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香川県丸亀市・水上メガソーラー計画が中止に 1万人超の署名が市政を動かす「市民の勝利」

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香川初の再エネ条例、そして計画白紙──「水の風景」は守られた

丸亀、水上メガソーラー発電中止

香川県丸亀市で計画されていた大規模な水上メガソーラー発電事業が、2025年6月1日までに正式に中止された。丸亀市郡家町のため池──宝憧寺池、辻池、仁池を対象としたこの事業に対し、住民や環境保護の立場から強い反発が寄せられていた。

直筆とオンラインをあわせて1万超の反対署名が集まり、市議会における請願採択、そして香川県内初となる再生可能エネルギー設置に関する条例制定を後押しした。そのうえで、事業者が計画中止を伝達したことにより、市民による粘り強い運動がひとつの成果を導いたかたちとなった。

 

江戸時代からの「命の水」──ため池をめぐる生活と歴史

計画の対象であった宝憧寺池は、天明3年(1783年)に築造されたとされる農業用ため池である。丸亀平野の中央に位置し、周辺には315戸以上の住宅・事業所が密集する。池の水は今もなお稲作や畑の水やりに用いられており、「命の水」として地域の暮らしに深く根づいてきた。

池の堤は一部が未舗装のままで、伝統的な「野焼き」による年2回の草刈りが続けられているが、過去20年で3度にわたり火災事故に発展している。高圧受電設備(6,600V)を土手に設置したうえで野焼きを続ける計画に対し、住民からは「感覚が麻痺している」「火災の危険が高すぎる」との声が上がっていた。

 

保護鳥の飛来、文化財の池底──「ただの水面ではない」

宝憧寺池には、冬季になると絶滅危惧IA類に分類されるコウノトリや、クロツラヘラサギなどの水鳥が飛来する。水を抜いた池底では、児童たちが観察学習を行う姿が見られるが、この池底には、平安時代以前の寺院跡「宝憧寺塔心礎石」が眠っており、丸亀市の指定文化財にもなっている。

3つの池は丸亀市景観条例により「田園エリアの景観核」に指定されており、都市景観の中心的な位置づけにもある。こうした自然・文化・教育の多面的価値に照らし、単なる電力事業用地として扱うことへの強い疑義が住民から示されていた。

 

市民説明会の形骸化、市の「無回答」も怒りを拡大

事業者による最初の住民説明会は2024年3月に実施されたが、その周知方法が問題となった。丸亀市農林水産課が住民範囲の決定を事業者に丸投げした結果、説明会案内は池に隣接する限られた世帯にしか届かず、実質的に住民の大多数が内容を知らないままとなった。

第2回説明会は郡家南団地自治会の要望により4月に開催されたが、今度は事業者からの周知が一切なされなかった。代わりに住民有志が200部以上のビラを自力でポスティングし、情報を拡散した。

また、丸亀市は当初から「条例が無いため計画を止めることは難しい」として、慎重姿勢に終始。住民からは「自治体が住民の命と暮らしより業者の利便を優先している」と不信感が強まった。

 

条例制定と計画中止、そして未来への問い

住民たちは同年4月と8月の2回にわたって、計3,489名(1,881世帯)分の反対署名を丸亀市長に提出。さらにchange.orgでは2025年6月時点で7,718筆が集まり、直筆署名3,703筆と合わせて合計1万1,000筆超に達した。

2024年12月、住民の請願が市議会に提出され、当初は否決されたが、19日の再審議で賛成多数となり可決。香川県初となる再エネ施設の適正設置に関する条例作成が決定した。そしてそれから5か月後、土地改良区宝憧寺池支部が、水上ソーラー計画の「中止」を正式に通達した。

 

住民自治が生んだ前例 開発と地域の「共生」を問う

本計画の中止理由について、事業者から公式な説明は出ていない。だが住民側は、法制度の整備、環境保全の声、安全面での懸念、そして何よりも地域に根ざした「1万筆の意思」が行政と事業者の判断を変えたとみている。

再生可能エネルギーの推進は重要である。しかし、住民の暮らし、歴史、自然を犠牲にした開発が許容される社会であってはならない。今回の丸亀市の事例は、地域社会の声が制度を変え、開発を見直させるきっかけをつくった。これは、単なる計画中止ではなく、住民自治による歴史的な「一石」である。

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サステナブル情報を紹介するWEBメディアcokiの編集部です。主にニュースや解説記事などを担当するチームです。

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