地域の暮らしと経営を支える“インフラ”としての法務を強化していきたい。地方の弁護士がそれぞれの地域で活躍し、連携することで、日本全体にリーガルサービスを届けることができるはずです」。
その言葉どおり、西村弁護士は2025年7月から一般社団法人100年時代支援機構・終活研究会の専務理事として、終活の普及や専門家ネットワークづくりにも尽力している。
「終活」を戦略的法務へと昇華させる構想
豊前総合法律事務所が重視するのは「永続性」だ。西村弁護士は、事務所を法人化し、地域のインフラとして機能を強化する構想を描いている。
「終活は単なるエンディングではなく、“今を自分らしく生きる技術”だと考えています。事前対策型の法務を基盤に、終活支援事業者の経営支援まで踏み込み、地方における新しい法務の形を確立していきたい」と語る。
弁護士業務を“戦略的法務”へと進化させる発想の根底には、「法が地域を強くする」という信念がある。
地方から始まる法の再生
「地方にはたくさんの魅力があります。地方で働きたい、暮らしたいという人たちを支援し、弁護士もその一翼を担ってほしい」。
西村弁護士の言葉には、地方の未来を信じる熱がある。地域の課題に法務の力で向き合い、社会の構造を変えていく。紛争を終わらせるのではなく、争いを生まない社会をつくる。その舞台は、東京でも大阪でもない。豊前という小さな街から、日本の新しい“法の形”が静かに始まっている。

  

  
                
                
                
                
                
            
                
                
                
                
                
                
                
                
                
                