
漫画家・イラストレーター江口寿史に、写真トレース(いわゆる“トレパク”)疑惑が次々と指摘されている。発端は10月に予定されていた「中央線文化祭」屋外広告のビジュアル。モデルのSNS写真との酷似が検証され、主催は採用を取りやめ、企業コラボの精査も連鎖している。状況は深刻だが、数年前に“炎上の代名詞”となった古塔つみが、その後も活動を再開させ一定の露出を得ている事実は示唆的だ。本稿では、江口が信頼を取り戻すための具体的ステップを提案する。
広告取りやめ、過去企業コラボの精査、同業からの“距離”
漫画家・イラストレーター江口寿史に、写真トレース(いわゆる“トレパク”)疑惑が次々と指摘されている。発端は10月に予定されていた「中央線文化祭」の屋外広告イラストにトレース疑惑が浮上したことだ。モデル本人の写真との合致が検証され、主催側はビジュアルを差し替えた。そこから、トレース元画像の特定祭が始まり現在も続いている。
これを受け、Zoffやクレディセゾンなどのコラボ企業は広告素材について「確認して精査」の姿勢を示している。中でも、デニーズは「使用を控える対応」、ルミネ荻窪は「該当ビジュアルを今後一切使用しない」、桜美林大学は「利用取りやめやオンラインストアの販売停止を予定」などと、各社で使用停止の対応も進行中だ。
さらに人気イラストレーター中村佑介はX上で当初“対話の場”を提案したが、反発の広がりを受けて距離を置く判断に傾いたことが報じられ、同業者の支援も宙に浮いた。炎上は“現在進行形”だ。
過去の「古塔つみ大炎上」に学ぶ地獄と復活 トレパク・性別詐称疑惑・未成年女性自撮り集め…それでもアート界に戻れた理由
思い出されるのは、2022年にトレパクで大炎上したイラストレーター古塔つみ(ことう・つみ)の一件だ。
人気音楽アーティストYOASOBIのジャケットやポップカルチャー誌の表紙など、数々の人気案件を手がけていた彼女の絵が、実際にはネット上の写真素材や一般ユーザーの自撮りをトレースしていたとする検証画像が次々と投稿されたのだ。中には、もはやトレースですらなく画像加工のみで作品を完成させたと疑われるものもあった。
直近の江口寿史騒動のように次々とトレパク画像特定がされる中で、さらに騒動を拡大させたのが「古塔つみは実は男性では」という性別詐称疑惑だった。これは、古塔つみのSNSにアップされた写真が、あるFacebook男性ユーザーの写真背景と合致していたり、取材時に映り込んだGoogleアカウントのアイコンが先のFacebook男性ユーザーのものであったり、写真の反射で映り込んだ撮影者が男性であったりしたことで「ほぼ確定で男性」と言われている。にもかかわらずSNSやメディア出演では一貫して女性を装い、取材時には“替え玉女性”を登場させていた。加えて、「無料で似顔絵を描く」というメリットを提示し、未成年女性から自撮り写真を集めていたことが分かり、事態はさらに炎上。
結果、古塔つみは「許諾なく投稿・販売した一部の作品がある」と謝罪する一方で、「写真そのもののトレースはしていない」とトレース自体は否定した。2023年3月にはTwitterアカウントを閉鎖し、Instagramのみを残して沈黙。出版社や企業コラボも白紙化され、まさに“アート界最大級の信頼崩壊”と呼ばれるほどの騒動へ発展した。
しかしそれから数年後、SNSの熱狂が冷めたころ、再び彼の作品が静かに評価を取り戻し始める。表舞台から姿を消すことで、逆に「作品だけが語る」フェーズへと移行したのだ。
古塔つみ“再浮上”の鍵となった、静かな場の選択と作品前面戦略
古塔つみは拡散系プラットフォームであるXから撤退し、作品中心のInstagramへの回帰という導線を敷いた。批判の可視性が相対的に低い場で作品の純粋な鑑賞体験を再提示し、NFT販売や企画の再開など活動の“再始動”を点で積み上げた。
謝罪・釈明をしてしばらく沈黙し、非拡散のSNS構造である場で作品を発表し続けたことが、古塔つみの復活劇の鍵となったようだ。
江口寿史が再び信頼を取り戻すために
古塔つみは匿名・顔出しなしで活動していたため、謝罪・釈明後の沈黙期間があっても問題なかったのかもしれない。
ただ、江口氏のように法名・顔出しで長い間漫画界やイラスト界にいた重鎮であれば、創作活動とリアルの生活と密接であるため、長期間の沈黙というのは現実的ではないように思える。そのため、江口氏の場合は「迅速な事実開示」と「作品の再構成」の二本柱で回復を図るのはどうだろうか。
①事実開示
- トレース元とされる写真の出典・権利状況を開示
- モデル本人や写真家への謝罪・補償フローを公表
- SNS対応はXでの応酬を避け、声明文をnoteまたは公式サイトに集約
②作品の再構成
- 問題作のうち、同意が得られたものを修正版として再公開
- 今後の作品には参照素材ログ(出典・許諾ID)を明記
- 著作権教育プロジェクトなど社会的還元を実施
この段階を踏むことで、「逃げていない」「変わろうとしている」と世論の空気を変えられるかもしれない。
“言葉”ではなく“制作過程の開示と作品”で語り直す
今、江口寿史に必要なのは巧い謝罪ではなく「制作過程をオープンにすること」と、「作品で信頼を取り戻す覚悟」ではないだろうか。
炎上は才能を奪うものではないが、透明性の欠如は信用を奪う。
古塔つみのように、時間と場を選び「作品>自分」の姿勢で再出発することが、唯一の再生ルートかもしれない。