
気候変動が妊婦の健康に及ぼすリスクが、医学的知見により明らかになってきた。とくに近年増加する「極端な高温」は、胎児にも母体にも深刻な影響を及ぼす。2024年の東京都心では、8月の約77%の日が妊婦にとって“危険水準”の暑さに達していた。
上位5%の高温がもたらす異常事態
東京科学大学の藤原武男教授による研究では、気温が地域の観測史上「上位5%」に入るような極端な高温が、妊婦にとって著しいリスクであることが指摘されている。
妊娠中は、胎盤や胎児の形成・維持に大量のエネルギーが必要で、体温が上がりやすく、脂肪の蓄積によって熱を逃しにくい状態にある。そうした中で、気温や湿度の上昇が重なると、体温調整機能が限界を超え、母体が妊娠を維持できずに「早産」「前期破水」などを引き起こす可能性が高まる。
妊婦と胎児に及ぼす主な高温リスク
以下に、暑さが妊婦および胎児に与える影響を時期別にまとめた。
対象 | 時期 | 主な影響 |
---|---|---|
胎児 | 妊娠初期 | 死産・流産、心臓や脳の先天異常 |
胎児 | 妊娠後期 | 早産、低出生体重 |
母体 | 全期間 | 妊娠高血圧、妊娠糖尿病、胎盤早期剥離、前期破水・出血など |
2024年8月、77%が危険な高温に該当
2024年8月、東京都心の最高気温において、「上位5%の高温(32℃以上)」に該当した日は31日のうち24日にのぼった。これは20年前(16日)と比較して約1.5倍であり、気候変動の影響が数値にも明確に表れている。
妊産婦ができる“シンプルな対策”とは
藤原教授は「難しく考える必要はない」としながらも、「熱中症警戒アラート」発令時の行動制限とこまめな体調チェックの重要性を説いている。
妊婦に推奨される主な行動対策:
- 外出を控える(とくに炎天下)
- 冷房をためらわず使う
- 水分・塩分補給をこまめに
- 違和感があればすぐ受診
- 例:お腹の張りや違和感、頭痛、めまい、軽い出血など
特に注意すべきは、「お腹が痛くなってからでは遅い」という点である。違和感レベルの段階でかかりつけ医に相談することが最も重要な対応とされている。
“誰にでも起こり得る”という視点を
暑さへの耐性には個人差があるが、「妊婦は特別に体に熱がこもりやすい構造になっている」という点を理解する必要がある。気温が上昇する夏期には、社会全体で妊婦に配慮した行動や、クールスポットの設置・活用、公共交通機関やイベントでの優先措置なども求められる。
気候変動と“日常の健康”のつながりを再認識
気候変動がもたらす影響は、環境汚染や災害にとどまらない。妊婦という人生の一時期を生きる人々にとって、暑さは見えにくいが深刻な脅威となる。日々の生活の中で「いつも通り」を続けるだけでは守れない命があることを、改めて社会全体で認識する時期にきている。