カーボンニュートラルに対する取り組みとして、自社で使用する電力を太陽光、風力、地熱、中小水力、バイオマスといった再生可能エネルギーに切り替えていく方法がある。「RE100」(Renewable Energy 100%)という、2050年までに企業活動で利用する電力のすべてを再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際イニシアチブで、国内企業でも、富士通、パナソニック、ソニー、NEC、セイコーエプソンなど、2023年9月現在、80社以上が加盟している。そこで、RE100に加盟するIT企業が、具体的にどのように再生可能エネルギーの利用拡大を図っているのかを紹介していく。
(フリーランス 丸山篤)
富士通本社は卒FIT住宅用太陽光発電由来の電力を利用
富士通グループでは、「2030年度の再生可能エネルギー使用率40%以上」達成を目指しており、2022年度の実績は30%となっている。
富士通の汐留本社(東京都港区)は、2021年10月から、使用する電力すべてを再生可能エネルギーに切り替えた。電力は、ビルの共同賃貸人である三井不動産が構築した、「卒FIT」住宅用太陽光発電由来の環境価値が付与されたグリーン電力提供サービスを利用している。
卒FITは、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」の買い取り期間が満了になった電力。10年間の買い取り期間が終了した余剰電力を活用しようというものだ。電力グリーン電力提供サービスは、三井不動産がオフィスビル入居者へのグリーンエネルギー提供を目的に電力事業者と共同開発した。
製造拠点での利用拡大
オフィスと比べて電力使用量が多い製造拠点でも、さまざまな施策を取り入れている。
ソニー製品の製造を担うソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズの幸田サイト(愛知県幸田町)では、サイト内の太陽光発電のほか、デジタルグリッド(東京・港)などと共同で、愛知県の牛舎に太陽光パネルを設置し、発電した電力を約30キロメートル離れた幸田サイトに転送して利用している。
今後は、再生可能エネルギー電力証書の購入検討に加え、欧米で普及している「バーチャルPPA」についても、年間約240万kWh規模で導入を図っていく。
バーチャルPPA(仮想電力購入契約:Virtual Power Purchase Agreement)は、電力の購入先は変更せず、再エネ電力証書(非化石証書)のみを購入することで、再生可能エネルギー比率を高めるものだ。
水素を活用した工場の再生可能エネルギー利用拡大を図っているのは、パナソニックだ。同社は、水素を活用した工場の再生可能エネルギー100%化に向けた実証施設「H2 KIBOU FIELD」を草津工場(滋賀県)において2022年4月より稼働させている。
「H2 KIBOU FIELD」では、5kW純水素型燃料電池99台(495kW)と太陽電池(約570kW)を組み合わせた自家発電設備で、余剰電力を蓄えるリチウムイオン蓄電池(約1.1 MWh)を備えた大規模な実証施設だ。ここで発電した電力で草津拠点内にある燃料電池工場の製造部門の全使用電力を賄うとともに、3電池の連携による最適な電力需給運用に関する技術開発および検証を行っている。
電池を組み合わせることで、広大な設置面積が必要で天候の影響を受けやすい太陽光発電を補完し、工場の屋上など限られたスペースでの自家発電設備の設置も可能になるという。また、蓄電池との連携により、電力使用量がピークになった時でも燃料電池と蓄電池からの電力供給をコントロールすることできる。
NECは、データセンター需要の高まりを受け、100%再生可能エネルギーを活用したグリーンなデータセンター「NEC神奈川データセンター二期棟」を2023年下期に、「NEC神戸データセンター三期棟」を2024年上期に開設する。
2つのデータセンターは、太陽光発電による自家発電グリーン電力証書、トラッキング付き非化石証書を組み合わせることで、再生可能エネルギー活用100%を実現する。トラッキング付き非化石証書は、どこで発電された電力なのかをトラッキング(追跡)した上で、非化石電源により発電された電力が持つ環境価値を証書にしたものだ。
また、同データセンターでは、集中熱源、冷暖分離、発熱状況に応じた風量制御等の総合的な省エネルギー対策により、国内商用データセンターではとしては、1.16 (設計値)という非常に高いpPUE値を実現する。なお、「pPUE(Partial Power Usage Effectiveness)」は、全体消費電力をIT機器消費電力で割ったデータセンターの電力効率を示す指標で、1に近いほど省エネ性能が高い。
エプソンは今年度中に全拠点を100%再生可能エネルギー化
2023年度中にグループ全拠点の消費電力を100%再生可能エネルギー化するという意欲的な目標を掲げたのは、セイコーエプソンだ。2023年9月1日には、エプソングループの全消費電力の内、93%を再生可能エネルギーに転換したことを発表した。
日本国内においては、長野県で長野県公営水力を活用したCO2フリー価値付き電力「信州Greenでんき」を活用。また、半導体工場があり、エプソンの国内電力使用の約半数を占める東北エリアでは、奥羽山脈の地熱を活かした水力ミックスのCO2フリー価値付き電力「よりそう、再エネ電気」を活用するなどし、国内すべての拠点で使用する電力の再生可能エネルギーへの転換を2021年11月に完了した。
海外の生産および販売拠点では、2023年末までに再生可能エネルギーへの転換を目指しており、フィリピンでは工場の屋根に設置したメガソーラーによる自家発電に加え、地熱と水力ミックスの電力に2021年1月から切り替えている。また、インドネシア・ブカシの生産拠点では、2022年7月からバイオマス発電の使用を開始。火山島の資源を生かし活発に開発が進む地熱発電や、パーム油生成過程での副産物であるPKS(アブラヤシ殻)とウッドチップを燃料とした持続可能なバイオマス発電を行っている。
このように、再生可能エネルギーの利用拡大には、地産地消をキーワードに、地域特性に応じたエネルギー活用がポイントになっている。