
移動という日常の営みが、そのままクリーンエネルギーの創出へと転換される。そんなSFのような景色を現実のものにしようとしているのが、熊本に本社を置くハロースペースである。彼らが開発した「MAG DRIVE」は、従来の電動モビリティにおける「発電に伴う負荷」という物理的常識を覆した。ビジネスと環境の両立を模索する現代社会に対し、同社は極めて具体的な解を提示している。
次世代モビリティのゲームチェンジャー、「MAG DRIVE」がCES 2026で世界公開
2026年1月、世界最大級のテクノロジー見本市「CES 2026」において、日本のクリーンテックスタートアップであるハロースペース株式会社が、新システム「MAG DRIVE」を発表する。同社はインドのEV市場で急成長を遂げるXERO社、および豊田通商ネクスティエレクトロニクスグループとの強力な提携をあわせて公表した。2026年内の製品化に向けた動きは、もはや秒読みの段階に入っている。この技術は、世界的な課題である充電インフラの不足を、車両自体の発電能力によって解決しようとする野心的な試みといえる。
「漕ぐと重い」を過去にする。特許技術が実現した磁気抵抗ゼロの回生システム
従来の電動アシスト自転車において、走行中に発電を行う「回生」は、ペダルが重くなるという致命的な欠点と隣り合わせであった。しかし、MAG DRIVEが採用する特許技術「半超電導回生駆動システム」は、この発電時に生じる磁気抵抗をゼロに抑えることに成功している。通常の走行によるペダリングで100ワットから250ワットの出力を生み出しながら、走行の快適さを一切損なわない点は驚異的だ。また、2つのバッテリーを搭載して走行用と充電用をリアルタイムで自動制御する仕組みにより、2時間から3時間の走行で満充電に達する。効率を求めれば利便性が損なわれるという、これまでの技術的二律背反を、高度な物理学と制御技術で突破した点に同社の独創性が凝縮されている。
超電導技術を社会実装へ。インド市場を見据えた「インフラ不要」の哲学
ハロースペースが描くビジョンは、単なるパーツ供給の枠に留まらない。その背景には、最先端の超電導や量子技術を、研究室の中ではなく人々の生活の道具へと変えていくという確固たる哲学が存在する。今回のインドEVメーカー・XERO社との提携は、その戦略を具体化する試金石である。広大な国土を持ち、急速な電動化が進むインドでは、充電ステーションの整備が車両の普及スピードに追いつかないという構造的課題を抱えている。そこで「走りながら充電し、外部電源を必要としない」Eバイクを投入することは、物理的なインフラ制約からの解放を意味する。同社は、自社の技術的優位性を、市場が抱える欠陥の解決に直結させているのである。
ハロースペースの挑戦から学ぶ、制約を付加価値に変える「逆転の発想」
ハロースペースの歩みは、既存の社会インフラや物理的な限界を所与のものとして受け入れるのではなく、いかに再定義すべきかという視座を我々に与えてくれる。まず、発電には抵抗が伴うという「不都合な常識」を疑い、それを技術で打破したことが、全く新しい市場価値を生み出す源泉となった。さらに、日本のディープテックと商社のネットワーク、およびインドの製造力を組み合わせることで、持続可能なエコシステムを構築した機動力も見逃せない。脱炭素を消費者の努力や我慢に依存させるのではなく、製品の機能そのものに解決策を組み込む設計思想こそ、これからのビジネスに求められる姿勢であろう。MAG DRIVEは、移動の概念をエネルギーの消費から生産へと転換させた。このパラダイムシフトが、2026年を境に世界の街並みを塗り替えていく可能性は極めて高い。



