
欧州連合(EU)が自動車部品に用いられる炭素繊維の使用規制を見送る方向で調整を進めていることが、5月22日までに明らかになった。
欧州議会、反発受け規制案を修正へ
環境負荷やリサイクル性の難しさを理由に、欧州議会の環境関連委員会が年初に規制案を公表していたが、製造業界や素材企業を中心に強い反発が噴出。日本の大手素材メーカーにとって業績悪化の懸念が高まっていた中、今回の方向転換は一転して追い風となりそうだ。
関係者によれば、6月下旬に欧州議会の委員会で最終的な投票が行われる予定。行政機関である欧州委員会や加盟国との協議を経て、新たな法的枠組みが確定する見通しだ。
日本勢の市場支配に「科学的根拠なし」と反論
今回の規制案の背景には、自動車の廃車時に素材を再利用する「ELV指令」と、型式認証に関する既存指令の統合がある。環境派の議員を中心に炭素繊維の使用制限を盛り込むことが検討されていたが、制限対象の明記はされておらず、一定条件下で使用を継続できる余地を残す記載にとどまっていた。
こうした動きに対し、5月13日の決算記者会見で三菱ケミカルグループの筑本学社長は「科学的な根拠があるとは我々は思っていない」と述べ、規制の妥当性そのものに疑問を呈した。
SNS上でも「炭素繊維は日本の得意分野」「環境に良い技術なのに規制は筋違い」といった意見が噴出。中には「日本企業を狙い撃ちした非関税障壁ではないか」とする声や、「欧州の製造業自身が困るだろう」と懸念を示す投稿も目立った。
車の軽量化と環境配慮のバランスで判断
炭素繊維は、軽量かつ高強度な素材として自動車、航空機、スポーツ用品など幅広い分野で活用されている。東レが世界シェア首位、帝人と三菱ケミカルグループも主要プレーヤーとして知られ、日本勢3社で世界の約5割を占めるとの見方もある。
有識者のなかには、規制推進派の意向をいったん反映しつつ、様子見の段階だろうと指摘する声も目立っていた。炭素繊維が対象となる可能性は残るものの、全面規制に直結する構成にはなっていないと分析する。
各国のパワーゲームの狭間で
自動車の軽量化による燃費向上やCO₂削減といった「環境貢献」効果も大きい炭素繊維。EUが今回の調整で見送りに転じれば、技術革新と持続可能性を両立する素材としての位置づけが改めて認識されることとなる。各国の環境政策と経済保護主義のはざまで揺れる素材戦略の今後に注目が集まる。