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慶應義塾大学SFC研究所 xSDG・ラボが提唱するSDGs実現への12の方策

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昨今、至る所で目にするようになった「SDGs」の文字。しかし、それが何を意味するのか、そして何をすることでSDGsが達成できるのか、まだ確たる答えは存在しないように思える。そんな中、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスには、SDGsの実現に向けて産官学連携により着実な取り組みを進めるxSDG(エックスSDG)・ラボがある。

今回はxSDG・ラボに、私たちがどのようなことを念頭に置けば、SDGsの世界観の実現に近づけるのか取材した。そこには、私たちの固定観念を打ち崩すような斬新な概念との出会いがあった。

佐久間 信哉 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授 略歴

中央大学法学部政治学科卒業。長年、地方公共団体で、様々な政策づくりに関わった後、現職。慶應義塾大学 SFC 研究所xSDG・ラボメンバー等複数の研究室に所属する傍ら、湘南みらい都市研究機構事務局長、鎌倉市行政委員、湘南鎌倉医療大学評議員、医療法人や企業等の理事やアドバイザーを務める。

慶應義塾大学SFC研究所 xSDG・ラボとxSDGコンソーシアム

Q:お忙しいところ、お時間をいただきまして、ありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします。まず、xSDG・ラボでどのような取り組みをされているのかご紹介いただけますか。

佐久間先生: SFCでは、その研究活動の母体としてSFC研究所[1]という組織があり、その中に、研究課題ごとの「ラボラトリ(ラボ)」が設置されています。

xSDG・ラボ[2]は、2017年10月に創設しまして、その翌年研究コンソーシアム「xSDGコンソーシアム」[3]がスタートしました。xSDG(エックスSDG)、とは何となく聞きなれないと思いますが、SDGsを掛け合わせるという、「掛ける」の意味のxです。いろいろなステークホルダーというか、仲間ですね。Vision Sharing Partnerと呼んでいるのですけれども、ビジョンを共有する仲間といろいろな好事例をつくって、それを日本国内あるいは世界に発信して、スケールアップを目指すためにxSDGコンソーシアムを推進しています。xSDGコンソーシアムには、企業や自治体にメンバーとして参加してもらい、オブザーバーとして関係省庁の方にもご参加をいただいています。

xSDGコンソーシアムでは、全体会合となる「コンソーシアム・ミーティング」において、毎回テーマに沿った有識者による専門的知識の提供や、関係省庁関係者による最新の政策動向を基にした議論・意見交換・ワークショップ等の実施を通じて、SDGs的アクションのあり方を検討します。また、SDGsの国際動向や国内実施、指標、政策の動き等に関する情報提供、情報交換を行います。そして、分科会による個別課題を掘り下げた検討により、従来の境界線を越えた(業界横断の)基準や目標、そしてアクションを官民連携で創出します。これまでの分科会の成果は、ウェブサイトで公開しています[4]

大事なことは、企業と地方自治体、あるいは関係省庁がコラボレーションできる非常にいい環境があるということです。

それから、書籍『SDGs白書[5]』もxSDG・ラボにより立ち上げられ、刊行しました。

書籍『SDGs白書2020-2021』

また、国連のHLPF(High‒level political forum on sustainable development: 持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム[6])に、企業や自治体と一緒にイベントを開催しています。

共同研究も、企業や自治体と実施しています[7]。寄附講座も実施しており、ここ2年ほど、シティグループ証券様と『SDGsと金融』をご一緒しています。

金融業界におけるSDGs、非財務情報重視の流れ

Q:ありがとうございます。2000年前後から2020年に至るまで、金額業界は、リーマンショックやその後の揺り戻しなど、とてもたくさんのことがありました。やはり金融業界で事業環境に対する認識というか、事業ポリシーの見直しのようなものがあって、SDGsに関心を持っているということなのでしょうか。

佐久間先生:かつては、いわゆる財務情報だけ見ていれば、リスクも回避できましたけれども、PRI(責任投資原則)やPRB(責任銀行原則)などへの署名も増えているように、今はむしろ非財務情報に高いアンテナを張っていないと、結果として将来のより大きなリスクが回避できなくなることを理解していると思います。

Q:そのポイントは、今、私たちも注目しているところで、おっしゃるように非財務情報の部分が重要視されてきて、特にアメリカなどではそういう風潮が強く出ていると思います。日本国内だと、その辺りに関する温度感は、まだまだ議論がある状況だと思うのですが、その辺は今どのように見ていますか。

佐久間先生:日本の場合はどうしても役所主導という感じが少し強くなりますが、本来だったら、おっしゃるように民間から大きいうねりが出て、行政がそれを最終的に認知して規則化するということがいい流れでしょう。日本の場合はなかなかそうならなくて、逆に行政から誘い水を出して、その誘い水が大きい流れになると、もっと強い仕組みにしていくということが、毎回のやり方で、今回もそういうことだろうと思います。

行政側で取り組めるSDGsへのドライブフォース

Q:逆にいろいろな企業や、例えば公的機関と連携する中で、見えてきた課題や、こういうところが今、少しやりづらくなっているというところがあれば教えてください。

佐久間先生:やはりコロナは非常に大きいインパクトでした。企業は利潤を上げないと維持できないですから、社会的に良い行いだけで飯が食えるのだったら一生懸命やってくれるのですけれども、そこは宗教とは異なります。そうなると、今までSDGs的にものすごく頑張っていた企業が、コロナによってその取り組みを相当スローダウンせざるを得ないということがあって、そこが非常に私たちとしてはもどかしいところだと思います。

Q:トップに特別に強い思い入れがあれば推進されるのではないかと思うのですが。

佐久間先生:国もそうですけれども、地方自治体の場合はコロナのせいで税収が致命的に減っています。なおかつコロナ対応では出費せざるを得ないので、非常に今、財政状況が悪くなっています。ですから、なかなかこういうものにお金が出しにくいという面はありますが、そこはまだトップが頑張れば何とかなる部分だと思います。一番の問題は、コロナがまだ治まっていないせいで、コロナに人を取られてしまっているのです。コロナが落ち着くまではなかなかそこは戻ってこないと思っています。

Q:そうですね。本当に良きこととしては理解されるのですけれども、論語とそろばんでいうと、論語としては理解できるけれども、そろばんと掛け合わせると動かなくなるという状況がとても強い感じがしています。そこをどう解決していくかが、今後の課題だと思います。

佐久間先生:一つの選択肢は税だと思います。簡単に言うと、なかなか日本では実現しない環境税のようなものです。そういうものを入れていくことによって、きちんとやっている企業は十分恩恵を受けるし、それをやらない企業は自分でそれだけのコストを払うということです。

Q:今までの話を伺うと、行政側で取り組めるSDGsへのドライブフォースが片方であって、もう片方では、例えば投資家サイドで、企業に対して、SDGs的な活動をしているところに優先的に投資していくというインセンティブの発生がある。そういう両方のフォースがあるという感じがしました。

佐久間先生: iPhoneを見てもそうですが、ああいうものは別に役所が作らせたわけではありません。もちろん中に組み込まれているいろいろな技術は、もともとは軍事技術の開発に端を発しているようでありますけれども、実際にそれを社会システムに持っていったのは全部民間です。やはり民間の力をうまく結実できるような環境を一つでも多くつくるということが大事なことだと思います。

持続可能な開発目標(SDGs)とxSDGs・ラボ

Q:そういう意味では、まさにラボの枠組みや場の提供というのが、一つの触媒になっている、なりつつあるということなのでしょうね。

佐久間先生:そうでありたいと思ってやっているわけです。xSDGsラボの代表の蟹江さんが、国のSDGsの推進本部に直接打ち込んでいけるという環境があり、SDGs実施指針の改定などに深く関わっています。マルチな方面のネットワークにヘッジしながら、xSDG・ラボやxSDGコンソーシアムを動かしており、そのことを企業や自治体が評価してくれて、一緒にやろう、と言ってくれているのだろうと思っています。

SDGsに対する学生の意識の変化

Q:ありがとうございます。少し視点が変わるのですけれども、SDGsに対する学生の皆さんの反応というのは、どのような感じなのですか。やはりこの5年、10年でかなり変わってきたという実感はありますか。

佐久間先生:ほとんどの学生は、少し前まではSDGsを知らなかったのです。盛り上がりは、せいぜいここ3~4年ぐらいではないでしょうか。最近では、例えば休学して、どこかの自治体に入って、そこのSDGsの取り組みを実際にやるような学生もいます。

Q:そうですよね。もともと知らないと。おそらくほとんどの学生は、SDGsという言葉が何を意味するのか、非常に多義的な言葉なので、定義はしっかりしていますけれども、SDGsという4つのアルファベットから浮かべられるものがあまりないので、少しイメージが付きづらいところがあるのではないかと思います。

佐久間先生:「SDGsとは『すごいでっかいゴール』だ」と、面白いことを言った学生がいます。笑ってしまいました。ちなみに、SDGsの前のMDGsは、ほとんど日本では知っている人がいませんでしたね。

Q:私も全然知りませんでした。SDGsは、いくつも大きな目標を目指していく、まさに「すごくでっかいゴール」があるわけですけれども、大学のラボというポジションから見たときに、特に何かこれが今重視しているもの、優先順位を付けているもの、今これに注目しているというゴールは何かありますか。

佐久間先生:多分、どのゴールというよりも、日本がSDGs達成のために積極的であり、そして具体的な企業の事例をここから出したいというのが、蟹江さんの一番の思い、と理解ししています。民間がそれに向けて独自でやっていることを、後押しして、それをきちんと世界に伝えるところはおそらく蟹江さんの十八番だと思います。そして、もちろんしっかりとそこにアカデミックな裏付けも発信していくところに重きを置いていると思います。

企業ブランディングにおけるSDGs

Q:例えば企業にとっては、SDGsに取り組んでいることを自社ブランディングに活用したいという意図はあるのですか。

佐久間先生:逆に、まずブランディングするためには、自分が情報を出さなくてはいけません。情報を出していけば、怪しいところは必ず多くのステークホルダーからたたかれます。きちんとそれを招き入れて、「どこが悪いのですか」ということを議論して、どうすればいいかということをしっかりとやって、そこからさらに良くなるという企業もいます。そのような前向きなステップをきちんと踏んでいけば、最初が少し自社寄りな目線であったにしても、最終的にはいい方向に向くことが多いと思います。

Q: 20年ぐらい前には、企業がそういうことに関心を持っていたようには思えないのですけれども、今や大きく変わったのかなと思います。

佐久間先生:世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書[8]にも示されているように、中長期的なリスクに対応しなければ、生き残れないと考えている企業は確実に増えていると思います。もちろん、新しいことをやればやるほど、従業員を含めて、ステークホルダーにはリスクが多くなりますけれども、そうでなければより先に生きられる確率が減ってしまうと考えているわけです。

そこは、どちらに重きを置いて考えるかだと思います。例えば自分が社長でいる間だけもうかっていればいいというのだったら、やらないほうがいいと思うでしょう。しかし、やはり20年先、30年先でも、きちんと今より規模が大きくなって、立派な会社、社会からより尊敬される会社にしたいのだという人は、取り組まざるを得ないのではないでしょうか。

Q:そうですよね。企業活動における取り組みの温度差は、例えば、すでに人材の配置や、資本を投下している事業分野などで、急に社会環境の変化に対応しようと思っても、ある程度整備されているところと、ゼロスタートのところで違うというところなのですか。

佐久間先生:そうでしょうね。つまりSDGs自体も答えがないわけです。最終のゴールは見えていますが、どうやるのだという答えがありません。いろいろ模索していいアイデアを出すためには、できるだけフラットな組織でなくてはいけないとか、あまり固定的な組織では駄目だということなど、やはりリスク対応がしやすい組織が求められているのではないでしょうか。

「新型コロナウィルスとSDGs分科会」と「コロナの経験を踏まえたSDGs達成へのカギとなる12の⽅策」

佐久間先生:「コロナとSDGs分科会」というものを1年間やりまして、まとめた成果があります。「コロナの経験を踏まえたSDGs達成へのカギとなる12の⽅策[9]」というタイトルで出しているのですけれども、これには、コロナに対応することが、結局SDGsに直結しているというメッセージが込められています。具体的にはコロナで顕在化した課題をこう解決すると、結局SDGsの達成にもつながるということが、様々なケースに基づいて書いてあります。

これはSDGsの167のターゲットに対して、コロナ前とコロナ中とコロナの後、つまり自然免疫が獲得できた後、どう変わっていくか。それに対して政策の方向性をどうするか、民間企業はどう取り組めばいいか、個人はどうすればいいかということを、一つ一つ丁寧に調べながら、企業や地方自治体の方などが集まって、何回も議論して、そこでその整理が全部できた後に、蟹江さんが中心になって、この12のエッセンスを搾り出したものです。つまり、そういうことが比較的しっかりとできている企業が、結局は、SDGsに積極的に取り組んでいる企業だということが、逆に言えるということです。

Q:確かに。話を伺っていて、私自身、考えが改まったと思ったところは、SDGsは「これをすると達成できる」とか、そういう固まったものではなくて、「SDGs達成に向かって取り組んでいく、その取り組み自体に価値がある」というものなのだということです。その企業体で、SDGs達成への取り組みを続ける状態を維持し続けること自体が、持続可能性のある社会なり組織体を支えるエネルギーになるのだろう、ということを学ばせていただきました。

最後に、読んでくださる読者に対して、メッセージのような形で、それぞれの言葉もいただきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

蟹江:SDGsの目標17にあるように、SDGs達成へ向けた手段として、パートナーシップは欠かすことが出来ません。SDGsの達成には変革が必要ですが、通常の努力だけでは変革は実現が難しいからです。異なる特徴をもつステークホルダーが連携し、コラボレーションによってこれまでのやり方を超えて初めて、変革が実現できるのです。xSDG・ラボは、多様なステークホルダーと共同で研究をし、連携を促し、持続可能な社会へ向けた標準化を目指すことで、目標達成に貢献すべく活動を進めています。協働にご関心のある方、ぜひご連絡ください。

蟹江 憲史:慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授/SFC研究所xSDG・ラボ代表)

お問い合わせ先

慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ事務局
252-0882 神奈川県藤沢市遠藤5322
E-mail:xsdg@sfc.keio.ac.jp
https://xsdg.jp

<注記>
[1] 慶應義塾大学SFC研究所
[2] xSDG・ラボ
[3] xSDGコンソーシアム
[4] 研究・活動成果
[5]SDGs白書2019『SDGs白書2020-2021』2021年5月下旬刊行
[6]ハイレベル政治フォーラム
[7] 企業xSDG共同研究自治体xSDG共同研究 
[8] 「グローバルリスク報告書2021年版:世界は長期的リスクへの対応に目覚めるべきである」(世界経済フォーラム、2021年1月19日)
[9] xSDGコンソーシアム「新型コロナウィルスとSDGs分科会」「コロナの経験を踏まえたSDGs達成へのカギとなる12の⽅策」

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