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ケニアの著名人権活動家ボニファス・ムワンギ氏が逮捕 政権批判の象徴に再び圧力

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Boniface Mwangi
Boniface Mwangi さん(Xより)

ケニアの著名な人権活動家であり、元フォトジャーナリストのボニファス・ムワンギ(Boniface Mwangi )氏が、2025年7月19日、首都ナイロビの自宅で警察当局により逮捕された。テロおよび放火の容疑が示唆されているが、現時点で明確な罪状は公表されておらず、人権団体からは強い懸念の声があがっている。

 

ムワンギ氏の妻であるンジェリ・ムワンギ氏がX(旧Twitter)で明らかにしたところによれば、「警察が夫の機器を押収し、犯罪捜査局の本部に連行しました。彼らは“テロと放火”について話していましたが、正式な逮捕理由は示されていません」と訴えた。

この逮捕は、2024年6月以降に激化した政府批判の声を背景に、政権が市民運動や反対意見への抑圧を強めるなかで発生した一連の弾圧の一環とみられている。

 

“レンズを武器に”:ムワンギ氏の思想と活動の歩み

1970年代後半に生まれたムワンギ氏は、かつて国際的なフォトジャーナリストとして活躍し、ケニア国内のスラム街や政治集会の写真を通じて社会不正義を可視化してきた。その後、「アートは沈黙を破る」と語り、市民運動へと軸足を移す。

代表的な活動の一つは、2011年に始めた反汚職キャンペーン「PAWA254(パワ254)」だ。これはアーティスト、作家、活動家が連帯して政治批判と表現の自由を訴える市民プラットフォームで、首都ナイロビの文化拠点にもなっている。

ムワンギ氏の思想の核には、「市民による政府監視」と「暴力に頼らない抵抗」がある。彼はしばしば「ケニアは選挙で選ばれた独裁国家だ」と語り、投票によって民主的正統性を得た政権が市民への暴力や弾圧を正当化する構造を強く批判してきた。

 

抗議の背後にある構造:東アフリカに広がる市民弾圧の潮流

ムワンギ氏の逮捕はケニアにとどまらず、東アフリカ全域に見られる政権による市民弾圧の象徴的事例として国際的な関心を集めている。

ケニアでは、2024年6月以降の財政改革に反対する抗議運動が続き、政府はこれに対して警察力を用いた厳しい弾圧を行ってきた。人権団体によると、過去1年で抗議活動に関連して少なくとも100人以上が命を落とし、7月7日のデモでは12歳の少女を含む38人が死亡した。

類似の市民弾圧は、隣国ウガンダやルワンダでも報告されており、いずれも「治安維持」の名のもとで反対勢力の声が封殺されている。特にムワンギ氏が5月に拘束されたタンザニアでは、死刑を伴う反逆罪で起訴された野党政治家トゥンドゥ・リス氏を支援していたことが拘束の背景にあるとされ、政治活動への露骨な干渉が浮き彫りとなった。

 

日本からは見えにくいアフリカの「沈黙を破る声」

日本ではこうしたアフリカの人権弾圧や市民運動の実情が報じられる機会は少ない。香港やウクライナの抗議運動に対する共感は強い一方で、アフリカ発の「民主化のうねり」は地理的・文化的距離から関心を持たれにくい。

しかし、ムワンギ氏が主張してきた「表現の自由」「政府の説明責任」「非暴力の抵抗」は、日本においても市民社会の根幹をなす価値である。アフリカが単なる「支援の対象」ではなく、自由と人権のために闘う主体であることを、日本社会が認識することは、民主主義の普遍性を考える上でも重要だろう。

 

東アフリカ司法裁判所(EACJ)の役割と今回の訴訟の意味

今回、ムワンギ氏とアトゥハイレ氏は、拘束中に拷問と性的暴行を受けたとして、東アフリカ司法裁判所(EACJ)に対し国家責任を問う訴訟を起こした。

EACJは、東アフリカ共同体(EAC)の加盟国における法律遵守や人権保障を監視するために設立された地域裁判所であり、判決には象徴的な重みを持つ。法的拘束力は限定的ではあるが、地域内外の人権基準に照らして政府の行為を公に審査することで、政治的圧力の緩衝装置として機能してきた。

ムワンギ氏の訴訟は、東アフリカにおける「司法による人権保障の実効性」を問う試金石とも言える。裁判所が政権側に人権侵害の責任を明確に認定すれば、地域的な市民社会の連帯にも新たな正当性を与えることになるだろう。

 

「沈黙させられた声」の連帯へ

ムワンギ氏の逮捕は、一人の活動家の自由の問題を超えて、表現の自由と市民の尊厳をめぐる国際的な闘いの一断面である。X上では「#FreeBonifaceMwangi」というハッシュタグが急速に拡散し、国内外の支援者による連帯が広がっている。

アフリカにおける人権の現場から、世界が学ぶべきことは多い。「アフリカは声を上げている」――この事実に、私たちはいかに応えるかが問われている。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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