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1621枚… 「芸術のつもりが犯罪に」影山雅永事件が問う、AIと倫理の“境界線”

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PhotoACより

チリへ向かうエールフランス機の機内。
パリ上空に差しかかったころ、客室乗務員は一人の乗客に視線を止めた。
画面に映っていたのは、10歳前後とみられる少女の裸の画像。
のちにその男が日本サッカー協会(JFA)の技術委員長、影山雅永(58)であると知ったとき、フランス社会は静かに、しかし確実に反応した。
この事件は一人の失墜ではなく、AI時代の「表現」と「倫理」をめぐる世界的な警鐘となった。

 

 

フライトの静寂を破った“違和感”

パリ行きのエールフランス便は、定刻通りシャルル・ド・ゴール空港に到着した。
その直後、機内の一角で警察官が一人の男を拘束する。
日本サッカー協会・技術委員長、影山雅永。
チリで開催されるU-20ワールドカップの視察へ向かう途中だった。

現地メディア「ル・パリジャン」「ウエスト・フランス」「RMC」などによると、影山氏はパリ到着直後に逮捕され、数日後、ボビニー刑事裁判所で有罪判決を受けた。
罪状は「15歳未満の未成年者を対象としたポルノ画像の所持・閲覧・作成」。
判決は執行猶予付き懲役18か月、罰金5000ユーロ(約85万円)。
さらに10年間の未成年関連活動禁止、性犯罪者登録、フランス領土への入国禁止が命じられた。

 

「AIで生成したアート」認められなかった主張

裁判で影山氏は、「AIで生成した芸術的な画像だった」と主張した。
だが、フランスの裁判所はその弁明を退けた。
「生成過程がAIであっても、未成年者の性的描写は児童ポルノに該当する」
裁判官の言葉は明確だった。

フランスでは、実在・非実在を問わず、性的搾取を助長する表現は違法とされている。
法は、創作か現実かではなく、その表現が「子どもの尊厳を侵すかどうか」で線を引く。
その視点が、今回の事件を“芸術論争”ではなく“倫理の問題”として定義づけた。

 

1621枚 数字が示す「常習性」

「彼のデバイスからは1621枚の児童ポルノ画像が確認された」
「20ミヌイット」紙の報道は、衝撃的な数字を伝えた。
さらに、一部は影山氏自身がAIで生成したものであったという。
RMCは「彼は常習的に同様の画像を閲覧していた」と指摘し、偶発的ではない行為だったと報じた。

数字は冷たく、しかし雄弁だ。
1621という膨大なデータ量は、単なる誤解ではなく、明確な嗜好の積み重ねを示している。
フランス司法当局が下した厳罰は、その“常習性”を重く見た結果でもある。

 

JFAの即日解任、揺らぐ信頼

判決翌日、JFAは影山氏を即日解任した。
声明では「国際的信頼を著しく損なう行為」とし、詳細には触れなかった。
だが、影山氏がU-20代表や若手育成の責任者として長年にわたり指導に携わってきた経歴を思えば、その影響の深さは計り知れない。

「なぜ、子どもと関わる職業の人間が」。
多くのサッカーファンや教育関係者の間に、そんな思いが広がった。
一方で、フランスの明確な法運用を評価する声も少なくない。
「日本では曖昧な問題も、フランスでは一線を越えた行為として即座に裁かれる」
SNS上では、そうした比較も目立った。

技術の進化が生む“グレーゾーン”

AIが創作する画像や映像は、もはや現実と見分けがつかない。
「生成AI」は芸術、広告、教育など多様な分野で活用される一方、性表現の分野でも急速に広がっている。
問題は、その“創作物”が法の想定を超えていることだ。

日本ではAI生成による性的表現に関する明確な規制が存在しない。
「実在しないのだから問題ない」とする意識が根強い一方で、海外では「児童の性的搾取を助長する表現」として法的に禁じられている国も多い。
フランスの判決は、この領域に対する国際的な感覚の違いを浮き彫りにした。

 

「自由」の裏にある責任を見つめるとき

影山氏の言葉、「これはアートなんです」。
その一言に込められていたのは、AI時代の表現者が抱える一種の錯覚かもしれない。
技術が“創作”を容易にする一方で、社会は“責任”の所在を曖昧にし続けてきた。フランスの法廷が示したのは、「創作の自由と人権の尊重は並立しなければならない」という原則だった。
芸術と犯罪の境界は、技術の進歩の外側。つまり、人間の内側にしか存在しない。
影山事件は、それを私たちに突きつけている。

 

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ライター:

広島県在住。福岡教育大学卒。広告代理店在職中に、経営者や移住者など様々なバックグラウンドを持つ方々への取材を経験し、「人」の魅力が地域の魅力につながることを実感する。現在「伝える舎」の屋号で独立、「人の生きる姿」を言葉で綴るインタビューライターとして活動中。​​https://tsutaerusha.com

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