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アフガニスタンから来たアランくんの話とあなたの話 | #混ぜなきゃ危険

コラム&ニュース コラム
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AbobeStockフォトより引用

「自分の意見や体験を発信することは、あなたにとってだけではなくて、周りにとっても社会にとってもとても大切なことなんだよ。」

「言われてみれば、たしかにそうかも。」

——最近、大学生や高校生、それから若い社会人の方たちに、こう言ってもらえることが続いたので、少し調子に乗って、もっとたくさんの人たちに聞いてもらいたくなりました。

パチ

こんにちは。八木橋パチ(やぎはし ぱち)です。cokiでは「八木橋パチの #ソーシャルグッド雑談」を連載させていただいています。

#ソーシャルグッド雑談では、人との雑談から飛び出してきた「多くの人に知ってもらいたい」と思うことを中心にお伝えしているのですが、こちらのコラム「#混ぜなきゃ危険」では「この出来事や体験ってもっと世の中に広く知られている方が、より良い社会につながるんじゃないかな?」なんて感じた体験を、読者の皆さんにご報告していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします!


あなたが伝えようとしなければ伝わらない

どうして、自分の声を発信することが大事なのか。

それは、世の中にはすでに情報が溢れていて、検索や生成AI(ジェネレーティブAI)に上手に尋ねれば簡単に答えが手に入る世の中だということがまことしやかに言われているけれど、そんなのまったくの嘘っぱちだからです。

世の中やインターネットに溢れているのは、また聞きした『どこかで誰かが言っていたような話』がほとんどで、そのほとんどが「分かりやすい」「典型的な」「一見正しそうに見える」情報ばかりです。コピペとちょっとした手直しで、そうした情報が大量再生産されています。

そして検索エンジンは、その山の中から結果を提示してくるし、生成AIもそれらのネット情報の記事を情報源に、「答え」として提示してきます。

求められているのって、そういう「分かりやすい答え」らしきものなのでしょうか。

今、困っている誰かが必要としているのは、自分と同じような状況や立場に置かれている人のリアルな体験であったり、そうした人の近くにいる人が、見聞きする中で感じたことや思ったことについての情報ではないでしょうか。

自分自身の体験や、直接見聞きしたことを元として書かれた意見や出来事は、圧倒的に足りていません。あの日あのときあなたが感じたことは、あなたが残そうとしなければ残らないし、伝えようとしなければ伝わらないのです。

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AbobeStockフォトより引用

それって、本当にあなたの意見ですか?

そもそも、どうして学生や若い人たちに「自分の意見や体験を発信しよう。それはあなたにもみんなにも役立つから」という話をよくするようになったかというと、ここ数年、学生向けのワークショップやトークイベントなどに参加する中で、彼彼女たちが話すことがあまりにも「典型的な正しい答えらしきもの」ばかりだと感じるようになったからです。

「正しい答え」なので誤りではないし(当たり前ですね)、それを言うことになんら問題はありません。でも、その様子を見ていると、フツフツと疑問がわいてくるのです。「それって、本当にあなたの意見ですか?」と。

「私が聞きたいのは『あなたの意見』です。『正解』ではありません。」と、言いたくなってしまうのです。

とはいうものの、彼彼女たちが自分の意見を口にしようとしない理由も分からなくはありません。だって、「正しいことを言っておけばひとまず安心」だし、「本心や本音を出したところで、別に得られるものがなくない?」と思わされることが多いですよね。

「また変なこと言っている」と思われたり、「でしゃばり」と思われたり。目立つとろくなことないし、埋もれていたいし浮くことはリスクが高すぎる。人と違うことを言ったり発信したりして、「たいした意見でもないのに、あいついちいち言うよね」なんて言われたら、傷つくし。 …そんなふうに思う人が大多数なのは、無理もないのかもしれません。でもね。

アフガニスタンから来たアランくんの話

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AbobeStockフォトより引用

突然ですが、この春、私はオンラインで週2〜3回、ある一人の男子受験生の入試準備のボランティアをしていました。

彼の名はアランくん、16歳。出身はアフガニスタン。半年ほど前に家族4人で来日し、在留資格を得て暮らしています。

アランくんはアフガニスタンの高校1年生でした。でも日本に来る直前は、ほとんど学校に通えていなかったそうです。タリバン政権が復活した後、お父さんの仕事の関係から、家族に身の危険が迫っていたからです。

日本に来てしばらくが過ぎ、少しずつですが落ち着いた日常が戻ってきました。日本語も、徐々にではあるものの分かるようになってきました。

そんな中、アランくんは「勉強をしたい」と思うようになりました。学校に通いたい。大学にも進学したい。そのためにはまず、日本の高校に入学しないと。

幸いなことに、アランくんの家からそう遠くない場所にあるとある県立高校が、外国人生徒向けの特別入学枠を用意していました。試験は日本語面接と英語エッセイの2科目。私はアランくんの英語エッセイのコーチとなり、一緒に入学試験突破を目指しました。

英語エッセイは、決められた文字数で50分以内に書く必要があります。出題されるテーマが何になるかは、当日エッセイ試験がスタートするまで分かりません。ただ、テーマが何であれ、アランくんがどうして高校に入学したいのかをしっかりと文章に落とし込むことが、重要なアピールポイントになるはずです。

「将来の夢」「高校生活で手に入れたいもの」「日本に対する期待」…3週間、アランくんは毎回私が出すテーマに合わせてエッセイを書きました。テーマ毎に中心となる文章は変わるものの、毎回、最後は必ず以下のアランくんのストーリーにつなげていくことにしました。

そのストーリーを、日本語で紹介します。

僕が中学生のある日、突然、クラスから女の子が一人もいなくなりました。僕よりもずっと頭が良くて親切で、僕が分らない問題で困っているといつも親切に手助けしてくれた隣の席の女子も、学校に来られなくなってしまいました。
それは、政府の実権を握っているタリバンが、女子が通えるのは小学校までとしてしまったからです。僕には、勉強好きで学校好きの女子の友だちが何人かいました。でも、女子だから、もう学校に来れなくなってしまったのです。


僕の祖国アフガニスタンは貧しい国です。それは政治も経済も貧弱だからです。そのため教育レベルも低く、さらに国民の半分には教育を受ける権利も与えられていません。僕は、しっかり勉強して、いつか祖国をもっといい国にしたいと思っています。

その準備をするのに、安全で裕福で、人びとが親切で勉強熱心な日本はピッタリで、僕が真面目に努力を続ければ、きっと夢を叶える手助けをしてもらえるのではないかと思っています。まずはこの高校に合格して、友だちをたくさん作って毎日勉強をしたいです。そしてアフガニスタンにいたときのようにサッカー部にも入って、シュートを決めてチームを勝たせたいです。

僕が日本の高校に行きたいのは、勉強を続けて将来は大学を卒業して祖国に帰り、国を再建したいからです。どうか、日本の高校に入れますように。

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AbobeStockフォトより引用

あなたの近くにもいるアランくん

皆さんは、こうしたことが身の回りで起きていることを知っていましたか?

アランくんの話は、「よくある話」ではないけれど、決して「遠いどこかで起きている話」でもありません。アランくんのような経験をして、似たような思いを持って日本で暮らしている学生は、皆さんの身近にも結構いるんですよ。

でも、この話をアランくんがみんなの前ですることは滅多にありません。そしてインターネットに書くことも。

なぜなら、日本に住んでいても、タリバンの脅威がなくなったわけではないからです。「アランくん」というのは仮名です。住んでいる地域や学校の名前も秘密です。身バレしたら、彼自身や彼の家族に、私たちが想像しないような酷いことが起きる可能性もあるからです。

そんなわけで、アランくんの話が出回ることはありません。普通に生活しているだけ、検索しているだけでは、なかなか知ることはできません。

社会には、伝えるべきことがあるのに伝えることができない状況にいる人も、少なからずいるのです。

「日本に住んでいるアフガニスタン人の学校生活や入学について教えて」と生成AIに聞いても、しっかりとした中身のある答えは返ってきませんでした。

なお今回の「アランくんの話」は、本人や家族の安全を考慮し一部事実を改変しています。他者(自身も)のプライバシーを含む情報を発信する際には、十分な配慮と注意と怠らず、安全を最優先にしてください。

AbobeStockフォトより引用

コピペからは生まれないもの

「こんな特別な話、わたしが直接聞くことはないし。ましてや、わたしに関することでそんなに特別なことなんて起きないし。…やっぱりわたしの意見や体験なんて、発信する必要なんてなくない?」

——そう思う人もいるでしょう。実際、この話は私の体験ではなくアランくんの体験だし、私がアランくんの話に触れることができたのも単なる偶然です。

でも、あなたに起きることはよくある平凡なことかもしれないけど、あなたがそれをどう感じどう思ったかは、特別なことなんです。だってあなたの置かれている状況はあなただけの固有のもので、あなたの感情と感性はあなたしか持っていないものだから。

だから、自分が思ったことや感じたことを大切にしてください。そして「こう感じた」ということをしっかりと見つめ、周囲にシェアしてください。

あなた「だけ」のその話が、検索や生成AIが頼りにならず、どうしたらいいか分からなくて困っている誰かにとっての特別なヒントになったり、何らかの気づきを与えてくれるものになったりするんです。

それは誰かの話のコピペからは生まれないもので、あなたから生まれた1次情報であり意見だからこそ、誰かの役に立つものなのです。

Happy Collaboration!

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ライター:

バンド活動、海外生活、フリーターを経て36歳で初めて就職。2008年日本IBMに入社し、社内コミュニティー・マネージャー、およびソーシャル・ビジネス/コラボレーション・ツールの展開・推進を担当。持続可能な未来の実現に取り組む組織や人たちと社内外でさまざまなコラボ活動を実践し、記者として取材、発信している。脱炭素DX研究所 客員研究員。 合い言葉は #混ぜなきゃ危険 #民主主義は雑談から #幸福中心設計

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