
商船三井は、大阪・関西万博で次世代の水素生産船「ウインドハンター」の大型模型を展示し、来場者に新たなエネルギー体験を提供する。
万博で公開!ウインドハンターの展示内容とは
商船三井は、2025年4月13日から10月13日まで開催される大阪・関西万博の「未来の都市」パビリオン内で、次世代の水素生産船「ウインドハンター」の大型模型を展示する。商船三井が開発を進めるこの船は、風力を活用して水素を製造し、貯蔵・輸送することを目的としている。
今回の万博展示では、全長約4メートル、帆の高さ約3メートルの模型が登場する。来場者は「うちわ」を使って風を送り、帆が動く様子を体験できるインタラクティブな展示となる予定だ。また、川崎重工のブースと連携し、水素燃料を活用したバイクの展示も行われる。両者のブースを一体化することで、未来の水素サプライチェーンを視覚的に伝える試みだ。
風と水素で動く!ウインドハンターの技術とは
商船三井グループが取り組む「Wind Hunter」プロジェクトは、究極のゼロエミッションを目指す取り組みだ。もしも燃料補給をすることなく、世界中に貨物を運ぶ船が実現できたなら、温室効果ガスの排出を大幅に削減できる。海上には無尽蔵の風エネルギーがあり、それを最大限に活用するのがWind Hunterの構想である。
Wind Hunterの原理は、強風時には帆で風を受けて船を推進し、その間に水中のタービンを回して発電し、水素を生産する。生産された水素はMCH(メチルシクロヘキサン)の形でタンクに貯蔵され、風が弱いときには燃料電池を用いて発電し、電動プロペラを回して推進する。この技術はすでに長崎県の大村湾でヨットを用いた実証実験が完了しており、次のステージとして全長60~70メートル級の水素生産船の建造が2024年以降に予定されている。
Wind Hunter号は、風の強いエリアを探索しながら航行し、まさに動く水素生産プラントとして機能する計画だ。さらに、2030年までには大型ゼロエミッション貨物運搬船・水素生産船の建造を目指しており、商船三井グループは技術的な課題を乗り越えながら持続可能な未来へ向けて歩みを進めている。
2050年には水素需要が5倍に!世界の水素市場の動向
水素は、使用時にCO2を排出しない環境負荷の低いエネルギーであり、水や石炭、天然ガスなど多様な資源から生産できる。そのため、持続可能なエネルギー供給の一環として注目されている。国際機関の予測によれば、2050年の世界の水素需要は2022年の約5倍に達すると見込まれており、市場規模の拡大が期待されている。
日本は2017年に世界で初めて水素の国家戦略「水素基本戦略」を策定し、その後EUやドイツ、オランダを含む25カ国以上が同様の戦略を発表した。近年では、各国が水素技術の開発から実用化・商用化へと政策をシフトさせ、国内の水素産業を育成する動きを加速させている。
水素は生活の中でどう使われている?
水素は一般消費者にとってまだ身近なエネルギーとは言い難いが、すでに一部の分野では利用が進んでいる。例えば、燃料電池自動車(FCV)では、トヨタの「MIRAI」やホンダの「クラリティ・フューエルセル」などが市販され、水素ステーションも徐々に整備されている。
また、鉄道やバス、船舶などの大型輸送分野でも水素の活用が進められ、2020年にはドイツで世界初の水素燃料電池列車「Hydrogen Train」が運行を開始した。発電分野でも、水素を燃料とする発電所の開発が進み、持続可能なエネルギー源としての期待が高まっている。
日本政府も「水素基本戦略」に基づき、国内の水素利用拡大を推進しており、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」の開発が加速している。今後、技術の進展やコスト削減、インフラ整備が進めば、一般家庭やビジネスシーンにおいても水素がより身近なエネルギーとなる可能性がある。
ウインドハンターの実用化に向けた課題
ウインドハンターの技術には多くの可能性があるが、いくつかの課題も指摘されている。まず、洋上での安定した水素生産が求められる。天候や海流の影響を受けやすい環境下で、効率的に発電し続けるための技術開発が必要だ。また、MCHとして水素を貯蔵・輸送する技術の確立も不可欠であり、安全性やコストの面で実証が求められる。
現在、商船三井は小型の実証船「ウインズ丸」を用いて実験を進めており、2028~2029年には全長70~80メートルのデモ船を建造し、さらなる技術検証を行う予定だ。本格的な実用化はそれ以降と見込まれる。