
スペインとポルトガルで4月28日に発生した大規模停電は、依然として原因が特定されていないが、事故の発端はスペイン南西部エストレマドゥーラ州にある太陽光発電設備とみられている。イタリアの複数メディアもこれを報じており、最終的な原因解明には数カ月かかる可能性があるという。
スペインのペドロ・サンチェス首相は、再生可能エネルギーの過剰供給や原子力の出力不足が直接の原因ではないと明言する一方、国民の間では「中国製のソーラーパネルの問題ではないか」という懸念の声も出始めており、政府は早急な調査と情報開示を求められている。
5秒の連鎖トラブル 高い再生可能エネルギー比率が焦点に
送電事業者レッド・エレクトリカ(Red Electrica)のエドゥアルド・プリエト運用サービス部長によれば、停電は「異常気象でもなければ、ハッキングでもない」という。同社は、まず電力系統が1度不安定化した後、約1.5秒後に次のトラブルが起き、フランスとの送電線が切断されたと説明。そこに再生可能エネルギーの供給急落が重なり、わずか5秒ほどの間に大規模停電へと至ったとみられている。
事故発生時点で、スペイン全土の電力の約78%が太陽光・風力・原子力などの「グリーンエネルギー」で供給されていた。専門家の間では、再生可能エネルギー特有の変動リスクと送電網の安定性に課題があった可能性も指摘されている。
エストレマドゥーラ州の巨大太陽光発電所 「中国製パネル」の懸念広がる
事故の発端として名前が挙がっているエストレマドゥーラ州には、フランシスコ・ピサロ太陽光発電所があり、150万枚のソーラーパネルが敷き詰められている。現地で再生可能エネルギーの発展に携わるホセ・ベレット氏は「使用しているソーラーパネルはすべて中国製だ」と説明した。
これを受けて一部では「中国のソーラーパネルが原因なのではないか」という声も上がり始めているが、サンチェス首相は「再生可能エネルギーの過剰や原子力発電の出力低下が原因ではない」と強調。政府としては火消しに追われる形だが、原因解明が進まない限り国民の疑念が広がる懸念も残る。
専門家「エネルギー政策を検証する重要なケーススタディー」
エネルギーアナリストで公共政策専門家のジョン・ケンプ氏は、「この地域は世界でも有数の再生可能エネルギー導入率を誇る。今回の停電は、再生可能エネルギーの信頼性や広範囲にわたる障害からの復旧について、極めて重要なケーススタディーになるだろう」と指摘している。
スペインは原子力発電の段階的廃止を進めている一方、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを拡充している。今回の停電を受け、与野党からは「エネルギー政策全般を見直すべきだ」という声がさらに強まる可能性がある。
政府・電力会社、徹底調査と再発防止策を急ぐ
29日朝にはおおむね復旧が完了し、鉄道や空港といった交通機関や通信サービスは通常運転に戻った。しかし、スペインの国会では首相と関係閣僚の招致を求める動きがあり、野党を中心に原因究明と再発防止策を早急に示すよう迫る声が上がっている。
サンチェス首相は「いかなる可能性も排除せず、調査委員会を設置する」とし、徹底的な検証を表明。レッド・エレクトリカはハッキングや異常気象ではなかったとしているが、具体的な障害メカニズムが解明されるまでには数カ月単位の時間を要する可能性が高いという。今後は再生可能エネルギー導入の是非だけでなく、送電網の管理・監視体制を含めた広範な議論が進む見通しだ。