~次世代が担う、海洋資源とエネルギーの未来~
豊かな自然環境と豊富な海洋資源に恵まれた長崎県。その経済活動は、古くから漁業や水産業と密接に関わってきた。しかし、近年では地球温暖化の影響や海洋環境の変化に伴い、水産資源の減少や生態系の変化といった課題に直面している。持続可能な社会の実現に向けて、豊かな海を守り、次世代に引き継いでいくことが喫緊の課題となっている。
このような背景のもと、2024年8月1日から3日にかけて、長崎県五島市および大村湾周辺地域において、「五島・東シナ海vs大村湾調査隊2024」が開催された。
小学生20名が参加した本イベントは、外洋である東シナ海と内湾である大村湾を舞台に、それぞれの海の特徴や課題、海洋環境保全の重要性を学ぶことを目的とした体験学習プログラムである。
洋上風力発電と地域経済の展望(五島・東シナ海)
参加した子どもたちはまず、五島列島沖に建設中の洋上風力発電施設「はえんかぜ」を見学した。はえんかぜは、日本初の浮体式洋上風力発電施設であり、水深が深く海底の地盤が弱い場所でも設置可能な点が特徴である。
長崎総合科学大学の松岡和彦先生は、浮体式洋上風力発電は環境負荷が低いだけでなく、漁礁としての役割も期待できる点を強調した。参加児童は、再生可能エネルギーの potential と、海洋環境との共存の可能性について理解を深めたという。
伝統漁業と環境保全の両立(五島・東シナ海)
五島漁協では、五島列島周辺海域の現状について、五島市水産課の糸洲朝志氏による解説が行われた。豊富な魚種を誇る五島灘であるが、近年は漁獲量の減少が深刻化している。温暖化の影響による海水温の上昇や、乱獲による資源の枯渇などが要因として挙げられる。参加者は、豊かな海を守るために、持続可能な漁業の重要性を認識した。
また、漁業者自身による環境保全の取り組みとして、藻場の減少問題に取り組む漁師の馬場一哉氏の活動が紹介された。馬場氏は、藻場を食い荒らす食害魚(未利用魚)に着目し、駆除活動や藻を守るための囲いネットの設置などを実施している。
さらに、金沢鮮魚の金澤竜司氏は、未利用魚を活用した魚醤「五島の醤」の開発について説明した。金澤氏は、食害魚を有効活用することで、漁業者の所得向上と環境保全の両立を目指している。参加児童は、未利用魚が秘めるビジネスチャンスと、地域課題解決への貢献の可能性を感じ取った様子であった。
閉鎖性海域の現状と未来(大村湾)
舞台を大村湾に移し、参加者は大村湾漁協直売所にて、大村湾漁協組合長の松田孝成氏から、閉鎖性海域である大村湾の現状について説明を受けた。波が穏やかで外海との海水交換が少ない大村湾は、真珠やナマコの養殖に適した環境であるが、一方で赤潮の発生や海底のヘドロ堆積といった問題を抱えている。松田氏は、生活排水の影響の大きさを指摘し、環境保全のために一人ひとりの意識改革が必要であると訴えた。
参加児童はその後、プロダイバーの中村拓朗氏の指導のもと、大村湾でシュノーケリング体験を行った。海中の様子を実際に観察することで、豊かな生態系と、環境問題の影響を肌で感じることができた。
大村湾浄水管理センターでは、長崎県職員の高村航平氏と粕谷智之氏から、水質改善に向けた取り組みについて説明を受けた。参加者は、二枚貝による水質浄化作用の実験や、アサリの幼生の着床場所となるガラスの砂浜の事例を通して、環境保全と地域活性化を両立させる取り組みについて理解を深めたという。
実際に参加した子どもからは、「大村湾の汚れは海藻やアサリが綺麗にしているように、これまで海の生き物が海を綺麗にしていたのに、人や温暖化で海が変わってしまった。だからいろいろ海を守る活動をしないといけない」といった声が聞かれた。
次世代へのメッセージ、そして私たちができること
3日間のプログラムを通して、参加した子どもたちからは、「海を守るために、自分にできることから始めたい」「環境問題について、もっと勉強したい」といった声が聞かれた。未来を担う子どもたちの意識の高まりは、持続可能な社会の実現に向けて大きな希望と言えるだろう。
私たちにもできることがある。例えば、環境負荷の低い製品やサービスを選択すること、環境保全活動に取り組む企業を支援すること、そして、社員一人ひとりが環境問題に対する意識を高め、行動を起こすことが重要である。
海と日本プロジェクトinながさきが主催する「五島・東シナ海vs大村湾調査隊2024」は、次世代を担う子どもたちに、海洋環境問題の現状と、その解決に向けて私たち一人ひとりができることを考える貴重な機会を提供した。
実際に保護者からも、「子どもが、やりたいことが満載の企画」「世界が広がる機会」と好評だったようだ。
「漁師さんに直接質問できたり、シュノーケリングをしたり様々な海に触れたりと体験を通した深い学びに繋がっていたことです。これからの人生に、海を想い考える時大きく繋がってくる体験だったのではと感じました」(保護者)
「もともと海や海の生き物が大好きな子でしたが、広い海にはまだまだ知らないことがあることを知り、たくさんの職業があるということを感じたようです。確実に世界は広がり、職業としてだけでなく、趣味などでも海に関することは選択肢の中に入るようになったようです」(保護者)
本イベントで得られた学びは、子どもたちの未来だけでなく、持続可能な社会の実現を目指す私たちビジネスパーソンにとっても、重要な示唆を与えてくれるものであったと言えるだろう。
【イベント概要】
概要:2つの海に違いはあるのか?探しに行こう!「五島・東シナ海vs大村湾調査隊2024」
日程:2024年8月1日(木)~8月3日(土) 2泊3日
開催場所:長崎県五島市、大村市、時津町、川棚町など
参加人数:小学5年生9人、小学6年生11人 計20人
協力団体:大村湾漁協、五島漁協、長崎総合科学大学、長崎県、五島市、金沢鮮魚 等
【団体概要】
海と日本プロジェクトinながさき
URL:https://nagasaki.uminohi.jp/
活動内容:県内企業・団体への「海と日本プロジェクトinながさき」への参加要請、海と日本プロジェクトinながさき 応援動画の制作・放送やホームページの制作、長崎県独自の特徴を活かしたイベントの開催 など
日本財団「海と日本プロジェクト」
さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです
https://uminohi.jp