
2025年7月15日、投資家であり情報戦に詳しい評論家・山本一郎氏が、自身のNOTEにて「参政党を支えたのはロシア製ボットによる反政府プロパガンダ」と題した長文記事を公開し、大きな反響を呼んでいる。
タイトルからも刺激的なこの投稿は、参議院選挙を目前に控えたタイミングで、日本のSNS空間がいかに“外部勢力”によって操作されているかを警告する内容となっている。
詳細については山本氏のNOTEを参照していただきたいが、本稿ではその要旨を概観しつつ、本当にその指摘は信頼に足るのか、そして今、私たちは何を考えるべきかを検証していきたい。
noteで暴かれた“認知戦”の構図
山本氏によれば、参政党や日本保守党などの“反政府的”な論調を強める投稿群がSNSで不自然にバズる背景には、ロシア政府とつながりがあるとされる情報工作集団が存在し、大量の“ロシア製ボット”が意図的にその初期拡散を担っているという。特にX(旧Twitter)やTikTok、YouTubeショートといったアルゴリズム主導のSNSが主戦場となっており、「怒りを引き出す投稿」や「切り取りによる印象操作」がトレンド化する構図が示されている。
NOTEでは、具体的なアカウント名やボット拡散のタイミング、疑惑の動画が多数提示されているが、それが本当に“ロシア製”かどうかについては、一般読者が確認する術は限られているのも事実だ。
“バズ”と“ボット”の関係は検証可能か?
山本氏の提示する仮説は、いずれも技術的知見に裏打ちされている。ただし、X社やTikTok社といったSNSプラットフォームは、利用者データやリポスト履歴を外部に公開していないため、一般に「ロシア製ボットが何千と動いている」という情報は、本人の取材や分析に基づいた推定値にとどまる。
実際、「クレムリンボット」や「ボットファーム」などの用語はアメリカの2020年大統領選などでも頻繁に登場したが、日本国内ではまだ実証研究や政府レベルでの情報公開が乏しい。
一方、たとえば米国では2024年に実際にロシア系のボットドメインが摘発されており、SNS世論操作の技術が確立されたものとして運用されている事実はある。その手法が日本にも持ち込まれている可能性は十分にあるだろう。
SNSの構造が生み出す“怒りの連鎖”
今回、山本氏が強調しているのは、SNSが本質的に「怒り」「憤り」といった感情を増幅しやすい構造を持っているという点だ。
実際、ガセネタであってもバズれば可視化され、他のユーザーが“怒り”を表明することでまたバズるという“感情のエコーチェンバー”が形成される。この流れにボットが初期ブーストとして関与しているとすれば、それは確かに世論形成の歪みを助長する。
SNS上で「#反日」「#石破売国」「#外国人優遇」などの強い言葉がトレンド化する背景には、ユーザー自身の不満や不安もある。だが、その感情が“誰かの意図”によって誘導されたものであるとすれば、私たちは一層警戒すべきだろう。
参政党は本当に“利用された”のか?
山本氏が名指しした「参政党」が、実際にロシアによって“支援”されていたかどうかは依然不明である。山本氏自身も、参政党が意図していたかどうかには言及を避けている。むしろ、重要なのは「誰でも使える」「誰でもターゲットにされる」情報操作の網の広さだ。
つまり、参政党もその主張が“利用しやすい素材”として選ばれただけであり、仮に選挙後に勢いを失えば、次は別の政党や著名人が同様の情報操作の餌食になる可能性がある。
分断社会と情報リテラシーの試練
今回のNOTE記事が示唆する最大の問題は、「我々が気づかぬうちに、認知を操作されている」ことだ。しかも、それが特定の“敵対勢力”による攻撃であると同時に、SNSプラットフォームの収益構造や、ユーザーの感情構造にも組み込まれている。
もはや「情報操作」という言葉では表現しきれない。これは“構造的な世論破壊”であり、私たちはそれに抗う術をまだ十分に持っていない。
まずは“疑って読む力”を
山本一郎氏のNOTEは、刺激的なタイトルと濃密な情報量によって、読者の注意を一気に引き寄せる書き方をしている。一方で、それを鵜呑みにするのではなく、「なぜこの情報が今、出てきたのか」「誰が得をするのか」という視点も常に忘れてはならない。山本氏のYouTube番組では、自民党や政権の側にたって作業していることなどが度々語られている。面白い番組ではあるが、そういったポジションをもった人だということは留意が必要だろう。
確かに、日本のSNSは今、外部からの影響を受けやすい。だからこそ、私たちはより慎重に、より多角的に、情報と向き合う必要がある。参院選が目前に迫るいま、この問題提起が「間に合うかどうか」こそが、もう一つの戦いの焦点なのかもしれない。