
フランスやスペインをはじめ欧州各国で40度を超える記録的な熱波が発生。初夏とは思えない高温の背景には、気候変動と地中海の海洋熱波があると専門家は指摘している。
欧州に襲いかかる初夏の異常気象
欧州各国が今、かつてない猛暑に見舞われている。フランス、スペイン、ポルトガル、イタリア、ドイツなどでは6月末から7月初めにかけて、軒並み40度を超える気温を記録。例年より1〜2か月も早く訪れた熱波により、健康被害や山火事、交通・観光への影響が広がっている。
フランスでは7月1日、パリを含む16県に最高レベルの熱波警報が発令され、象徴的な観光名所エッフェル塔は安全確保のため上層階への立ち入りを一時禁止。南部では気温が41.4度に達し、1,900校を超える公立学校が休校または短縮授業の措置を取った。
スペインでは6月中に南部で46度を超える地点もあり、国立気象局(AEMET)によると「観測史上最も暑い6月」だったと報告されている。ポルトガルでもリスボン東のモラで46.6度を記録し、6月の国内最高気温を更新した。
ロンドン地下鉄が「灼熱地獄」 冷房のない都市インフラの脆弱性
涼しい気候で知られる英国も例外ではない。ロンドンでは34度超を観測し、エアコンのない住宅や公共交通機関が多いため、市民生活に大きな影響が出ている。
特にロンドン地下鉄(通称チューブ)の車内温度は、外気より最大5度も高くなる場合があり、乗客からは「サウナのようだ」と悲鳴が上がる。ロンドン交通局によれば、地下鉄車両のうち冷房が設置されているのは全体のわずか40%。その多くは新しい路線に限られており、古くて深いトンネル構造のため、冷房設備の導入は困難とされている。
交通局は駅構内に「飲料水を持参してください」と呼びかける案内板を設置しているが、根本的な対策には至っていないようだ。
熱波がもたらす山火事と産業被害
原発停止や物流混乱も
熱波の影響は人々の生活だけでなく、産業活動にも広がっている。トルコ西部のイズミル県では大規模な山火事が発生し、5万人以上が避難。フランス南西部でも400ヘクタールを焼く山火事が確認された。
また、フランスでは高温により冷却水の不足が懸念され、一部の原子力発電所が稼働を停止。ドイツではライン川の水位が低下し、海運に支障が出るなど、輸送コストの上昇も報告されている。欧州電力市場では冷房需要の増加により電力価格が高騰しており、各国でエネルギー安定供給への不安が高まっている。
過去10年で進む欧州の気温上昇 地球温暖化が熱波を頻発させる背景
こうした異常気象の背景には、地球温暖化の影響が色濃くある。欧州連合(EU)の「コペルニクス気候変動サービス」によると、ヨーロッパは世界で最も急速に気温が上昇している地域のひとつであり、その速度は他の大陸の2倍に達するという。
インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究(2024年)では、かつて50年に一度だった英国の初夏の熱波が、今では5年に1度の頻度で起こっていると指摘。また、地中海での海洋熱波は平均水温を最大9度も押し上げ、陸地の気温をさらに引き上げる要因となっている。
フランスの気象局も、今後も熱波が頻繁に発生する可能性が高いとして警戒を呼びかけており、「7月や8月に見られるような猛暑が、6月に訪れている」との見解を示している。
気候変動への適応と今後の課題 都市インフラ・熱中症対策・避難体制の見直しを
気温上昇と熱波の長期化は、今後さらに深刻な問題を引き起こす可能性がある。欧州各国では、熱中症による救急搬送が急増し、高齢者や幼児への影響も顕著になっている。スペインでは高温の車内に取り残された2歳児が死亡する痛ましい事故も発生した。
都市の公共インフラや住宅の冷房対応、避難計画や医療体制の強化、森林火災に備えた防災対策など、あらゆる分野での気候変動への適応が急務である。
エマヌエラ・ピエルビタリ氏(イタリア環境保護調査高等研究所)は、「今経験している高温は、今後の“新たな常態”の入り口に過ぎない」と警鐘を鳴らしている。