「長寿企業は革新と創造で時代に適応し、サステナビリティ経営を実現している」。そう語るのは、外国人材の紹介事業と、ハイスペック限定の顧問派遣事業を展開する株式会社シードパートナーの永沼秀一代表。今回は「国籍、性別、年齢を問わず、誰もが活躍できる多様性のある社会を実現したい」と語る同氏のSDGsとの向き合い方、日本企業が自己変革を遂げるための外部人材の活用法について伺った。
日本で働きたい人にチャンスを与える事業「目標4:質の高い教育をみんなに」「目標10:人や国の不平等をなくそう」
―まずは、外国人材を日本企業に紹介する事業について教えてください。
15年以上前からフィリピンで日本語学校を経営しています。日本に留学したい学生を奨学金付きで受け入れて日本の専門学校で学べるようにすると同時に介護や製造業などで働ける機会を提供していました。来日したフィリピン人留学生は、毎年20~30名ほどで、累計250人程度です。さらに、技能実習生としてフィリピンから数名、ベトナムから50名。トータルで300名ほどの外国人を日本に受入れました。
2019年に日本の入国管理局の留学生受入方針が変更になりましたので、現在では技能実習生の紹介から、特定技能生、高度人材の受け入れにシフトしています。
弊社はフィリピン最大手の人材サービス会社であるMagsaysay(マグサイサイ)社と提携しています。紹介するフィリピン人はマグサイサイが集め、弊社が日本で受け入れ企業を探すという役割です。ニチイ学館や商船三井などの大手企業とも提携しているブランド企業なので、弊社が「マグサイサイと提携している」というと「なぜ御社は提携できたのですか?」と、同業の方には驚かれます。「企業の規模は関係ない。信頼できる人と組みたいのだ」と先方の社長からお声がけいただいたことは大変ありがたいことだと思っています。
―そもそも、なぜフィリピンで日本語学校を経営することになったのでしょうか
最初は、知人からの紹介で、「自分が貢献できることがあるなら」と軽い気持ちで出資したのです。その学校は、元々は三菱自動車でフィリピン駐在経験のある方が「現地に貢献したい」と設立したものでした。
ところが、その方が体調を崩し、日本に帰国して検査したら進行がんだとわかったのです。私がお会いできた時は、もう余命いくばくもない状態でした。枯れ木のようにやせ細った手で、私の手を力強く握って「頼む」と学校を託されたのです。「自分がやらなければいけない」と決意しました。
実際にフィリピンを訪れてみると、学生たちは「日本に行きたい」と頑張って日本語を学んでいます。でも、意欲があっても、日本に行くお金がないのです。それなら……と、勉強の機会と奨学金、そして日本で働くチャンスを与えられるのならと考え、日本の日本語学校や専門学校への留学生の紹介事業を始めたのです。
―まさに、SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」や、目標10「人や国の不平等をなくそう」を体現されるような活動ですね。
言われてみればそうかもしれません。フィリピンは、経済の発展がめざましい国ですが、新興国なので目ぼしい産業がありません。この発展を支えているのは、海外で働くフィリピン人たちです。国民の10人に1人は海外出稼ぎ労働者として働いており、海外での労働はフィリピンでは珍しいことではありません。若年層の失業率が高く、4年生大学を卒業しても国内企業では正社員になるのが難しいからです。彼らは英語ができるので英語圏で働く人も多いのですが、日本に行きたいという希望があるなら、日本語能力は必須です。
日本語を学んだ彼らが日本の企業に就職し、給料をもらい、フィリピンに住む両親・祖父母などの家族の生活を支えることができるのはフィリピンにとってもいいことだし、彼らが企業で活躍してくれることは日本にとってもいいことですよね。私はそう思って仕事をしていますし、この本質は変わることはありません。
―外国人人材を受け入れることによる企業側のメリットはどのようなものがあるのでしょうか?
マンパワーが絶対的に足りない分野で人材を採用できるのが最大のメリットです。それだけでなく、副次的でありながら企業経営に重要なインパクトをもたらすのは、コミュニケーションギャップの改善です。
外国人の多くは、キャリアアップの意欲が強いので、「会社は自分に何を求めているのか」「何をすれば評価されるのか」を知りたいと考えています。評価についても「自分は何を評価されているのか」「何が評価されていないのか」などの評価をしっかりフィードバックする必要があります。
これまでは、背中を見て覚えろという教育をしてきた企業も多いと思います。業務引継ぎをちゃんとしなかったり、評価体系が曖昧だったりする場合もあるでしょう。そのような企業は、外国人の採用を機に改善する必要があります。外国人が働きやすいコミュニケーションが取れない企業では、人材が居着かずにすぐに退職されてしまうことが多いのですね。
でもこれは外国人に限ったことではありません。本来日本人にも必要なことであり、とりわけ若手社員の採用や定着には欠かせない取り組みなのです。このことに気づかれた企業は、外国人を採用したことをきっかけにこれまでのやり方を見直されます。
理念の浸透や評価へのフィードバックなどの取り組みを通じて組織の問題が解決につながり、日本人従業員の活性化にもつながったというお声もいただいています。
企業の経営課題解決支援とSDGs「目標8:働きがいも経済成長も」「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」
-次に、総合経営支援事業について教えていただけますか?
クライアント企業に各分野のトップレベルのアドバイザーを顧問として派遣しています。業種は多岐にわたります。企業の経営課題に応じて、製品・商品開発、新規事業開発、営業支援、Web集客、システム導入、購買戦略策定など、様々なプロジェクトを立ち上げ、クライアントの課題解決に関するあらゆる支援を行うものです。
-経営にかかわるようなプロジェクトを外部人材を活用して推進する場合、成功の秘訣は何でしょうか?
プロジェクトを成功させるには、まず、その「プロジェクトが正しいものか」。そしてその「プロジェクトを実行できるか」、この2点が成功の構成要素です。どちらが欠けてもうまくいきません。
前者の「正しいプロジェクトであるかどうかは、企業の本質的な課題に向き合って、やるべきことをプロジェクトに落とし込むことが必要です。プロジェクトありきではうまくいきません。
後者は、企業の経営課題の解決に必要な正しいプロジェクトを最後まで実行、完遂させられる指導者がいるかどうかがポイントになります。いかにプロジェクトが正しいものであっても、指導力や実行力がないとうまくいきません。
-シードパートナーでは、どのような点が他社と差別化されていると思いますか?
弊社は、数千人規模の顧問を抱えている顧問派遣の大手社に比べると圧倒的に顧問登録数は少ないと思います。しかし、各分野における第一人者、「この分野では、この人以上の人は、そうはいない」という自信を持って紹介できるパートナーさんだけを登録しています。
私自身、これまで多くの企業の経営者と相対し、多様な業界・業態の事業モデルを見てきましたので引き出しが多いということがあります。また、そのような背景から、お客様の課題解決に必要な本質に深く切り込んだヒアリングをして、解決策を提言することができます。
クライアント企業の真の経営課題の解決に資するプロジェクトを立ち上げ、そして、その課題解決に必要なスキルとマインドを持つ最適な顧問をアサインする。これができるから、受け入れ先とのニーズのズレによるミスマッチが生じにくいというのが、弊社ならではの特徴といえるのではないでしょうか。
いかに多くの顧問数を擁していても、ビジネスを知らない営業マンから紹介された顧問が、企業が本当に解決したい課題にマッチしていなかったり、期待する成果につながらなかったら意味がありませんよね。
多くの中小企業にとって、解決すべき経営課題はビジネスの上流工程にあるものです。例えば、「いいものをつくる」「安いものをつくる」「相手が求めるものをつくる」といった本質的な課題に突っ込んで、ピンポイントで最適な顧問が紹介できるというのが弊社の強みだと思います。
-総合経営支援事業とサステナビリティ経営についてどのようにお考えでしょうか。
どんな会社でも事業を持続させようと経営に取り組まれているはずです。シードパートナーの顧問が持つスキルやマインドを導入してもらうことで、クライアント企業にサステナブル、つまり持続可能な状態になってもらうのが目的です。
経営改革がうまくいけば、会社の勢いが増し、新たな雇用が生まれるはずです。そうなった時に日本人でも外国人でも優れた人材を新しく雇えばいい。多様性を受け入れると、新しい発見があります。会社が活性化することで持続可能性が高まり、新たな事業が始まれば社会・経済にも波及していくでしょう。
日本企業とサステナビリティ経営、多様性が革新と創造の起爆剤となる
-日本企業がサステナビリティ経営の観点を持つためには何が必要だと考えますか?
私は、いま日本企業、ひいては日本人は変わらなければならないのではないかと思っています。このままでは真剣に日本社会が取り残されてしまうのではないかと危惧をしています。
日本企業は、これまで基本的に日本人のみを採用して企業経営をしてきました。ゆえにドメスティックな観点で物事を見すぎていて、排他的なところがあるのは否めません。排他的であるのみならず、古い考えにこりかたまってしまっているのではないかと思うのです。そのような日本企業が変わるためには、外国人や外部人材などの多様性を受け入れ、変革の機会にする必要があるのではないかと考えています。
古い企業はあまりチャレンジを好みません。特に製造業はその傾向が顕著です。自分たちの技術を最大限に活かしきれていないように思えるのです。自社の今の技術が優れたものでも、3年後、5年後、10年後に技術革新があったらどうでしょう。途端に廃れてしまって持続することはできません。実際に、100年を超えるような長寿企業は創業時と同じことをせず、新しいことにどんどんチャレンジしています。例えば「虎屋」。ブランドはそのままに業態は大きく変化し、今の時代にも古さを感じさせないですよね。
自らの信念に基づきサステナビリティ経営を支援、誰でも活躍できる社会にしたい
自分が取り組んでいる事業を、あえてSDGsという概念に当てはめて考えたことは、正直言うとあまりありません。私にとっては、SDGsが提唱される以前から、自らの信念に基づき取り組んできたことです。
実力のある人は誰でも活躍できる社会になってほしい。そのためには、国籍や性別、年齢にとらわれずに誰でも活躍できる場、企業を増やさなければなりません。これまで見てきた成功事例や失敗事例をお伝えして、どんな境遇の人材であろうとその人が最大限に能力を発揮できる企業づくりのきっかけをつくれるように、これからも自分の仕事をしていければと思っています。