
「一流の味を、最後の一片まで無駄にしない」という執念が、外食産業に新たな収益の柱を生んでいる。高級店「ロウリーズ」を運営するワンダーテーブルが仕掛ける福袋は、単なる季節の安売りではない。厳格な品質管理ゆえに生まれる「規格外品」を、SDGs文脈の付加価値へと昇華させた戦略的商品である。
ロウリーズの看板メニューを「エシカル福袋」として再定義
株式会社ワンダーテーブルは、公式通販サイト「WONDERTABLE MALL」において、2026年新春に向けた「エシカル福袋」の予約販売を開始した。対象となるのは、アメリカ発のプライムリブ専門店「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」の看板商品だ。
今回の福袋は、製造工程でどうしても発生してしまう「サイズ規格外」や「切り落とし」を活用している。150g以上のカットが2枚セットになった「規格外セット」や、500gの大容量「切り落としセット」など、名門の味を家庭でリーズナブルに堪能できる、実益と社会貢献を兼ね備えたラインアップとなっている。
「訳あり」を「賢い選択」へ変える独自のブランディング
百貨店や飲食店が競う新春福袋商戦において、同社の取り組みが特異なのは、徹底して「フードロス削減」という大義を消費者に提示している点だ。
通常、ロウリーズのような名門店では、提供する肉の厚みや重量に極めて厳格な基準を設けている。その過程で、味や品質には一切問題がないものの、店舗の皿には載せられない「端材」が必ず発生する。これまでは内部消費や廃棄の対象となり得たこれらを、あえて「エシカル商品」と銘打って市場に出した点に、他社との決定的な違いがある。
実店舗の高級ブランドイメージを維持しつつ、ECという別チャネルで「合理的な消費」を好む層へアプローチする。この棲み分けにより、ブランド価値を毀損することなく、廃棄コストを利益へと転換する仕組みを構築している。
食材に対する「誠実さ」という原点
この取り組みの根底には、外食企業としての「食材を無駄にしない」という職人的な哲学が流れている。代表取締役社長の河野博明氏は、資源を大切に扱うことは、ひいては提供する料理の質を維持し、生産者への敬意を示すことにも直結すると説く。
現場のシェフたちは、今回の商品化についてこう語る。 「最高級の肉を最高の状態で提供するために、これまでは基準に満たない部位を泣く泣く除外してきました。しかし、形が違えど旨みは同じです。それを『エシカル』という形で喜んでいただけるのは、料理人として本望です」
同社にとってのサステナビリティとは、外部向けの流行語ではない。目の前の食材という命に対する「誠実さ」の表れなのである。
ビジネスパーソンが学ぶべき、未利用資産の「物語化」
ワンダーテーブルの事例は、供給過剰時代の日本において、あらゆる業界のビジネスパーソンに重要な示唆を与えてくれる。
まず、「規格外=損失」という固定観念を捨て、「希少な限定品」という付加価値へ再定義する発想だ。次に、単に価格を下げるのではなく、「なぜこの価格なのか」というストーリーを倫理的に説明することで、顧客の購買意欲とロイヤリティを同時に高めている点も見逃せない。
「捨てるはずだったもの」に光を当て、社会課題の解決と利益確保を同期させる。同社の「エシカル福袋」は、既存のリソースをいかに再発見し、新たな価値として市場に問うべきかという、事業開発の本質を示している。



