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前澤友作氏の資産管理会社に4億円の申告漏れ指摘 社債利子を巡る“擬似養育費スキーム”の実態と税務当局の判断

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前沢勇作のInstagramより
前澤友作さんのInstagramより

読売新聞の7月9日の報道によると、衣料品通販サイト「ZOZO」の創業者である前澤友作氏(49)の個人資産管理会社「グーニーズ」(東京都港区)が、東京国税局の税務調査により、2023年3月期までの4年間で計約4億円の申告漏れを指摘されていたことが明らかになった。

対象となったのは、同社が発行した社債の利払いを経費として処理していた点で、国税局は実質的に「税負担を減らす目的での不当なスキームだった」として、法人税法に基づく「行為計算否認」を適用し、経費計上を否認したとみられる。

 

税負担を減らす不当なスキームとは

このスキームでは、グーニーズが社債を発行し、前澤氏の税理士が設立に関与した都内のコンサルティング会社が全額を引き受けた。その後、同コンサル会社は、同額の社債を自社から発行し、前沢氏の知人女性が購入。グーニーズからコンサル会社に支払われた社債利子の大半が、さらにこの女性に支払われていた。資金の流れは「グーニーズ → コンサル会社 → 知人女性」であり、女性はこの社債を購入する資金として、前沢氏から低利で貸し付けを受けていたとされる。

こうした経緯から、国税局は、グーニーズが支払った利子の実質的受益者が知人女性であることを問題視し、これを「寄付」とみなし、法人としての経費計上を否認。さらに、社債発行による資金調達自体に合理性が乏しいとし、形式を整えただけの脱法的スキームであった可能性を指摘している。

 

グーニーズは利払いの経費計上以外にも経理ミスなどがあり、約4億円の申告漏れを指摘されたが、赤字などと相殺されたため、追徴課税は発生しなかったという。前澤氏側は知人女性について「養育義務のある子どもたちの母親」と説明しており、資金は養育費の趣旨であったとしている。グーニーズは「課税庁との見解の相違があったのは事実だが、複数の税理士の助言に基づき、適正に修正申告を行った」としている。

前澤氏は「私は納税義務から逃げも隠れもいたしません」とコメントを出し、「今後はより一層適切な納税を心がけてまいります」と述べた。

 

富裕層の「擬似養育費スキーム」とは何か

今回の事案で浮かび上がったのは、養育費など私的支出とみなされる費用を、法人の経費として装うことで、税負担を軽減する手法である。養育費は個人が自己資金で支払うものであり、法人の業務とは無関係であることから、本来であれば法人税法上の経費には該当しない。

しかし、社債という金融商品を用い、「利子」という形式を介することで、資金の流れが法人活動と結びついているように見せかける構造は、極めて巧妙かつ制度的グレーゾーンに位置する。加えて、利子の源泉徴収税率は約15%とされる一方、仮に知人へ現金を贈与した場合には最高55%の贈与税が課される可能性がある。つまり、同じ資金移動であっても、経路と形式を変えることで税負担を大幅に軽減できるという仕組みである。

こうした手法は、近年、富裕層の相続・贈与対策や養育費・生活費の支出方法の中で一部に用いられており、税務当局からは厳しい視線が注がれている。

 

「社債を装った贈与」構造と税務リスク

社債は本来、資金調達手段である。しかし、今回のように、実質的に資金を動かす目的が“家族への支援”であった場合、その形式を問わず「経費」として扱うことは認められない。とりわけ、社債購入資金の出所が前澤氏からの低利貸付である以上、その実体は、グーニーズから知人女性への資金供与と同義とみなされても不自然ではない。

このような構造に対して、東京国税局は法人税法132条に基づく「行為計算否認」を適用。これは「租税負担の不当な軽減」を目的とした取引に対し、課税庁が申告内容を否定し、再計算できる制度であり、“伝家の宝刀”とも呼ばれる強力な措置である。

 

過去にも同様のスキーム、ペーパーカンパニーを介した親族間の資金移動や、実態のないコンサル契約による資金供与などに対して、国税は積極的に行為計算否認を適用してきた実績がある。形式を整えただけの「隠れ贈与」は、たとえ法的な抜け道を通っていても、実質を重視する課税庁の判断では認められない。

今回の事案は、そうした国税当局の“実質重視”路線の象徴といえる。

“寄付王”から“納税王”へ? 前沢氏の立ち位置の変化

 

宇宙旅行や数億円単位のSNSプレゼントなど、話題性に富んだ行動で「お騒がせ富豪」としても知られる前澤氏は、これまで社会貢献活動や納税にも積極的な姿勢を示してきた。今回の一件についても、真摯な謝罪コメントを公表しているが、社債スキームを用いた“擬似的な養育費支払い”は、倫理的にも経済的にも疑問を投げかける。

養育費の支払いを否定するものではないが、それを法人の経費にし、社債という金融商品を“仮面”として用いる手法には、説明責任が伴う。税制は形式だけでなく、その背後にある経済的実態を見抜こうとしており、今後、同様のスキームへの監視はより強化される可能性がある。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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