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TOEICカンニング摘発現場「スマートグラスの中国人集団」 試験会場に響いた声なきやり取りと、警視庁の目

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TOEIC中国人、試験不正

「骨伝導で、答えが聞こえていた」――警視庁捜査員がそう語ったのは、6月上旬の東京・某試験会場。英語検定TOEICの会場に現れた中国籍の若者たちは、耳にかけたメガネ型端末から、解答を“音として”受け取ろうとしていた。外からは何も聞こえない。だが、その場にいた捜査員は「確実に何かがある」と見抜いていた。

 

会場を泳ぐ視線と、不自然な「同じ住所」

6月7日朝、都内某所のTOEIC試験会場。通常通りに試験が始まろうとしていたが、受験番号と名簿を確認する監督者の表情が一瞬こわばった。同一の住所で申し込まれた10人の受験者が、時間差で次々と現れたのである。しかも、その多くが20代の中国籍の若者だった。

警視庁の捜査員らは、事前に情報を得ていたようだ。SNSでは、「リスニングのセクションで、彼らは耳に手を当てる怪しい挙動をしていた」との噂も投稿されている。受験者の耳に装着された小型イヤホンと、眼鏡の“つる”部分に埋め込まれたスマートグラスの骨伝導機能。試験の合間、捜査員は「不自然な視線の動き」や「聴覚への集中」を感知し、休憩時間中に複数名を別室に呼び出して確認を始めたと言われている。

 

「金を払えば答えが聞こえる」 巧妙な“カンニングビジネス”

「数万円で、教え役が答えを音声で流してくれる」。事情聴取でそう語った中国籍の受験者たちは、受験前から専用の機器を受け取り、指定された時間に同一会場での受験を予約していた。

背景には、「TOEIC高得点=キャリア成功」という母国の就職・ビザ審査事情がある。特に日本で就労ビザを取得する場合、英語力証明の一環としてTOEICスコアが用いられることも多い。そのため、同国のSNSでは「代行受験」「カンニングサポート」などのサービスが密かに流通している。

記者が確認したところ、中国語SNSの「小紅書(RED)」や「微信(WeChat)」などでは、「日本TOEIC 900点保証」「骨伝導スマートグラス貸与」などの広告が確認できた。料金相場は2〜3万円。オプションで「AI分析による頻出問題対策講義」なども付く。

 

「王容疑者」ルートとは別の網 広がる中国人業者の影

今回の10人は、5月に逮捕された京都大学院生・王立坤容疑者が関与したグループとは別筋とみられている。王容疑者は「替え玉役」として試験会場に入り込み、別の受験者に正答を伝達していたが、今回の10人は「音声のみでのサポート」を受けていたと供述している。

警視庁は、王容疑者とは別の“業者”が東京エリアに拠点を置き、機材と情報、受験希望者を仲介する「カンニングビジネス」の中枢を担っているとみて捜査を続けている。関係者は「既に都内だけで複数のネットワークが存在している可能性が高い」と語る。

 

TOEIC高得点が「欲望の市場」になる理由

そもそも、なぜTOEICなのか。

答えは明確だ。TOEICは非ネイティブ向けに設計された英語試験で、短期対策がしやすいこと、またスコアが明確に数値で出るため「売れる」資格となっているからだ。日本国内では新卒採用や昇進要件にスコアが必須とされる企業も多く、外国籍の受験者にとっては日本企業への就職・在留資格申請の“パスポート”ともなりうる。

その利便性が裏目に出た形だ。現在、TOEICの受験者の1割以上が中国籍であるとされ、全国の会場では「不自然な団体受験者」に対して目を光らせる関係者が増えているという。

 

「監視強化」だけでは限界 制度設計に抜本的見直しを

このようなカンニングの温床を生む背景には、日本の資格・スコア制度そのものの構造的欠陥もある。警視庁幹部の一人は、「外国人の在留管理や就労許可にTOEICスコアが使われる以上、そこには“抜け道”が必ず生まれる」と語る。

実際、日本の大学や専門学校への留学ビザ申請でも「TOEICスコア証明」が求められることがあり、これをビジネスに変える業者の存在は止むことがない。

制度として“点数偏重”である限り、どれだけ会場での監視を強化しても、「形を変えた不正」は繰り返される。求められるのは、英語力の本質的な評価と、より多様な判定指標への転換だろう。

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ライター:

新聞社・雑誌の記者および編集者を経て現在は現在はフリーライターとして、多方面で活動を展開。 新聞社で培った経験をもとに、時事的な記事執筆を得意とし、多様なテーマを深く掘り下げることを得意とする。

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