企業の人事・労務に関するエキスパートである社会保険労務士。近年、労働問題の増加や法改正に伴い、その重要性はますます高まっている。
企業にとって、従業員は大切な経営資源であると同時に、労務問題は経営を大きく左右するリスク要因となりうる。
そのため、専門的な知識と経験を持つ社会保険労務士の存在は、企業にとって不可欠なものとなっているのだ。
社会保険労務士は、労働基準法、労働者災害補償保険法、雇用保険法、健康保険法、厚生年金保険法など、労働・社会保険に関する幅広い法律知識を必要とする。
難関資格として知られる社会保険労務士試験だが、合格するためにはどのような勉強法が有効なのだろうか。
本記事では、労働問題に特化した特定社会保険労務士である鈴木教大氏にインタビューを行い、独自の勉強方法や、その仕事内容、やりがい、社会保険労務士を目指す人へのメッセージなどを伺った。
家業を継ぐも、天職を求めて社労士の道へ
鈴木氏が社労士を目指したきっかけは、24歳の時に経験した父親の病気による家業の継承だった。
大学卒業後、県外の企業に就職していた鈴木氏だったが、父親の病気をきっかけに地元・栃木県の実家に戻り、家業である米の販売などを手がける会社で働くことになった。
「3代目として期待されていることは理解していましたが、正直なところ、家業を継ぐことに迷いもありました。そんな中、経営や人事労務に関する書籍を読む中で、従業員と企業双方にとってより良い関係構築の重要性を感じ、社労士の仕事に興味を持つようになったのです」(鈴木先生)
そして、26歳から本格的に社労士試験の勉強を開始する。働きながらの受験勉強ということもあり、鈴木氏はTACの通信講座を受講することにした。
「TACを選んだのは、教材のわかりやすさとサポート体制の充実度が決め手でした。特に、講師が独自に作成したというレジュメは、図表やイラストを多用していて、非常に理解しやすかったです。また、わからないことがあれば、いつでも電話やメールで質問できる体制も心強かったですね」(鈴木先生)
早朝や夜間など、限られた時間を有効活用し、TACの教材を繰り返し学習する日々を送った。2年間の努力が実を結び、見事、28歳で合格を果たした。
「今になって思うのは、社労士の試験レベルができなかったら実務は絶対無理だなってことです」(鈴木先生)。
労働問題のエキスパートとして、経営者に寄り添う
資格取得後、鈴木氏はすぐに独立開業するのではなく、年金事務所や労働局に2年間勤務することを選択した。
「開業前に、行政機関で実務経験を積みたいと考えました。労働局では、企業が申請する助成金の審査業務を担当しました。毎日、膨大な数の申請書類と向き合い、企業の担当者とやり取りする中で、企業側の視点と労働者側の視点の両方を理解することの大切さを痛感しました」(鈴木先生)
この経験が、現在の鈴木氏の活動の基盤となっている。鈴木氏の専門分野は、労働問題解決である。企業は、採用から退職に至るまで、様々な労働問題に直面する可能性がある。
「近年増加している相談内容としては、長時間労働やハラスメント、メンタルヘルス不調、従業員とのトラブルなどがあります。また、新型コロナウイルスの影響で、休業や解雇に関する相談も増えています」(鈴木先生)
鈴木氏は、労働問題の専門家として、企業側の立場に立ちながらも、法令遵守の観点から、適切なアドバイスを行っている。
「例えば、問題社員への対応は、多くの経営者にとって頭を悩ませる問題です。安易な解雇は、後に訴訟問題に発展するリスクもあるため、慎重に進める必要があります。私は、過去の判例などを踏まえ、状況に応じた対応策を提案しています」(鈴木先生)。
経営者目線と豊富な経験に基づいた実践的なアドバイスが強み
鈴木氏の強みは、労働局での勤務経験、そして、自身が家業の継手として過ごした経験を持っていること、また現在10名近い社員を抱える経営者であるという特異な経歴に立脚している。
経営者の立場を理解し、労働局や年金事務所といった行政での勤務経験を持つ社労士は日本全国でもおそらくほかにいない。
鈴木氏自身も「真の意味で実践的なアドバイスができる社労士として経営者の良き相談相手になれることが評価されているのだと思う」と語る。
「多くの場合、経営者は、日々の業務に追われ、人事労務にまで手が回らないのが現状です。そこで、私は、企業の状況をヒアリングした上で、就業規則の作成や変更、採用のサポートなど、企業の成長をサポートするサービスを提供しています」(鈴木先生)
また、鈴木氏は、労働紛争や雇用のトラブルの解決にも力を入れている。
「実際にあったケースですが、従業員が意図的にトラブルを起こし、会社側に多額の退職金を要求するといった悪質なケースもありました。このような場合、安易に要求に応じるのではなく、過去の判例などを参考にしながら、適切な対応策を講じる必要があり、私が従業員との打ち合わせに同席させてもらいながら、助言をさせていただくこともあります」(鈴木先生)
鈴木氏は、労働紛争が発生した場合、企業側の代理人として、相手方との交渉や労働審判、訴訟などの手続きを代行する。
「雇用のトラブルは、企業にとって大きな負担となります。経営者にとっての心理的負担も大きく、本業に集中できる環境を一刻も早く取り戻すためにも、早期解決が必要です。紛争が発生した場合は、できるだけ早く専門家に相談することをお勧めします」(鈴木先生)。
社労士を目指す後進へのメッセージ
最後に、鈴木氏は、社労士を目指す人に向けて、次のようなメッセージをくれた。
「社労士の仕事は、企業の成長をサポートすると同時に、そこで働く人々の生活を守ることに繋がります。非常にやりがいのある仕事です。もし、あなたが、人と企業に関わる仕事に興味があり、誰かの役に立ちたいという気持ちを持っているなら、ぜひ、社労士を目指してみて下さい」(鈴木先生)
鈴木氏のインタビューを通して、社会保険労務士の仕事の重要性や魅力、そして、労働問題解決の難しさややりがいを改めて認識した。
企業にとって、従業員は大切な経営資源であると同時に、労務問題は経営を大きく左右するリスク要因となりうる。
今後ますます需要が高まるであろう社会保険労務士という職業に、改めて注目が集まっている。