
愛知県のシール・ラベル印刷会社「ユーシンSL」が、2023年から挑むフィンガーライム栽培。太陽光発電ハウスや水耕栽培という独自手法を用い、ブランド「AquaPomum」を展開。農業法人化による高齢者雇用創出と、新たな食文化の普及を目指す。
1964年設立のシール・ラベル専業印刷会社が踏み出した新境地
愛知県稲沢市に拠点を置くユーシンSL株式会社は、1964年1月7日に設立された歴史ある印刷会社である。同社は印刷業の中でも、特に「シール・ラベル」に特化した専業メーカーとして、54名の従業員とともに多種多様な製品を世に送り出してきた。
その事業範囲は極めて幅広く、私たちの日常生活の至る所で同社の技術を目にすることができる。食品に貼られるラベルを筆頭に、自動車などの工業部品用、物流現場で欠かせない荷札や宛名ラベル、さらには病院の血液検査で使用される医療用ラベルまで、取り扱う種類は多岐にわたる。
加えて、個人情報保護ラベルやノベルティとしてのファンシーラベル、電車のドアに掲出される広告向けラベルなど、「シール・ラベル」と名の付くあらゆる製品を全般的にカバーしているのが同社の特徴だ。長年培ってきた印刷技術を基盤としながら、社会のインフラを支える製品を提供し続けている。
異業種への挑戦、ブランド「AquaPomum」と太陽光発電ハウスの導入
ユーシンSL株式会社は2023年、本業である印刷業の傍ら、全くの新規事業として農業(アグリ)事業に参入した。ここで栽培されているのは「フィンガーライム」という柑橘系の果物である。
同社はこの新規事業において「せっかく始めるなら、他と違うことをしよう」という独自のスタンスを貫いている。その姿勢は、栽培環境や手法に色濃く反映されている。まず、栽培拠点として太陽光発電設備を備えた農業ハウスを建設した。このような設備を導入している事例は、農業界全体でもまだ少ないという。

さらに特筆すべきは、その栽培方法である。フィンガーライムは果樹であり、本来は露地栽培や鉢植えで育てるのが一般的だが、同社はあえて「水耕栽培(土を使わず、肥料を溶かした水で育てる方法)」を選択した。この挑戦的な試みによって生産されたフィンガーライムは、「AquaPomum(アクアポムム)」というブランド名でインターネット販売されている。
フィンガーライムの魅力を広め、農業法人化と雇用創出を見据える
今後の展望として同社が掲げているのは、着実な売上と利益の確保、そして将来的な農業部門の独立・法人化である。農業法人化を実現させることで、新たに農地を取得し、さらなる栽培面積の拡大を目指している。
この事業拡大の先には、明確な社会的意義も見据えられている。栽培面積が増えれば、運営のために新たな人員が必要となるため、これが「高齢者雇用の創出」につながると同社は考えている。まずは「AquaPomum」としての安定した品質を維持し、生産量を向上させることで、より多くの人々にフィンガーライムの魅力を認知してもらうことが直近の課題となっている。
農業の生産性向上と、定年後を見据えた「働きがい」の提供
SDGs(持続可能な開発目標)の観点においても、同社の取り組みは2つの目標に関連している。
一つ目は、目標2「飢餓をゼロに」への貢献である。イチゴやトマトといった果菜類では水耕栽培の手法が確立されているが、果樹であるフィンガーライムを水耕栽培で育てる事例はほとんど存在しない。現在は試行錯誤の段階にあるが、この栽培方法が確立されれば、土壌のない場所でも栽培が可能になる。これは将来的に、農業全体の生産性を高める一助になると期待されている。
二つ目は、目標8「働きがいも経済成長も」に関連した、高齢者雇用の問題解決である。法律によって65歳定年や70歳までの継続雇用が定められる中で、同社は従業員に対して「新たな働き方の選択肢」を提示したいと考えている。定年後も継続して働ける環境を会社が提供し、従業員がそれを選べる仕組みを整えることで、個人の働きがいと組織の成長を両立させる狙いがある。
「キャビアライム」が彩る食体験、7月から12月の旬を届ける
フィンガーライムはオーストラリア原産の柑橘類で、その特徴的な果肉の形状から別名「キャビアライム」とも呼ばれている。果肉がキャビアのようにつぶつぶとしており、高級果実の一つに数えられる。
日本国内ではまだ知らない人も多く、食する機会も限られている希少な果実だが、同社はこれを機にぜひ試してほしいと呼びかけている。ユーシンSL株式会社のECサイトでは、毎年7月頃から12月初旬にかけて販売が行われている。印刷という精密な世界で培われたこだわりが、今、農業という新たなフィールドで「AquaPomum」という形になって結実している。




