サントリーホールディングス(HD)は12日、鳥井信宏副社長(現サントリー社長)が社長に昇格する人事を発表した。新浪剛史社長は代表権のある会長に就く。2014年に創業家以外から初めて就任した新浪体制から、約10年ぶりに創業家出身者による経営に回帰する。
創業家経営への回帰
1899年の創業以来、サントリーは創業家の佐治家と鳥井家から4代にわたって社長を輩出してきたファミリービジネスの企業。2014年10月に三菱商事出身で当時ローソン会長だった新浪氏が就任するまで、創業家による経営を貫いてきた経緯がある。
新浪氏の社長就任は、創業家以外から初めての抜擢となり、当時大きな話題を呼んだ。約10年におよぶ新浪体制で、サントリーは積極的な海外展開や新規事業への参入を進めてきた。
環境配慮型経営にも注力
社長交代の発表と時を同じくして、サントリーHDは環境負荷の低い缶蓋「EcoEnd™」の採用も発表している。アサヒビール、キリンビール、サッポロビールと共同で、2025年2月以降、ビール類の一部商品に順次採用する。この新型缶蓋は、東洋製罐とUACJの共同開発。従来比で温室効果ガスの排出量を約4割削減できる環境配慮型の製品だ。
SNSに広がる期待の声
この社長交代のニュースに対し、SNS上では創業家経営への期待の声が多く寄せられている。
「新浪さんは発言が過激やらでサントリーのイメージは決して向上しなかった。ワンポイントリリーフとしては長すぎた」との指摘がある一方で、「創業家経営が続くことで、長期的な視点での堅実な経営を期待できる」という好意的な反応も目立つ。
特に注目されているのが、サントリーの非上場企業としての在り方だ。「株式上場の構想は依然としてない」「外部に惑わされることなく会社の組織を成長させるため」という経営姿勢に、多くの支持が集まっている。
非上場企業だからこそ可能な長期的視点での経営
SNS上では、サントリーの事業特性と創業家経営の親和性を指摘する声も多い。「お酒など、発酵や科学的に解明されない未知の領域が存在する」「100年単位で考える、株主の一時の損得に左右されない経営が求められる」といった意見は、長期的視点での経営の重要性を強調している。
実際にサントリーのビール事業は45年以上赤字続きだったことは有名な話だ。1963年にビール事業に参画後、単体で黒字化したのは2003年の「ザ・プレミアム・モルツ」が生まれてヒットしてからといわれている。上場企業で数十年間も赤字続きの事業があることは、株主が許すはずもなく、早期に撤退を迫られるだろうことは想像に難くない。非上場企業だからこそできる長期的視点でのR&D投資だったと言える。
同じことが東レのカーボンなどにも言える(1971年の量産化から黒字が安定したのは2011年といわれる)。本当に革新的な製品やサービスの事業化には長期のR&Dが求められるものであり、昨今の短期目線の資本主義の在り方が蔓延するなかで、日本企業が戦っていけるのか、注視していきたい。
創業家出身の鳥井新社長の下、サントリーは伝統ある酒造メーカーとしての価値観を守りながら、環境への配慮や革新的な取り組みも進めていくことが期待される。非上場企業として、四半期ごとの業績に左右されない独自の経営スタイルを維持しつつ、持続可能な成長を目指す姿勢は、日本企業の新たな経営モデルとしても注目を集めている。