
2025年度の賃上げを見込む企業が初めて6割を超えたことが、帝国データバンクの調査で明らかになった。特にベースアップ(基本給の引き上げ)を実施する企業は56.1%に達し、過去最高を更新。人材確保や物価上昇への対応が主な理由だ。大手企業を中心に大幅な賃上げが進む一方で、中小企業では財源確保の難しさから賃上げが限定的にとどまるケースも多い。
本記事では、賃上げの最新動向を業界別・企業別に詳しく解説する。
2025年度の賃上げ動向
賃上げ見込み | 企業割合 |
---|---|
あり | 61.9% |
なし | 13.3% |
不明 | 24.7% |
帝国データバンクの最新調査によると、2025年度に正社員の賃上げを予定する企業は61.9%に達し、初めて6割を超えた。このうち、基本給の引き上げ(ベースアップ)を実施する企業は56.1%と、前年の53.6%を上回り、過去最高を更新している。
賃上げを予定する理由として最も多かったのは、「労働力の定着・確保」(74.9%)。次いで、「従業員の生活を支えるため」(62.5%)、「物価高への対応」(54.4%)と続く。
業界別の賃上げ状況
業界名 | 賃上げ予定の企業割合 |
製造業 | 67.3% |
建設業 | 66.0% |
農林水産業 | 65.3% |
運輸・倉庫業 | 65.0% |
不動産業 | 60.9% |
金融・保険業 | 73.5% |
情報通信業 | 75.8% |
企業規模別の賃上げ状況
企業規模 | 賃上げ実施率 |
大企業 | 92.8% |
中小企業 | 84.6% |
大手企業の賃上げ事例
・みずほフィナンシャルグループ(みずほFG):8%の賃上げ(過去最高)
・三井住友銀行:実質8%程度の賃上げを予定
・三菱UFJ銀行:6%程度の賃上げを要求
・デンソー:月額2万3500円の昇給(満額回答)
・名古屋銀行:初任給を6万円引き上げ、30万円に(メガバンク並み)
・清水建設:2025年4月入社の大卒初任給(転勤があるグローバル職)を2万円引き上げて30万円に(増額は4年連続で、前年の1万5000円より大きく引き上げ)
・星野リゾート:観光業界の慢性的な人手不足への対応のため、2025年1月から平均5.5%の賃上げを表明
・積水ハウス:総合職の全社員の月給を4月から平均約18%引き上げ。2024年度の年間賞与9カ月分のうち3カ月分を原資として月給に転換。ベースアップも実施予定で、大卒初任給は約30万円(25%引き上げ)
なぜ企業は賃上げを進めるのか?
2025年度に賃上げを予定する企業が増加した背景には、以下の要因が挙げられる。
1. 同業他社との競争
大手企業の積極的な賃上げが相次ぎ、特に中堅・中小企業は人材確保のために競争力のある給与水準を確保する必要に迫られている。賃上げを行わない場合、優秀な人材が流出するリスクが高まる。
2. 労働力の確保と定着
深刻な人手不足が続く中、従業員の流出を防ぎ、安定した経営を維持するために賃上げを行う企業が増加。特に若手人材の確保が課題となっており、賃金の引き上げが労働市場での競争力向上につながる。
3. 物価上昇への対応
食品やエネルギー価格の高騰に伴い、実質賃金の減少が続く中で、従業員の生活水準を維持するために賃上げを実施。最低賃金の上昇も影響し、企業は賃金改善を求められている。
賃上げの二極化:企業規模による格差とエンゲージメントの影響
賃上げの二極化の現状
NTTデータ経営研究所が2024年11月に実施した24年の春闘における調査によると、従業員5,000人以上の企業と99人以下の企業で、賃上げ実施率に最大24ポイントの差がある。
企業規模 | 賃上げ実施率 |
5,000人以上 | 58.9% |
99人以下 | 34.5% |
従業員エンゲージメントと賃上げの関係
NTTデータ経営研究所の調査では、2023年に賃上げを経験しなかった人と2024年に賃上げを経験した人を対象に、賃上げが従業員エンゲージメントや勤続意向に与える影響を分析した。その結果、賃上げ単体では従業員のエンゲージメント向上に大きな影響を与えないことが判明した。
一方で、「働き方改革」「ウェルビーイング経営」「能力開発・支援」に積極的に取り組む企業では、従業員エンゲージメントや勤続意向が約2倍から3倍高いことが明らかになった。
これは、給与の増額以上に、従業員が働きやすい環境や成長機会を求めていることを示している。
まとめ
2025年度は、企業の賃上げ意欲が引き続き高い水準を維持する見込みだ。特に大手企業では高水準の賃上げが続く一方、中小企業では財源の確保が課題となる。
今後の賃上げの持続性を考えると、価格転嫁の進展や生産性向上による賃上げ原資の確保が重要な要素となる。政府の支援策の活用も選択肢の一つだが、持続可能な賃上げを実現するには、従業員エンゲージメントの向上も欠かせない。
企業は単なる賃上げにとどまらず、働き方改革やスキル開発を含めた包括的な施策を進めることで、長期的な成長と従業員満足度の向上を目指すことが求められる。
2025年度の賃金動向が、国内経済にどのような影響を与えるのか、引き続き注目される。
【参照】
・2025年度の賃金動向に関する企業の意識調査(帝国データバンク)
・賃上げの二極化が鮮明に 従業員5,000人以上の企業は99人以下の約3倍の割合で賃上げを実施、実施率で最大24ポイントの差(NTTデータ経営研究所)