
瀬戸内工業地帯の東端に位置する岡山県は、化学素材、教育サービス、食品・流通、電子部品といった多様な産業が競い合う。帝国データバンクや決算短信など一次資料によれば、製造業が県内総生産の約4割を占める一方、ディスカウントや金融の伸長が目立つ。本稿では売上規模上位 20 社をランキングで紹介する。
20 位 山佐産業〈新見市〉 売上 338億5,000万円〈2023/2〉
名門ポイント:山佐(岡山県新見市)はパチスロ機製造を核に航空機リースやエネルギー開発を手掛ける非上場グループ。PR TIMESに掲載された第55期決算公告によれば、2023年2月期の売上高は338億5,000万円、純利益は107億円で高い収益性を維持している。業界情報サイト Re.design は、6.5号機『LモンキーターンV』の累計出荷が4万3,000台に達し、2023年下期の新台市場をけん引したと報じる。さらに再再エネ事業では子会社山佐産業が宮城県亘理町79.5MWを筆頭に、特別高圧22・高圧80の計102発電所を保有し、総出力は622MWに達する。R&Iの格付レポートも、同グループが2013年から発電事業を育成し、2023年までに国内102サイトを開発したと評価している。2024年度から順次FIT案件をFIPへ転換し、O&Mも自社一貫体制を採る方針で、遊技機収益を原資に再エネ資産を積み上げる二軸経営が鮮明だ。
19 位 はるやまホールディングス〈岡山市北区〉 売上 361億3,500万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上高は361億3,500万円(前期比0.6%増)、営業利益6億2,500万円(同32.5%減)、経常利益9億6,400万円(同23.3%減)で増収減益決算となった。為替影響による原価上昇を価格改定で吸収し、売上総利益率は約59%を維持した。固定資産売却益が寄与し、当期純利益は6億7,000万円(同65.2%増)へ伸長した。 期末店舗数は370店で、期中に9出店13閉店と選択と集中を加速。EC強化によりオンライン売上構成比は伸長傾向を示し、客単価も底堅い。物流費抑制策を含めたコストコントロールで収益基盤の改善を図る。看板商品の完全ノーアイロンシャツ「i-Shirt」は累計販売1,000万枚を突破し、ビジネスウェア市場でのプレゼンスを一段と高めた。
18 位 両備システムズ〈岡山市北区〉 売上 367億1,900万円円〈2024/12 連結〉
名門ポイント:2024 年12 月期に連結売上 367億1,900万円を計上する独立系SIerで、公共・医療ITを中核に据える。自治体内部情報システム「公開羅針盤」シリーズを軸に、全国約1,700 自治体のうち1,000 超と取引しており、公共領域で約6割のシェアを確保している。2024 年7月には同シリーズ上で生成AIを活用する「問合せAI回答サービス」を提供開始し、LGWAN内で安全にRAGを運用できる体制を整えた。また自社データセンターとクラウド基盤「R-Cloud」を拠点に官民DX需要を取り込み、東京本社を拡充して2030 年までに売上 500 億円を目標とする成長戦略を掲げる。自社BPOやセキュリティサービスも組み合わせ、公共依存を維持しつつエンタープライズ領域の比率拡大を図る姿勢が鮮明だ。
17 位 タツモ〈岡山市北区〉 売上 410 億円〈2024/12 連結〉
名門ポイント:2024年12月期連結売上高は410億円(前年比約14%増)で過去最高を更新し、営業利益50億円、純利益35億円を計画通り確保した。主力のプロセス機器事業が売上330億円と全体の8割超を占め、搬送機器や表面処理用機器も堅調で利益率を底上げした。半導体後工程では、生成AI向け高帯域メモリ(HBM)や高性能GPUを複数チップで封止するアドバンスドパッケージ装置の受注が急伸している。第53期年次報告書は「AI用半導体需要の増加で引き合いは強い」と指摘し、2025年12月期も売上410億円を掲げる。期初受注残186億円を背景に増収基調を維持しつつ、研究開発投資と生産能力増強を進める方針だ。
16 位 オハヨー乳業〈岡山市中区〉 売上 452 億円〈2024/3〉
名門ポイント:2024年3月期に売上高452億円を計上し、岡山県内食品メーカーで上位を維持する。デザート主力の「ジャージー牛乳プリン」はインテージSRI+調査で2019年4月〜2024年3月の累計販売金額シェア1位を確保し、2024年3月には食感改良リニューアルを実施して全国販路を拡大した。同社の2023年版環境レポートによれば、岡山サイト(本社・長船工場)は2022年度にCO₂排出量を2,284t削減、同年の総排出量を38,728tまで抑制している。2024〜2025年度も年300t超の追加削減を掲げ、自然冷媒設備更新や太陽光発電を積極化する計画だ。ヒットデザートと環境投資の二軸で収益基盤とESG評価を同時に高めている。
15 位 ライフデザイン・カバヤ〈岡山市北区〉 売上 468 億円〈2024年度 連結〉
名門ポイント:2024年度売上高は468億円で、前年度から微増し過去最高水準を維持した。岡山を拠点に中四国・九州・関東へ事業を展開し、年間約1000棟の木造住宅を供給する地域最大級ビルダーである。累計引き渡し棟数は1万8500棟超に達し、ZEH実績は2023年度32%、2024年度38%へ上昇、2025年度には50%達成を目標に掲げる。2021年から建設DXの柱としてBIMを導入し、CLT建築や非住宅案件で3次元モデルを活用、設計・施工のリードタイム短縮とコスト削減を図る。2025年4月にはCLTハイブリッド構法のモデルハウスを開設し、生成AIを用いた間取り提案システムも実装するなど、脱炭素と省人化を急ぐ事業方針だ。
14 位 天満屋ストア〈岡山市北区〉 売上 586 億8,000万円〈2025/2 連結〉
名門ポイント:岡山県を地盤に食品スーパー「天満屋ハピータウン」「ハピーズ」など46店を展開する。2025年2月期の連結営業収益は586億8,000万円(前期比0.2%増)、営業利益は22億8,300万円と着実に増益を確保した。レジ業務の省力化では泉田店や岡山駅前店でフルセルフレジを導入し、混雑緩和と精算スピード向上を図る。さらにPOSデータと来店客数を基にレジ適正台数を算出するシフト管理システム「アールシフト」を稼働させ、レジ人員配置の最適化と労務費削減に取り組む。自社惣菜センターを核に地場野菜コーナーを強化し、ハピーカード会員16万人の購買履歴分析で生鮮発注精度を高めるなどDX投資も加速。食品ロス削減と働き方改革を同時に進め、地域密着型チェーンとして競争力を高めている。
13 位 シーピー化成〈笠岡市〉 売上 681 億円〈2024/2連結〉
名門ポイント:2024年2月期連結売上高は681億円で、前期比微増ながら過去最高を更新した。井原市の本社工場と門田工場に加え、2024年11月に稼働した群馬県板倉町の首都圏工場を合わせた国内5工場体制で高機能食品トレーや弁当容器を量産し、首都圏工場は本社工場と同規模の生産能力を備える。主力の低発泡PS系「BF」素材は衛生性と断熱性を兼ね備え、総菜売り場やコンビニで広く採用されている。バイオマスプラスチック配合の「CP Bio」シリーズは2023年時点で500アイテム超に拡充され、同素材容器はCO₂排出を従来比で最大20%削減できるとされる。脱炭素の取り組みを強化し、植物由来比率のさらなる向上を目指す。
12 位 大本組〈岡山市北区〉 売上 700億9,200万円〈2025/3〉
名門ポイント:総合建設会社。2025年3月期決算短信によると、売上高700億9,200万円(前年同期比15.6%減)ながら営業利益18億1,400万円、当期純利益17億8,800万円(同75.0%増)と収益性を改善した。受注高は908億8,900万円で建築456億9,000万円、土木452億円。自己資本比率72.0%と財務は堅固だ。長期ビジョン2036の下、ICT施工やBIM/CIM活用を柱に生産性向上と人材投資を推進し、都市再開発や防災インフラ案件の獲得拡大を目指す。
11 位 サンマルクホールディングス〈岡山市北区〉 売上 708億9,500万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上高は708億9,500万円(前期比9.8%増)で、営業利益39億1,000万円、経常利益38億3,900万円とそろって3割超の増益となった。国内外で「サンマルクカフェ」「鎌倉パスタ」「倉式珈琲店」など計8ブランドを展開し、期末店舗数は733店。不採算店整理とセルフレジ導入でオペレーションを効率化する一方、牛かつ二業態のM&Aでポートフォリオを拡充した。既存店売上は客数・客単価とも伸び、上期は前年同期比108.8%、下期も100%超を維持。セルフ型カフェとフルサービス型レストランの複合戦略が奏功し、サンマルクカフェの平均客単価はコロナ前の400円弱から600円弱へ上昇した。2026年3月期は新規出店30~35店を計画し、牛かつ業態を軸に海外展開も加速する。
10 位 ストライプインターナショナル〈岡山市北区〉 売上 953 億円〈2025/1 連結〉
名門ポイント: 2023年2月に川部将士社長が就任し、在庫回転日数の短縮とMD精度向上を指揮。主力ブランド「earth music & ecology」は25周年を機にパーパスを「いいことある服。」へ刷新し、ターゲットを20代後半~30代女性に再定義するリブランディングを進めている。OMO戦略では自社EC「STRIPE CLUB」と連動したLINEミニアプリ型デジタル会員証を導入し、LINE公式アカウント友だち数は2024年7月時点で200万人を突破。LINE経由のEC流入は約4倍、売上は約3倍に拡大したとされ、オンライン売上比率は全体の38 %に達する。再ブランディングによる客単価上昇とデジタル販促強化が重なり、次期は海外D2Cと循環型サブスクリプション「メチャカリ」の収益寄与が焦点となる。
9 位 ヤンマーアグリ〈岡山市北区〉 売上 979億7,700万円〈2024/3〉
名門ポイント:農機専業子会社で、2024年3月期売上高は979億7,700万円を計上した。23年発売のスマートコンバイン「YH6135/7135」は138馬力エンジンと自動ロス制御を備え、ほ場作業の約9割を自動操舵で行えるオート仕様をラインアップする。ICT基盤「SMARTASSIST」はGPS・通信端末で稼働データを取得し、北米公式サイトでも提供されるなどグローバル化が進む。また、衛星マップと連携した可変施肥実証で農薬・肥料の低減に寄与し、圃場診断結果はクラウド経由で共有されるため遠隔営農指導も可能になる。スマート農業機材とデータサービスの両輪で省力・高精度化ニーズを捉え、成長を図っている。
8 位 ザグザグ〈岡山市中区〉 売上 990 億円〈2024/8〉
名門ポイント:2024年8月期売上高は990億円で過去最高を更新した。山陽新聞によると、中四国・近畿でドラッグストア200店舗を超え、2025年6月にイオンとの資本業務提携を解消して完全独立に踏み切った。マイナビ企業概要では従業員数4,485名、調剤併設・調剤単独を合わせ46薬局を運営し処方箋応需体制を拡充している。公式サイトによれば全店でQRコード決済や交通系ICに対応しキャッシュレス利用を促進。グループ持株会社ナチュラルホールディングスの支援下で物流と店づくりを最適化し、基盤の岡山を中心に広域出店を続けている。売上成長と効率経営の両立を掲げ、次世代店舗モデルの開発も進む。
7 位 オルバヘルスケアホールディングス〈岡山市北区〉 売上 1,185 億6,400万円〈2024/6 連結〉
名門ポイント:医療器材が売上の9割を占め、契約拠点は70超、中四国圏でシェア首位を維持した。RPAと電子カタログを核とする社内DXプログラム「OLBA-DX」が在庫管理や請求処理を自動化し、販管費の伸びを抑制している。2025年第2四半期累計では売上606億円、経常利益8億2,400万円といずれも過去最高を更新し、消耗品主体の安定収益とDX投資が期末計画を下支えしている。さらに岡山市に建設中の新物流センターは2027年稼働予定で、バーコード連携による棚卸時間短縮などロジスティクス改革も進む。
6 位 岡山村田製作所〈瀬戸内市〉 売上 1,450 億円〈2024/3〉
名門ポイント:村田製作所の生産子会社で、2024年3月期単体売上高は1450億円に達する。敷地25万㎡超の瀬戸内工場ではチタン酸バリウムなどMLCC向けセラミック原料を内製し、グループ各工場に供給する「マテリアルマザーファクトリー」として機能する。2019年に投資額約160億円で新生産棟を着工し、2021年までに本格稼働したことで原料合成工程の自動化を進め、生産能力を段階的に拡大中だ。車載・EV向け高耐熱MLCC需要の増勢を背景に稼働率は高水準を維持し、従業員数は約2200人。求人情報でも「グループのマザーファクトリー」と明記され、技術移管とDX推進の中核拠点として位置付けられている。
5 位 ハローズ〈都窪郡早島町〉 売上 2,107億5,200万円〈2025/2 連結〉
名門ポイント:2025年2月期営業収益は2,107億5,200万円(前期比7.8%増)、営業利益122億7,000万円、純利益89億1,300万円と増収増益で着地した。広島・岡山など7県に展開する全107店舗はすべて24時間営業で、時間サービスを武器に域内シェアを拡大している。香川県坂出に稼働した3温度帯対応の坂出ロジスティクスセンターが配送拠点となり、店別のバックヤード作業を集約してコスト競争力を高めた。セルフレジ導入やキャッシュレス決済対応による省人化も進み、レジ待ち時間を短縮している。惣菜ラインの増設で内製比率を引き上げ粗利を維持しつつ、長期ビジョン「瀬戸内商勢圏180店舗・3,000億円構想」の下、2026年2月期には営業収益2,242億円を計画する。
4 位 中国銀行〈岡山市北区〉 経常収益 2,117億3,400万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:中国銀行を中核とするちゅうぎんフィナンシャルグループ(5832)は2025年3月期、連結経常収益2,117億3,400万円となり最高値を更新した。貸出金利息と有価証券利息配当金が伸び、連結経常利益は383億円。生成AIを活用した行内チャット「ちゅうぎんAI Chat」を約200名で運用し、業務効率化と与信審査高度化の実証を進めるなどDX投資を強化している。さらに2024年度に総額200億円のサステナビリティボンド(機関投資家向け100億円・個人向け100億円)を発行予定と公表し、調達資金を再エネ融資や地域企業のDX支援に充当する計画を示した。同社は「ちゅうぎんDX戦略」で2030年までにDX関連の収益インパクト100億円を目標に掲げ、地域課題解決型ソリューションとスタートアップ投資を組み合わせたエコシステム形成を加速している。
3 位 大黒天物産〈倉敷市〉 売上 2,700 億7,700 万円〈2024/5 連結〉
名門ポイント:2024年5月期に連結売上高 2,700 億7,700 万円(前期比 11.5 %増)を達成し、2025年5月期は 2,924 億円を計画する。経常利益 95 億4,300 万円、純利益 63 億600 万円と収益も過去最高圏に乗せた。主力ディスカウント「ラ・ムー」「ディオ」は全国25府県に216店(2024年5月末)を構え、年11店ペースの高速出店を継続。EDLP戦略と自社PB「D-PRIDE」で粗利を高め、センター供給型SFO業態や自動倉庫導入で物流コストを圧縮している。自己資本比率は53.0 %と財務は健全。生鮮最短定温物流や既存店改装6店の効果も相まって連続増収基調を維持し、年次報告書では高速多店舗化による中国・関西両物流センター稼働率向上を掲げた。
2 位 ベネッセホールディングス〈岡山市北区〉 売上 4,108億1,500万円〈2024/3 連結〉
名門ポイント:2024年3月期連結売上高は4,108億1,500万円(前年同期比0.3%減)、営業利益202億3,200万円と減収幅を最小化して黒字を維持した。セグメント別では国内教育2,081億3,600万円に対し、介護・保育1,393億4,800万円、大学・社会人218億5,200万円が計1,612億円となり、非教育領域が売上の39%を占めた。介護子会社ベネッセスタイルケアの入居率改善と価格改定が増収を牽引し、大学・社会人事業ではオンライン講座Udemyの受注増が寄与した。通信教育主力の「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」は価格改定で客単価を底上げし減収幅を圧縮。2024年5月のMBO完了に伴い東証を上場廃止し、ポートフォリオ再構築と海外幼児教育の立て直しに注力する方針である。
1 位 クラレ〈倉敷市〉 売上 8,268 億9,500 万円〈2024/12 連結〉
名門ポイント:2024年12月期連結売上高は 8,268 億9,500 万円と過去最高を更新した。主力のポバール樹脂と光学用PVAフィルムは世界シェア約40%、光学グレードでは80%に達し、液晶ディスプレイや水溶性洗剤包装向け需要が伸長している。また、ビニロン系セパレーター〈クラロン〉はアルカリマンガン電池市場でシェア 90%を占め、電池素材分野でも存在感を示す。さらにエチレンビニルアルコール樹脂〈EVAL〉は多層水素タンクライナーに採用され、優れた水素透過抑制性能で燃料電池車向け軽量高圧容器のキーマテリアルとなりつつある。高シェア材料群が利益率を下支えし、脱炭素需要と電子部材投資を追い風に同社の成長基盤は一段と厚みを増している。
総評
岡山県経済の骨格は「化学素材+教育サービス+食品・流通+電子部品」の4本柱で構成される。クラレは水溶性ポバール樹脂と電池セパレーターで世界シェアを伸ばし、脱炭素素材「EVAL」「Ku-rapto」を拡販。ベネッセホールディングスは国内教育コンテンツを基盤に介護・海外分野を拡大し、デジタル学習サービスの会員数525万人をテコに収益多角化を推進する。流通・外食ではハローズ、ザグザグ、大黒天物産が自動発注やセルフレジ導入でコスト競争力を高め、木曜夜間も含むEC配送網を整備。電子部品の岡山村田製作所はSiGaN系新材料の量産設備を稼働させ、半導体サプライチェーンで存在感を強める。金融・建設・IT各社も生成AIとBIM/DX投資を加速し、カーボンニュートラルと地域課題解決を両立させる事業モデルが広がりつつある。2025年度は再生可能エネルギー導入と生成AI活用が県内企業の共通テーマとなる見通しだ。