
参政党の共同代表・神谷宗幣氏が「ヤマト・ユダヤ友好協会」主催のフォーラムに登壇していた過去の映像が、現在SNS(X)上で拡散されている。壇上の神谷氏は「配信されませんよね?」と述べたあと、協会の理念に共鳴するような趣旨のスピーチを行っていた。
この「ヤマト・ユダヤ友好協会」は、戦後の日本で発足したキリスト教系新宗教「キリストの幕屋」の影響を強く受けた団体とも噂される。
「幕屋」は1948年に手島郁郎によって創始され、旧新約聖書を基盤としながらも、ユダヤ教や日本の民族精神を融合させた独特の宗教世界を築いてきた。
とくにイスラエルとの親交が深く、聖地巡礼や火渡りなどの儀式、「原始福音」を標榜する信仰観などで知られており、その宗教的色彩の強さや政治的右派との接近ゆえに、異端視されることもしばしばある。
理事としての過去、現在はHPから削除
神谷氏は2016年、協会が実施したイスラエル訪問企画に参加し、深い感銘を受けたことを語っていた。かつて協会の公式サイトには、以下のような理事就任コメントが掲載されていた。
「2016年に『聖書に学ぶやまとこころの旅』ということで、イスラエルの旅に参加し、衝撃を受けました。1900年ものあいだ、さまざまな迫害を受け続けながらイスラエル建国を成し遂げたユダヤ民族の強い思いを知ることができました。…その流れからこの度本協会の理事を拝命することとなりました。」
こうした記述は現在の協会サイトからは削除されており、理事名簿にも神谷氏の名はない。参政党の政党化が進む過程で、宗教団体との関係性に対する慎重な調整が行われた可能性が高い。
現時点で神谷氏が同協会の活動に関与している形跡は見当たらず、一定の距離を保っていると見るのが妥当だろう。
協会思想の背景にある糸川英夫とユダヤ讃美
協会の思想的源流は、元JAXA技術顧問であった故・糸川英夫博士にある。糸川は生前、「日本とイスラエルが手を取り合うことが世界平和の鍵になる」と語っていた。こうした預言的な思想を継承するかたちで設立された同協会は、「日本とユダヤは選ばれた民族」であるとし、両者の精神的融合を通じた世界平和の達成を目的に掲げている。
具体的には、日本とユダヤ民族の「髪の色」「言語の書き順」「文化的優秀性」などを根拠に、両者の血縁的・精神的共通性を主張するなど、きわめて神話的な枠組みの中で活動が展開されてきた。
宗教と政治、そしてイスラエル支援のジレンマ
協会の理念は、一定の宗教的熱量とナショナリズムを帯びており、政治と信仰の線引きが曖昧になる場面もある。とくに「キリストの幕屋」系の団体では、イスラエル支援を目的に「砲弾に祈りを込める」行為なども報告されており、SNSでは「神谷氏も同様の立場なのか」といった疑念も生じている。
ただし、現代のイスラエル情勢を語る際には、単純な善悪二元論では捉えきれない複雑性がある。
イスラエルは長い迫害と戦争の歴史を背負った国家である一方、ガザ地区への軍事行動などをめぐっては、日本国内でも否定的な声が多い。人道的危機を目の当たりにし、イスラエル支持に疑問を呈する立場も増えている。
だが同時に、イスラエル側にはイスラエル側の存立に関わる事情や脅威もある。「選ばれた民」という言葉の扱いには注意が必要であり、支援や理解は常に多層的な視点から考えられるべきであろう。
神谷氏は現在も関わっているのか?
推察するに、2016年前後の神谷氏はこの団体に思想的シンパシーを感じ、自身の精神的な探求と政治的構想を重ねながら理事として活動に参画していたのだろう。イスラエル訪問を契機に糸川英夫の「預言」的思想に共鳴し、その熱量が文面からもにじみ出ている。
しかし現在、協会のHPから神谷氏の名前が削除されていることを踏まえると、政党活動とのバランスや宗教色への懸念を考慮し、一定の距離を置いたと考えるのが妥当である。
それをどう判断するかは、参政党の支持者や有権者に委ねられる問題であろう。精神的支柱として今も同団体の理念に共感する部分があるとしても、組織的関与は薄れていると見られる。
一方で、現在の自民党政権による長期支配の中で日本の制度や倫理が劣化していると感じる国民が少なくないのも事実である。違法滞在外国人の問題や治安悪化への不安が社会の各所に広がるなか、「既存政党では守れない日本を取り戻す」という参政党の主張に一定の共鳴が集まる土壌もある。
今回の拡散動画が参院選にどのような影響を及ぼすかは未知数だが、少なくとも有権者の多くは“過去の出来事”として軽微に受け止める可能性が高いが、はたしてどうなるか。