
「助産師の指導で娘の頭が絶壁になった」
高知市の両親が、市と助産師、県助産師会を相手取り、総額4,243万円の損害賠償を求めて提訴。衝撃の裁判は、子育て世代を揺るがす大問題へと発展している。
一方で医療関係者は「硬い布団で仰向け寝は、乳幼児突然死症候群(SIDS)予防の基本」と反論。命を守るための正しい指導が、なぜ法廷で争われる事態になったのか。
助産師の「硬い布団指導」が裁判に SIDS予防と「絶壁頭」のはざま
高知市の両親が、「助産師の指導で娘の頭が絶壁になった」として、市と助産師、県助産師会を相手取り、総額4,243万円の損害賠償を求めて提訴した今回の裁判。
赤ちゃんの命を奪う「乳幼児突然死症候群(SIDS)」は、厚生労働省も注意を呼びかけている重大リスクだ。予防のために「仰向け寝」「硬めの布団」「顔の周囲に物を置かない」などが国際的に推奨されてきた。助産師の指導はまさにこの方針に沿うものだった。
しかし両親は「娘は重度の短頭症(いわゆる「絶壁」)になり、将来に影響を与える」と主張。命を守る正しい行為と見た目を損なった責任が、真っ向から衝突しているのだ。
頭部変形(後頭部扁平、絶壁など)とは何か
乳児期の頭蓋骨は複数の縫合線が開いており、柔らかく可塑性が高い。このため、長時間にわたって同じ方向で頭を下にして寝る(向き癖)、あるいは接触面が偏るような圧力がかかると、後頭部などが平らになったり変形が生じたりすることがある。このような変形には、医学的には「短頭症(brachycephaly)」「斜頭症(plagiocephaly)」などの呼称が用いられ、俗に「絶壁」「後頭部ぺったんこ」などと呼ばれることもある。
軽度であれば自然に改善することも多いが、重度化してしまうと頭部・顔貌の左右差、整容的な印象、さらには耳の位置・顎のずれ、頭蓋内圧や脳発育への懸念を一部で指摘する声もある。
急増する「絶壁治療」、ヘルメット療法は40万円超でも大人気
ここ数年、全国で「頭のかたち外来」が続々と開設されている。なかでも注目されるのが ヘルメット治療(頭蓋形状誘導療法) だ。
・生後3〜12か月で開始
・1日18〜23時間装着
・治療費は40万〜50万円、自費診療
と、親の負担は大きい。それでも「将来の顔立ちに影響する」「将来本人がコンプレックスに思ったらかわいそう」などと考える親が殺到し、予約は数か月待ち状態だ。
また、SNSで「#ヘルメット治療」「#絶壁治療」と検索すると、熱心な親たちの治療経過写真付きの投稿が山のように見られる。
この人気と注目度は、「絶壁頭」が現代の親から敬遠されている現れであるとも言える。
命が最優先だが、「丸くてきれいな頭」も大事?
見た目の良さよりも「命を守ること」が最優先、これは誰もが認める大前提だろう。乳幼児突然死症候群(SIDS)の恐怖を前にすれば、医療者が「仰向け寝」「硬めの布団」を指導するのは当然であり、その選択肢を軽んじることはできない。
ただ、後頭部の変形は命に直結しないものの、成長後の外見や心理、日常生活の快適さに影響する可能性はある。高額で長期間の矯正治療を厭わない人もいるほど、「丸くてきれいな頭」は現代の親にとって手に入れたいものになってきているのかもしれない。
病院の説明責任はどこまで求められるか
「乳幼児突然死症候群(SIDS)予防のために硬い布団で」という指導は正しい。ただ、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスク低減を優先した上で、その過程で起こりうる頭部変形のリスクや、改善方法(体位変換・専門医受診など)を併せて説明することも、親にとっては重要な情報ではある。
この点において、命を守る指導が正しかったとしても「説明不足」が過失とされる余地はある。裁判所は、この線引きをどう判断するかを迫られている。
今後の医療指導や親の対応に影響を与える一件となるか
SNSでは、以下のような意見が挙がっている。
「判決次第では何を指導しても訴えられそうで、指導できなくなる」
「こんなことで助産師の責任が認められたら、助産師が減っていく」
「頭が変形したのは遺伝もあるかも」
「4243万円はどういう計算なのか」
今回の判決は、産後ケアにおける「説明責任の範囲」を明確にし、今後の医療指導や親の対応に大きな影響を与える可能性がある。SIDS予防を最優先としながら、子どもの生活の質(QOL)に配慮する――医療者と親がどう協働できるかが、今まさに問われている。