アルゼンチン政府は2月5日、世界保健機関(WHO)からの脱退を正式に表明した。ミレイ大統領の決定は、トランプ米大統領の方針に追随するものであり、国際社会に大きな衝撃を与えている。
大統領報道官によれば、ミレイ大統領は「WHOの政治的影響からの独立性の欠如」や「新型コロナウイルス対応を巡る見解の深い相違」を理由に挙げた。トランプ大統領は就任初日、WHO脱退を進める大統領令に署名し、同機関の「国際的な健康危機への対応の失敗」や「中国の影響を受けた不透明な運営」を批判していた。
この決定に対し、国内外で賛否が分かれている。SNS上では、「アルゼンチンが独自の新薬開発や医療体制を整備できるのか」「次のパンデミック時にどう対応するのか」といった懸念の声が上がる一方、「WHOの影響力を排除することは国家主権の強化につながる」とミレイ大統領の決断を支持する意見もみられる。
ミレイ大統領とは何者か
ハビエル・ヘラルド・ミレイ氏は、アルゼンチンの政治家、経済学者、作家であり、2023年に大統領に就任した。リバタリアン党の党首として、「小さな政府」を掲げ、中央銀行の廃止や政府支出の大幅削減を主張する過激な改革姿勢で知られる。その強硬な政治スタイルから「アルゼンチンのトランプ」とも呼ばれる。
ミレイ氏は1970年にブエノスアイレスで生まれ、経済学者としてのキャリアを積んだ。財政危機に直面するアルゼンチンにおいて、政府の無駄を削減することを公約に掲げ、2023年の大統領選挙で55.69%の得票率を獲得し勝利した。
過激な改革とその影響
就任後、ミレイ大統領は政府機関の大規模な整理を進めた。省庁数を18から9に削減し、公務員を7000人削減するなど、急激な財政緊縮政策を実施。また、アルゼンチン・ペソの価値低下に対抗するため、米ドル化を提案するなど、極端な経済政策を推進している。
ミレイ大統領は「アポイラ!(捨てろ!)」の掛け声とともに、不要な中央省庁を次々と廃止する動画を配信し、支持者をはじめ、世界中で、その潔さと強烈なキャラクターで人気を博した。その一方で、経済格差の拡大やインフレの加速に対する批判も強まっている、いわば好き嫌いのはっきり分かれる人物といえる。
変化の兆し?それとも悪化?
ただ、南米アルゼンチンでは今月、ミレイ政権が発足から丸1年を迎えた。「ショック療法」的な政策運営により、一時は300%に迫ったインフレはようやく落ち着きを見せ、通貨ペソの公定レートと非公式レートの乖離も縮小。金融市場ではアルゼンチンに対する評価が向上し、主要株式指数も最高値を更新するなど、「デフォルト常習国」の称号返上の兆しが見えてきた。
とはいえ、経済的なショック療法の反動も大きい。貧困率は50%を超え、国民の生活はかつてないほど厳しい状況にある。経済改革が功を奏しているとはいえ、「生活が良くなった」と実感する市民はまだ少ないのが現実だ。
外交面では、中国との関係を「凍らせる」と豪語していたミレイ大統領だが、いざとなると「経済は別」と方針を転換。トランプ次期米大統領との関係強化を進める一方で、現実的な路線も模索しているようだ。
今後の展望—アルゼンチンの明日はどっちだ
WHO脱退や政府のスリム化など、ミレイ大統領の改革は賛否両論を巻き起こしながらも着々と進んでいる。金融市場は「アルゼンチンの奇跡」を期待しているが、国民の生活が改善するにはまだ時間がかかりそうだ。
現時点では「改革を信じる者」と「ショックを受ける者」の間で国が二分されている状況。果たしてミレイ大統領の手腕がアルゼンチンを救うのか、それともさらなる混乱を招くのか。今後の展開から目が離せない。