
こどもを「保護の対象」から「社会を創る主体」へ。大阪大学SSIが推進する、既存のカテゴリーを問い直す対話モデルから、持続可能な社会を担う次世代市民育成の要諦を探る。
万博「いのち宣言」を具現化する、次世代市民育成の新たなパラダイム
2025年10月、大阪・関西万博の舞台で発表された「いのち宣言」と「アクションプラン集」。この壮大な構想を具体化する実践として、大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)が主導するプロジェクト「自らの生から公共の知を共創する次世代市民の育成に向けた教育の開発」が注目を集めている。
本プロジェクトは、単なる知識伝達型の教育ではない。高校生や大学生がSDGsを主題とした深い探究学習を通じ、自らの思考を「いのちの声」として言語化。それを社会組織へ直接提言し、大人と対等に議論する場を創出することで、社会的・政治的なコミットメントが可能な「市民」を養成している。
「教える・教わる」の二元論を脱す――境界線を再定義する独自のアプローチ
他機関が実施するワークショップと一線を画すのは、社会に潜む「境界線」そのものを解体しようとする批判的視座である。
通常、教育現場では「大人とこども」「専門家と素人」といった属性による区分けが前提となる。しかし、SSIはこうしたカテゴリーが現代社会の歪みを生んでいると捉え、その境界線を引き直す、あるいは無効化する実践を重視する。夜間中学の生徒から大学院生まで、多様な背景を持つ人々が属性を超えて交わり、公的な場で対話を展開する。この「カテゴリーの解体」こそが、同プロジェクトが提示する独自の社会構築プロセスといえる。
ジョン・デューイの「探究」が導く、前提を疑う「内省の問い」
この活動の精神的支柱には、アメリカの哲学者ジョン・デューイが提唱した「探究」の概念がある。プロジェクトを率いる岡部美香教授らの狙いは、一つの正解を導き出す「インフォメーションの問い」にはない。
「私たちが無意識に前提としている社会システムは、本当に妥当か」
こうした「内省の問い」を立て、先行研究を紐解きながら対話を深める。大学生が学び、その経験を活かして高校生の探究を支援するという循環構造は、教える側もまた「次世代を支える大人」へとアップデートされる仕組みを内包している。
ビジネスリーダーが学ぶべき、対話型組織と次世代リーダー育成の指針
大阪大学SSIの試みは、変革期にある企業の組織運営にも重要な示唆を与える。
第一に、「問い」の質の転換である。既存の枠組みでの最適解を求めるのではなく、前提そのものを疑う「内省の問い」を立てる力こそが、停滞を打破するイノベーションの源泉となる。
第二に、「支援者側のリスキリング」の重要性だ。若手の意見を取り入れる仕組みを作るだけでは不十分であり、受け止める側が自身の固定観念を脱ぎ捨て、一市民として対話に臨む姿勢が求められる。
こどもを「未来の大人」ではなく「現在の市民」として遇するSSIの姿勢は、真に持続可能な組織、そして社会を築くための、揺るぎない指針となるだろう。



