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日本アニメの未来に暗雲 国連警告「低賃金・長時間労働の是正が急務」

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日本のアニメ産業は、3兆3000億円を超える市場規模を記録し、世界的な注目を集めている。しかしその裏側では、低賃金や長時間労働が常態化し、国連人権理事会の作業部会が産業崩壊のリスクを警告する事態となっている。現場の声とデータを基に、業界の課題と未来への道筋を追った。

 

世界的成功の陰にある労働環境の闇

日本のアニメは『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』など、世界的なヒット作を生み出してきた。日本動画協会によると、2023年の市場規模は前年比14.3%増の3兆3465億円と過去最高を更新。市場は過去10年で倍増しており、海外ファンドによる投資や企業のM&Aも活発化している。

だが、現場で働くクリエイターたちには利益が十分に届いていないのが実情だ。

国連が警鐘を鳴らす労働環境の実態

2024年5月、国連人権理事会の作業部会が日本のアニメ業界における劣悪な労働環境を指摘した。ブルームバーグの取材に対し、調査を指揮したピチャモン・イェオファントン氏は「搾取的な労働慣行に断固として対処しなければ、アニメ産業が崩壊する可能性は現実的なリスクだ」と述べ、危機感をあらわにしていた。

日本アニメーター・演出協会の調査(2022年)によれば、20〜24歳のアニメーターの平均年収は197万円。東京都の同年代の平均年収約350万円を大きく下回り、米労働統計局が示す米アニメーターの平均年収と比較すると半分以下の水準にとどまる。

長時間労働が常態化する業界

一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)が2024年3月に発表した調査結果では、業界の過酷な労働実態を浮き彫りにした。調査によると、アニメ業界従事者の月間労働時間の中央値は225時間。最大で336時間に達するケースも確認された。これは日本の全産業平均162.3時間を大きく上回る数値である。

さらに、労働者の37.7%が月収20万円以下、年収に換算すると240万円以下という厳しい現実も明らかになった。特に若手の20代では、67%が月収20万円未満で、13%は月収10万円に満たないという。

 

収益構造の歪み:製作委員会方式の功罪

アニメ制作の資金調達には「製作委員会方式」が採用されることが多い。出版社や放送局など複数の企業が出資し、リスクを分散できる一方で、収益も分散されるため制作現場への還元が難しくなる。

複数の業界関係者によれば、声優やアニメーターなどのクリエイターに報酬が支払われるまで半年以上かかることもあるという。作品が不人気だった場合、報酬が未払いとなる事例も発生している。多重下請け構造が深刻化し、最前線のクリエイターが不安定な労働環境に置かれているのだ。

公正取引委員会が調査を開始

こうした状況を受け、公正取引委員会は2024年1月、アニメ業界における取引実態の調査に乗り出した。フリーランス新法が同年11月に施行され、発注時の条件明示義務や支払い期限の設定が義務付けられる。

公取委フリーランス取引適正化室の武田雅弘室長は「フリーランス労働者が不利な立場に置かれている現状があり、多くが報酬の未払いなどを恐れて声を上げられない」と指摘する。

AIの台頭と人材不足がもたらす未来

日本総合研究所の試算によれば、アニメ制作者は2030年には2019年比で約1割減少し、制作分数も1万分ほど減少すると予測される。さらに、AI技術の進展により、簡単な作業が自動化される可能性も高い。

一方で、新人支援の取り組みも始まっている。トムス・エンタテインメントは奨励金付きのトレーニングプログラムを実施し、若手アニメーターの育成を進める。同プログラムに参加した参加者からはは「環境が良くなるという希望を持って業界に入った」と語っている。

持続可能な成長に必要な改革

日本アニメが世界市場で優位性を維持するためには、労働環境の改善が急務である。

国連からの警告が発せられた今こそ、産業構造の改革に向けて業界全体が連携する必要がある。技術承継と人材育成に力を入れ、働き手に報いる仕組みを構築することが、アニメ文化を次世代に引き継ぐための鍵となるだろう。

参考・引用元
・Bloomberg「アニメ産業崩壊リスクに国連も警鐘-低賃金や長時間労働の是正急務
・日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)「アニメ業界の働き方に関するアンケート調査結果
・日本動画協会「アニメ産業レポート2024」

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ライター:

新聞社・雑誌の記者および編集者を経て現在は現在はフリーライターとして、多方面で活動を展開。 新聞社で培った経験をもとに、時事的な記事執筆を得意とし、多様なテーマを深く掘り下げることを得意とする。

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