
子どもたちの憧れのおもちゃなどが付いてくるマクドナルドの「ハッピーセット」。その販売方法が大きく変わることをご存じだろうか。9月12日からの新シリーズは、初日からスマホでの注文ができなくなるという。なぜマクドナルドは、この異例ともいえる決断を下したのか。背景には、ある深刻な問題と、企業としての強い危機感があった。
ハッピーセットの販売に「3つの制限」を導入
日本マクドナルドが、9月12日から販売を開始する新しいハッピーセットについて、販売方法と個数を制限することを発表した。この措置は、転売目的の大量購入とそれに伴う食品の放置・廃棄を防ぐためのものだ。今回の変更は、これまでのハッピーセット販売には見られなかった、異例ともいえる厳格な内容となっている。
「モバイルオーダー」が停止、注文は店頭のみに
今回の最も大きな変更点の一つが、発売初日となる9月12日(金)の販売方法だ。 当日のハッピーセット販売は、店頭のレジカウンター、タッチパネル式注文端末、およびドライブスルーに限定される。 多くの利用者が日常的に活用しているモバイルオーダー、マックデリバリーサービス、さらにはUber Eatsや出前館といった外部の宅配サービスは、ハッピーセットに限り利用が停止される。
この措置は、転売目的の大量購入者が、スマートフォンやPCを通じて一度に大量の注文を入れることを物理的に困難にする狙いがある。実際に店舗に足を運び、行列に並び、従業員の目視がある中で注文するというプロセスを課すことで、より健全な販売環境を取り戻そうとするマクドナルドの強い意志が感じられる。なお、翌日以降(13日〜)の販売方法については、12日の販売状況を見て判断されるとのことだ。
「1グループ3個まで」の購入個数制限
ハッピーセットの購入個数にも、明確な制限が設けられる。 対象となるのは、以下の期間限定の2つの期間だ。
- 第1弾:9月12日(金)~ 9月15日(月・祝)の4日間
- 第2弾:9月26日(金)~ 9月28日(日)の3日間
この期間中、ハッピーセットおよび「ほんのハッピーセット」は、「1グループ1会計につき、それぞれ3個まで」となる。 例えば、おもちゃの「プラレール」と「マイメロディ&クロミ」はそれぞれ3個まで、ほんのハッピーセットの「シナモロールとあそぼう!」と「月 宇宙なんちゃら こてつくん」もそれぞれ3個まで購入が可能だ。また、同じグループによる複数回の購入も固く禁じられる。
このルールは、ハッピーセットを本当に求めている子どもたちに行き渡ることを目的としており、転売目的の買い占めを防ぐための重要な対策だ。 おもちゃは「プラレール」「マイメロディ&クロミ」、ほんのハッピーセットは絵本「シナモロールとあそぼう!」と図鑑「月 宇宙なんちゃら こてつくん」が今回の制限対象商品となっている。
なぜここまで?ハッピーセットを巡る”異変”と深刻な食品ロス問題
今回、マクドナルドが厳格な販売制限を導入した背景には、今年8月に発生した「ポケモン」ハッピーセットを巡る未曽有の混乱がある。
ポケモンカードを巡る熾烈な争奪戦
8月8日から発売されたハッピーセットでは、おもちゃに加え、人気のトレーディングカードゲーム「ポケモンカード」が付録として提供された。この企画は、子どもたちだけでなく、カードの収集家や、転売目的の大人たちの間で大きな話題となった。
発売初日から、多くの店舗でハッピーセットが瞬く間に完売する事態となった。一部の報道によると、マクドナルドは「1人5セットまで」の購入制限を設けていたものの、SNS上には、何度も店舗を往復して大量に買い求める客の写真が多数拡散された。本来、子どもたちのための企画であったはずが、熾烈な「争奪戦」に発展したのだ。
この買い占め行為は、本来ハッピーセットを楽しみたかった多くの子どもたちに商品が行き届かない事態を招き、社会問題にまで発展した。
転売ヤーが引き起こした「ハンバーガー大量廃棄」
さらに深刻だったのが、転売ヤーによる食品の大量廃棄問題だ。 ポケモンカードは、フリマアプリ上で高額で取引される人気アイテムだ。今回のハッピーセットに付属するカードも例外ではなく、SNSやフリマアプリには、20枚で1万5000円といった高額で出品される事例が多数見受けられた。
一部の心ない転売ヤーは、目的であるカードだけを手に入れるために、ハッピーセットを購入後、カードだけを抜き取り、ハンバーガーやナゲット、ポテトといった中身の食品をそのまま店内に放置、あるいはゴミ箱に捨てていくという行為に及んだ。
「大量のハンバーガーがゴミ箱に捨てられていた」「ナゲットがごっそり抜かれていた」といった痛ましい状況がSNSで拡散され、マクドナルドのブランドイメージを大きく損なうとともに、「食品ロス」という社会課題を浮き彫りにした。
この事態を受け、消費者庁も動いた。消費者庁はマクドナルドに対し、食品ロスにつながらないよう販売方法の改善を要望。この行政からの要請も、今回の厳格な対策につながった一因と見られている。
また、この一連の騒動を受け、マクドナルドは当初8月29日に発売を予定していた人気漫画「ワンピース」のカードが付くハッピーセットの販売を急遽見送ることを決定。さらに、サンリオのキャラクター「シナモロール」のハッピーセットも、予定より遅れて9月12日に延期されるなど、今後のハッピーセット企画全体に大きな影響を与えた。
「食品の廃棄は容認しません」企業としての強い決意と今後の展望
今回の対策発表に際し、マクドナルドは公式サイトで「マクドナルドは、食品の放置・廃棄を容認しません」と異例の強い言葉で警告を発した。
「ハッピーセットの転売目的での購入や再販売、その他営利を目的としてのご購入や、上記ルールやマナーをお守りいただけないお客様のご利用を固くお断りいたします」というメッセージは、健全な販売環境を守り、本来の顧客である子どもたちにハッピーセットを届けたいという企業の強い決意の表れだ。
今回の措置は、転売目的の大量購入者を抑制する上で一定の効果が期待できる。特に、モバイルオーダーの停止は、店舗に足を運ぶ手間をかけさせることで、転売ヤーの行動を物理的に制限する有効な手段と言える。
しかし、一方で「1グループ1会計」の制限は、店舗の従業員による目視や確認に頼る部分が大きく、完全な防止は困難との指摘もある。店舗によっては、別のグループを装って複数回購入するような不正行為が発生する可能性も否定できない。
今回の対策は、マクドナルドの今後のハッピーセット販売戦略に大きな影響を与えるだろう。今回の販売状況を検証し、転売対策の効果を見極めながら、今後の販売ルールを継続するかどうかを判断していくことになりそうだ。
私たち消費者は、今回のマクドナルドの決断を単なる「不便」として捉えるべきではない。今回の措置は、一部の心ない行動が引き起こした社会問題への対応であり、企業としての誠実な姿勢を示したものだ。
ハッピーセットは、ただのおもちゃ付きセットではない。子どもたちの笑顔を育むための大切な商品である。その価値を守るため、私たち一人ひとりが、ルールとマナーを守った購入を心がけることが、今後もハッピーセットが「ハッピー」であり続けるために必要なことなのかもしれない。
参照:9月12日(金)発売の「ハッピーセット®」ならびに「ほんのハッピーセット」の販売方法について (日本マクドナルド)