株式会社 YEデジタル(福岡県北九州市)は1978年の創業以来、デジタル技術とデータ活用でお客様の課題解決を支援しています。
ミッションは「デジタルで、暮らしに明るい変革を」で、ソリューションを通じて持続可能な社会の実現に貢献しています。
本記事では、畜産業に欠かせない飼料の残量を高精度に管理できる新ソリューション「Milfee(ミルフィ―)」を、マーケティング本部事業推進部の町田英之が紹介します。
国産の肉や卵が食べられなくなる? 畜産業の存続が危うい
今、日本では年間百件、二百件という大変な速度で畜産農家の廃業が続き、肉・卵・乳製品を生む畜産業の存続をゆるがす課題に直面しています。
背景には、高齢化、後継者不足など既存の課題と、近年の飼料価格の高騰があります。
人口の減少で人手が不足するなか、特に畜産業界は生き物相手で休暇が取りにくい労働環境が若者の就労先として敬遠され、働き手全体が高齢化しています。
畜産経営にかかる費用のうち、6割弱は飼料が占めるといわれています。
輸出国ウクライナをめぐる情勢の急迫で原料になる穀物が高騰、さらに円安が加わり、輸入飼料に頼る日本の畜産農家は大きな負担を強いられています。
法改正で輸送態勢が大幅に変わる、物流の「2024年問題」も飼料の輸送に大きく影響します。
飼料タンク内が見える「目」を作りたい
畜産農家の厳しい労働環境のひとつに、家畜のえさの管理があります。飼料は通常4〜6m、大きなものでは約8mの高さの屋外タンクに保管されていて、農場では毎日、各タンク内の残量を確認しています。
タンクの側面の窓は、次第に見づらくなります。また、飼料はタンク下の出口から砂時計のように減っていくため、正確な残量を見定めるのは容易なことではありません。
家畜のえさやりは一日たりとも怠ることができないので、農家(地域によっては運送会社)は悪天候の日もタンクのはしごを上り、上部のふたを開けて、ひとの目で飼料残量を確認しているのが実情です。
大規模な農場では、広い敷地に50基以上のタンクが点在しているため巡回に時間がかかり、高所での作業には危険が伴います。
「なんとしても当社の技術力で、この課題を解決する製品を作りたい」―大きな負担になっている確認作業を、センサーで置き換えることができないか、当社は取り組みを始めました。
数百回の実験で、ついに高精度の計測を実現
タンク内にある飼料の計測は以前から試みられていましたが、タンクの脚につける重量計は、1基に100万円といわれるほど高価です。
また超音波などのセンサーでは正確に計測できないタイプの飼料があるため、目視に頼らざるを得ませんでした。
当社は、2019年にビニールハウスで使う加温機用燃料タンクの残量管理ソリューションを開発していたので、その技術を応用しようと考えました。
しかし、開発は一筋縄ではいきませんでした。液体である燃料と、粉や粒の飼料とでは計測の仕組みが違うからです。
新ソリューションでは、いろいろなセンサーで鶏・豚・牛の飼料を計測できる組み合わせを探って、研究室で数百パターンの実験を繰り返しました。
地道な試行錯誤の末、飼料タンクのふたにセンサー機器を設置し、特殊なロジックで体積を算出する計算式を作って、高精度な計測を実現しました。
この方式なら、他社製品で計測が難しかったマッシュ(粉体)飼料も精度よく計測できます。当社は特許を取得し、「マッシュも計測できます」と自信をもってお客様に勧められるようになりました。
「すぐほしい」「仲間にも紹介したい」というユーザーの声
「飼料」(フィード)をセンサーで「見る」ことができる新ソリューションは「Milfee(ミルフィ―)」と名づけました。
ユーザーの飼料メーカー、運送会社、農家には、それぞれに飼料の残量を管理するニーズがありましたが、「技術で解決できるとは思わなかった」という方も少なくありません。
一番多いのは「毎日タンクに上っているから、スマートフォンで残量を確認できるのはうれしい」という反応です。展示会などで紹介して「こんなのがあるんだ、すぐほしい」と言われることもあります。
「Milfee」は、2022年7月の提供開始から約1年のうちに全国382農場で導入されています。「仲間にも紹介するよ」と言ってくださるお客様もいて、待ち望まれていた製品なのを肌で感じています。
飼料輸送の効率化で「働き方改革」「SDGs目標」に貢献
「Milfee」は飼料残量を計測し、携帯電話回線を通じてクラウド上にデータを送信・管理するのでパソコンやスマートフォンから内容を確認できます。
正確な計測は、飼料メーカー、飼料を農場に配送する運送会社からも歓迎されています。
これまでは、飼料不足に気がついた農家から、しばしば急な発注がありました。
専用の飼料をその都度製造・輸送するのは大変な手間なので、配送運転手は飼料残量を確認するために個々の農場を回るなど、遠距離移動が常態化していました。
しかし2024年からは働き方改革関連法が施行されます。
いわゆる物流の2024年問題で、運転手の時間外労働の規制や割増賃金率の引上げのため、輸送に付随する業務の依頼や長時間の拘束はできなくなります。
「Milfee」の導入で遠隔地からも飼料の残量が確認できれば、配送を平準化し、走行距離を短縮できます。
北海道の事例では、これまで飼料の残量確認・補充に要した走行距離は1台あたり月6,000kmでしたが、「Milfee」導入後は月4,000kmに減り、CO2の排出量を削減できました。
「Milfee」は当社が賛同するSDGs目標にも貢献しています。
デジタル化で畜産の未来をつなぐ
生き物と向き合う畜産業には、アナログの作業が数多くあります。だからこそ、デジタル技術を活用して働く環境を改善できれば、業界全体の持続可能性も高まります。
将来、「Milfee」のクラウドに飼料に関するデータが蓄積すれば、畜産に役立つ情報を生かせるかもしれません。お弁当箱ほどの大きさの「Milfee」には、明るい未来の種がたくさん詰まっています。
◎会社概要
会社名:株式会社YE DIGITAL
URL:https://www.ye-digital.com/
代表者:玉井 裕治
事業内容:
2003年、東証2部(現スタンダード市場)に上場。DX支援を中心に事業を展開し、1978年の創業から45周年を迎える。設立当初の製造業向けサービスから一転、その製造業で培った高い技術の適用をソーシャル市場に拡大し、農業・畜産業のDX支援などにも注力。IoTを初めとする様々な事業を展開しているが、その内の1つ『Milfee』という家畜の餌となる飼料のタンク内残量管理や配送時の負担軽減など支援する製品が評価され、2022年7月の導入開始から約1年で382農場に導入が進んでいる。
◎筆者プロフィール
町田 英之 (まちだ ひでゆき)
株式会社YE DIGITAL マーケティング本部 事業推進部 ソリューション担当部長
YEデジタルに入社後、20年間にわたる営業のキャリアを積みました。
この経験を踏まえて、現在はマーケターとして畜産業における課題を、IoT技術を活用して解決するための戦略を立て取り組んでいます。
「デジタル化による、働き方改革・生産性向上で農業・畜産の未来をつなぐ」を目標にスマートな畜産や農業化を支援していきたい!という思いで、取り組んでいます。