創業から100年以上続く企業を「100年企業」と呼びます。需要や流行の変化だけでなく、バブル崩壊や新型コロナウイルスといった大きな危機を乗り越えた企業は、たくさんの魅力に溢れています。
実際に100年以上続く長寿企業に多いのが、日本の伝統文化である「老舗旅館」です。
この記事では、100年企業の共通点や日本企業の長寿の理由を解説しています。
さらに、100年以上続く老舗旅館をランキング形式で紹介しています。旅館のおすすめポイントや経営理念からも、長寿企業の魅力をぜひ感じてください。
100年企業の共通点
長寿企業には、以下のような共通点があると考えられます。
- 「三方よし」の精神(ステークホルダーへの貢献)
- リピーターを生む経営理念とサービス
100年以上存続する企業は、「三方よし」の精神を重視しており経営理念やサービスからリピーターの厚い信頼を得ているのです。
「三方よし」の精神(ステークホルダーへの貢献)
企業の目的は利益を得ることですが、ステークホルダーにとって利益となっているかという点も重要です。
これは、近江商人の「三方よし」の考え方につながります。「売り手」「買い手」「世の中」のそれぞれに対して、よい事業をおこなわなければ続かないということです。
たとえば、大きな利益を生んでいても、環境への配慮を欠いた事業であれば必ず大きな問題となります。顧客や従業員、社会に還元し世の中に貢献していることが、長寿企業に見られる共通点の1つです。
リピーターを生む経営理念とサービス
100年以上存続するためには、リピーターの支持が不可欠です。必要に応じた変化は大切ですが、流行や目先の利益にとらわれた方針の変更が多いと、企業は不安定な状態が続きます。
確かな実績と経験を積み上げることで、企業はより魅力的になりリピーターの獲得へつながります。
さらに、トップが変わっても経営理念がしっかりと引き継がれることで、時代の変化や従業員の入れ替わりによって方向性がブレることはありません。
一貫した経営理念をもとに、長期的にサービスの質を高められるため、顧客満足度の向上へとつながるのです。周りに流されず、理想を追求する姿勢が結果として多くの支持を集めます。
100年企業における日本の割合と長寿の3つの理由
世界の中でも、日本は100年企業が1番多い国です。そんな日本の100年企業の割合と、3つの長寿の理由を解説します。
日本は長寿企業大国
日経BPコンサルティング・周年事業ラボのデータでは、世界の創業100年以上の企業総数7万4037社に対して、日本の100年企業は3万7085社で、世界に占める日本の割合は50%以上です。
ちなみに、2位はアメリカの2万1822社と日本とは大きな差が開いています。
創業200年以上においても、日本は1388社とトップで世界に占める割合は65%を超えます。
100年企業が日本に多い3つの理由
日本に長寿企業が多い大きな理由として、以下の3つが考えられます。
- 「三方よし」の考え方をもっている
- 人とのつながりを重視している
- 地域を大切にしている
1つ目の理由は、「三方よし」の考え方の存在です。
企業と顧客だけでなく環境や社会への配慮は、資源の確保などの面でも、安定した事業の継続につながります。
日本の企業に「売り手」「買い手」「世の中」のそれぞれにとってよい事業を目指す考えが浸透している点は、長寿企業が生まれやすい要因といえるでしょう。
2つ目の理由は、人とのつながりを大切にしていることです。
日本は国民性として、人とのつながりを重視する傾向にあります。助け合える協力者が多いことは、事業の成長には大きなメリットです。
さらに、年功序列の文化とも相まって、長期の雇用により周囲とのつながりもさらに強くなります。
スキルだけでなく、人とのつながりを大切にし、信頼を築き上げる国民性と文化が日本の長寿企業を支えています。
3つ目の理由は、地域を大切にしていることです。
地域に愛される企業は、評価が高まります。信頼やつながりによって支え合える関係性ができていることは、経営の危機やトラブルを乗り越える力になるでしょう。
地域に密着して、価値を提供する企業であることが、事業を長く続けるためには重要です。
100年以上続いている老舗旅館をランキングで紹介
日本の伝統ともいえる100年以上続く老舗旅館を、創業年数順にランキング形式で紹介します。
それぞれ、旅館の特徴や経営理念も合わせて解説しています。
5位 かいり(718年創業)
新潟県魚沼市のかいりは、718年創業の老舗旅館です。魚沼産の美味しいお米や食材を味わえる料理と、山里の風情を感じる客室が多くの方に愛されています。
神様になぞらえた7つの湯
戦国武将である直江兼続も愛した温泉地にあるかいりは、3つの源泉を使って7種類の湯を用意しています。
それぞれに七福神になぞらえた名前がつけられており、楽しみながらリラックスできる空間になっています。
かいりの経営理念
かいりのほか、4つの旅館の経営をおこなうグループは「人間活力の充電器」であることを目指して活動をおこなっています。
事業の根幹となっているのは、食材や温泉などの恵まれた自然環境を、食事や施設を通してお客様目線で進化させることです。
多くのかたに楽しい交流や癒しの時間を提供するという理念のためには、観光客だけでなく、地元からも愛される場所でなくてはなりません。
自然の魅力を最大限に活かして、より大きな価値を提供する姿勢が長寿につながっています。
4位 法師(718年創業)
石川県小松市にある法師は、加賀の魅力と北陸最古の名湯を楽しめる老舗旅館です。
泰澄大師が、神のお告げを受けて温泉を掘り当て、弟子の雅亮法師に任せたことが名前の由来です。
日本庭園と季節を感じる客室
法師は、日本庭園を囲むような造りになっています。館内の移動だけでも日本独自の美しさを味わうことができます。
また、四季になぞらえた客室はそれぞれ雰囲気も異なるため、訪れるたびに違った魅力を感じられるでしょう。
法師の経営理念
法師では、災害が少なく温泉が湧き続けていることなど、恵まれた環境から自然への感謝を忘れません。
そして「何よりも人は大事」と考え、ともに時間を過ごす人を大切にして、心を通わせることを重視しています。
人と自然を大切にしてきたことが、法師が長く愛されてきた理由です。
3位 お宿やました(718年創業)
お宿やましたは、石川県の金沢市にあり、歴代の加賀藩主が通っていた記録の残る老舗旅館です。
山と海の恵みはもちろん、自然あふれる景色やお月見台から見える夜空とともに、日常から離れた時間を過ごせます。
竹下夢二が恋人と過ごした場所
大正時代には、詩人画家の竹久夢二がもっとも愛した恋人と、お宿やましたで幸せな時間を過ごしたとされています。
館内のギャラリーでは、竹久夢二に関する作品を集めて紹介しており、ゆっくりと鑑賞することができるでしょう。作品との世界観の調和によって、よりいっそう癒やしと風情を感じられる空間です。
お宿やましたの経営理念
お宿やましたでは、長い歴史をあまり大きく打ち出すことはありません。
変化や取り組みを直接お客様に感じてもらえる、旅館という商売を楽しむことに重きをおいています。歴史を重く受け止めすぎず、重圧を感じないことが「好きな仕事」を続けられる理由です。
また、お宿やましたは他の事業に手を出すことはなく、一軒の温泉旅館を続けています。見栄を張ったり流されたりせず、楽しい仕事に全力を注ぐ姿勢が、今も歴史をつないでいます。
2位 古まん(717年創業)
城崎にある古まんの歴史は「城崎の歴史」ともいわれるほど長く、兵庫県でもっとも古くから続く企業です。黒毛和牛や松葉がになど、山の幸も海の幸も堪能できる城崎の魅力を存分に感じられます。
歴史を感じられる数寄屋造りと大浴場
日本の伝統的な建築様式である数寄屋造りで作られた客室は、木の暖かさを感じられる落ち着きのある空間です。
古まんには2つの大浴場があります。松や檜を使った「樹齢の湯」と総大理石造りの「白亜の湯」の木目や石目からは、長い歴史を感じられます。
古まんの経営理念
お客様が貴重な時間を有意義に最高の時間を過ごせるよう、古まんが大事にしているのは「おもてなしの心」です。
近年では外国人のお客様も増えている城崎温泉に合わせて、グローバル企業への発展にも取り組んでいます。
地域の歴史を背負いながらも、より多くの方に愛されるために変化を追求する姿勢が古まんの魅力です。
1位 慶雲館(705年創業)
「日本一人口の少ない町」山梨県の早川町にある慶雲館は、世界最古の宿泊施設です。
長い歴史の中では、徳川家康や武田信玄をはじめとした数多くの名将も訪れました。
日本随一の源泉と渓谷を見渡す客室
慶雲館の西山温泉は、1300年以上前から枯れることなく、毎分2000リットルが湧き続ける名湯です。
各部屋のお風呂、給湯、シャワーにいたるまで加温や加水のない全館源泉掛け流しの宿として、本物の温泉の素晴らしさをお客様に提供しています。
それでも、温泉の使用量は4分の1程度に抑えていることが、事業の存続にもつながる資源へ配慮です。
日本の伝統を重んじた客室のテラスからは早川渓谷を見渡せ、自然の四季折々を満喫することもできます。
慶雲館の経営理念
慶雲館は、本質を変えないという点を重視しています。外国人観光客が増えても、旅館としてのスタイルを変えることも、特別な宣伝をおこなうこともありません。
お客様に最高の時間を過ごしてもらうために、配慮や適切な対応はおこなうものの、本質は変えず流行に流されない姿勢を貫いています。
泉質や水量に恵まれた温泉に頼りきらず、おもてなしといった旅館としての総合力を磨き続けたことはもちろん、周りに流されずに一点に集中した結果が世界最古という名誉につながっているのではないでしょうか。
番外編 山の宿明治温泉(1888年創業)
ここでは、番外編としてcokiでも紹介させていただいた山の宿明治温泉をご紹介します。
山の宿明治温泉は、長野県奥蓼科にある創業130年以上の歴史ある老舗旅館です。
料理や客室から四季を存分に感じられるだけでなく、美しくも迫力のある「おしどり隠しの滝」を間近で見ることもできます。
明治温泉は泉質も特徴の一つとなっています。25度で湧き出る鉄分を多く含む冷泉は「明らかに治る湯」とされ、明治温泉の名前の由来です。
2018年からは、数々の老舗旅館を守ってきた実績のある鈴木義明さんがオーナーを努め、現在も明治温泉の魅力を伝えています。
コロナ禍で危機に直面しつつも、従業員や地域との連携を強めており、活動の幅を広げている明治温泉の今後の動向に注目です。
長寿企業の魅力と貫く信念
日本は、100年企業の割合が圧倒的に多く、生存率も高い傾向にあります。そこには、日本の文化や伝統も影響していますが、1つの信念を貫く姿勢が重要です。
なかでも老舗旅館は、歴史と魅力を100年以上つないできた心を感じられる空間です。記事でご紹介した旅館で、100年企業の長寿の理由を体感してみてはいかがでしょうか。
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