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日大の林真理子理事長の記者会見から考える不祥事のトップの対応

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hayashimariko_sano
photoACより

不祥事が起こった際に、その後の行く末の明暗を分けるトップの望ましい対応について、日本大学アメリカンフットボール部の不祥事に対応した林真理子理事長の事例を通して考える。

日大アメフト部の現役部員が覚醒剤と大麻所持で逮捕

2023年7月6日、日本大学アメリカンフットボール部の3年生部員(21歳)が、寮内で覚醒剤と大麻を所持していた疑いで逮捕された。当該3年生部員は、「大麻を買ったときにおまけとして、覚醒剤をもらった」という趣旨の説明をしていると報道されている。

大学側が違法薬物を発見後、約2週間、警視庁に報告していなかったことや、当初はアメフト部全体に無期限活動停止処分が課されるなど連帯責任の是非が世間では大きく議論となっていた。

本件で同時に注目されていたのが、8月8日に実施された記者会見での同大の林真理子理事長の対応である。

林真理子理事長の記者会見から見る“当事者意識”の重要性

記者会見では、林理事長が「学生が逮捕されたことは大変遺憾であり、深く受け止めている。多大なご迷惑、ご心配をおかけした」と陳謝した。

注目されたのが、「(今回の日大の事件について)結局どこに問題があったとお考えか?」という記者の質問に対する林理事長の次の回答である。

「実は一番重たい問題を抱えていたのはスポーツの分野だった」

「あまりスポーツの組織はわからない」 「(理事長に)就任後はスポーツの方は学長にお聞きする立場で、はっきり申し上げて遠慮がございました」
「文系の方々とは親しくお話しできても、スポーツ関係の方とはちょっと距離を置くような私の心理がちょっと影響しているのではないか」

不機嫌そうな表情の林理事長の言葉の節々からは、当事者意識の欠如が感じられた。自身が理事を務める大学での不祥事であれば、重く責任を受け止めて真摯に説明すべきではないか。

当事者意識はコミュニケーションから

林氏が日本大学の知事長に就任したのは、令和4年7月1日から。日本大学理事長選考委員会が発表している理事長候補者選考理由書によれば、林氏を理事長に推薦したのは、林氏が「『多くの教職員との対話を重視し、学生・生徒たちも含めて、多くの人たちから意見を聞いて風通しの良い環境を構築していく。大きな組織の経営や運営は、独断で進められるべきではない。』との考えをお持ちであり、コミュニケーション重視のマネジメント方針を強調されていることから、日本大学の今回の一連の不祥事の要因となった専横的体制や、第三者委員会の報告書にある“組織の同質性、上命下服の体質”といった風土からの脱却に必要なお考えと実行力を持ち合わせている方」だからだという。

選考理由書で述べられている不祥事とは、日本大学の前理事長の田中英壽氏の所得税法違反の件である。田中氏は大阪の医療法人から受け取ったリベートなどおよそ1億1800万円の所得を隠し、平成30年と令和2年の2年間にあわせて約5200万円を脱税したとされる。

大学の体質改善という使命を果たすべく、林氏が理事長として期待されていたコミュニケーションを重視したマネジメント。本人も認める通り、コミュニケーションが一部で不足していたことが、同大学の悪しき体質の維持と、当事者意識の欠如につながった可能性がある。

巨大組織のトップという立場では全員とコミュニケーションを図ることは不可能かもしれないが、少なくとも各々の役職者とは十分な連携をとるべきであったはず。オープンなコミュニケーションは関与と理解を促し、当事者意識が芽生えやすくする。不祥事が生じても、普段から交流が活発にあれば、問題解決への積極的な取り組みが生まれ、信頼回復の一歩となっていただろう。

ビッグモーター、スシロー事例から学ぶ「2次」不祥事を発生させない対応

トップの当事者意識は、「2次」不祥事を防ぐためにも必要である。「2次」不祥事とは、最初の不祥事についての対応が不誠実なために、不祥事がさらに炎上する事態のこと。SNSで情報が一瞬で拡散される現代社会において、その重要性は増し続けている。

「2次」不祥事で明暗を分けたのが、スシローとビッグモーターであろう。

自動車保険の保険金を水増しして損害保険会社に請求したとされるビッグモーター。兼重・前社長は、会見で「ゴルフボールを使った不正行為は、ゴルフを愛する人への冒涜」「不正は知らなかった」「不正は板金塗装部の単独」などの発言をして、SNSなどで激しい批判の的となった。林理事長の会見と同様に、当事者意識の不足から「我関せず」の姿勢が透けて見えた例である。

一方、客による迷惑行為によって炎上したウェブにうまく対応したとされているのが回転ずしチェーンの「スシロー」(運営:あきんどスシロー)である。約2週間、警視庁に報告していなかった日大と異なり、迷惑動画が話題となった翌日にはすでに調査を始めることや、今後の対応法についてプレスリリースで報告を出し、2日後には、対象店舗名と防止策に加え、被害届の提出、当事者へ刑事と民事の両面から「厳正に対処」すると明言。ツイッターで「#スシローを救いたい」がトレンド入りすると、新居耕平社長は公式ツイッターで感謝の言葉を迅速に投稿した。

スシローやビッグモーターに関する記事はこちらからもご覧になれます。

不祥事対応で求められる当事者意識と迅速さ

ビッグモーター、スシロー、そして今回の日大での事例を鑑みると、不祥事でのトップの対応では、「当事者意識」と「迅速さ」が重要だと考えられる。

トップの当事者意識の不足は、リーダーシップの欠如と解釈される。組織の価値観や倫理に対する関心の欠如と結び付けられることで、批判がさらに強まる要因となってしまう。反対に、当事者意識を持ち、事態の深刻さや対策を的確かつ誠実に伝えることができれば、信頼を取り戻す道が開かれるだろう。

当事者意識をきちんと持てば、関係各所への連絡や決断のスピードも上がり、迅速な対応ができるはず。日々のコミュニケーションを積極的におこない、何事に対しても「自分の責任」と捉え、主体的に働きかけようとする姿勢がトップには求められている。

参考
「日大会見」林真理子理事長の対応が完全に失敗だった理由 「メディア慣れ」と「非常時の対応」は異なる
日本大学理事長候補者選考理由書
日大トップ逮捕の衝撃から1年 林真理子新理事長による会見ほか、不祥事後の対応を振り返る
スシロー、寿司テロ騒動後に社長が見せた「巧さ」
新社長が涙を流そうとも、ビッグモーターの救いようのなさ…「他人事謝罪」に不祥事の数々

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ライター:

1991年東京生まれ。中央大学法律学部出身。卒業後は採用コンサルティング会社に所属。社員インタビュー取材やホームページライティングを中心に活動中。

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