地球を冷やすホットなアイスクリーム? 絶叫大豆SOYSCREAM!
石井雅俊(いしい まさとし)
「農薬や化学肥料を使わない安心安全で、環境にも優しい作物を、誰もが食べられる世の中に」NPO団体ふるさとファーマーズ代表。茅ヶ崎市で不耕起栽培のファームシェアリングを展開し、年齢も職業もさまざまな市民を集め野菜づくりを通じて、環境や食への理解を深め生産者と消費者のかけ橋となるユニークな取り組みを行っている。
ふるさとファーマーズ公式HP:https://furusatofarmers.wixsite.com/mysite
Instagram:https://www.instagram.com/furusatofarmers/
迫りくる気候変動、「60年以内に地球の表土は完全消滅する」国連発表
(映画 キス・ザ・グラウンド:大地が救う地球の未来より)
パキスタンでは6月以降の大雨で3300万人が被災、1100人が死亡するなど深刻な状況に陥っている。世界的な規模の気候変動に対して私たちは為す術はないのだろうか。
そんな中、 気候変動や環境問題に立ち上がった一人の農家がいる、彼はリジェネラティブオーガニック農法と言われる「不耕起栽培」を実践し、土壌を再生させることで気候変動を解決出来る可能性がある言う。
今回、茅ヶ崎は芹沢の畑を訪れ、八一農園 衣川 晃さんにインタビューを試みた。
不耕起栽培とは?
石井
お忙しい中、取材を受けてくださり、ありがとうございます。まずはリジェネラティブオーガニック農法と言われる「不耕起栽培」についてお聞きしたいのですが、具体的に通常農法とどのように違うのでしょうか?
衣川
現在、日本の有機農業の取り組み面積の割合は全体の0.2%(2017年農林水産省 有機 農業を巡る事情 引用)それ以外は、ほぼ慣行栽培で作られています。
沢山の量を安価で安定的に市場に供給するという国の食糧安全保障を担う慣行栽培はこれまで日本の農業を長らくけん引してきてくれました。
ですが昨今ウクライナとロシア間で戦争がはじまり、化成肥料の値段も高いものではほぼ2倍になり、僕の耳にも慣行栽培農家さんから「本当に苦しい」との声も届いています。
そしてその化成肥料のほとんどが海外輸入に頼っているため、農薬や化成肥料まで含めると、日本の食料自給率は実質ほぼ0%になります(農水省「みどり の食料システム戦略」資料説明2020年7月~2021年6月分データ引用)。
こうして化成肥料や除草剤、農薬などを多用し、単一栽培で効率化を図る慣行栽培の土壌では栄養のバランスが崩れ、自然の循環を維持する微生物や生物の多様性が失われているため、化成肥料の使用を止めると途端に収量が落ちることが予測できます。
このような劣化した土壌の上で生きる僕らは今、農業の在り方を見直し、まだ日本の食料が安定しているうちに、何か手を打たないといけないと考えながら農業をしています。
石井
その解決策が衣川さんの実践する不耕起栽培なのですね。
衣川
はい。不耕起栽培の大きな特徴はまず「耕さない」ということ、そして雑草と呼ばれる草も根を残して刈り取り、刈り取った草もその場 に敷き重ねて「草マルチ」として活用します。
草マルチはミミズや微生物などの分解者を増やし、その小さな生き物たち の営みが表層の土を豊かにし、肥沃な土壌へと再生してくれています。
つまり不耕起栽培の畑では、虫も草も微生物も みんなで野菜作りをしているため、外部から持ち込む肥料を必要としない畑になっていきます。
そこに住まう生き物の多様性を回復させ、栄養のバランスや循環を取り戻すことで作物が育つようになっていきます。
八一農園が有機肥料を使わない理由・工業的畜産をどう見るか?
石井
なるほど、畑にあるものだけで全てをまかなう。確かにこの方法ならどこにも依存せずに野菜作りができますね。ですが、微生物を増やすというのなら有機肥料を入れるというやり方もあると思うのですが。
衣川
確かに牛糞堆肥や鶏糞など動物性の有機肥料を使って微生物を増やすほうがより早く畑に効いてくると思います。僕が有機肥料を使わない理由として、工業的畜産への懸念があります。
工業的な畜産が環境に与える影響は大きく、海外では飼料用の穀物を育てるために森林開発が進み、今では地球上の哺乳類の60%を家畜が占めていると言われています。
その家畜の排泄物やゲップから発生するメタンガスや一酸化二窒素により地球温暖化が進んでいると指摘されているのです。
個人的にもそういったプロセスを知った以上、あえて工業的畜産から生み出される堆肥に依存しないという選択をしています。
石井
環境面からすべての選択をさているのですね。根源である地球という土台が壊れてしまっては、美味しい食卓も成長する経済も存在しないですもんね。
衣川
僕たちは豊かな生活と引き換えに多くのものを破壊して生きています。
その最たるが地球環境だと思うのです。農業に限らずですが、良かれと思って最善を尽くして行ってきた先人たちの価値観も行為も、今は所々で改善や修正を必要とする時代です。
問題に対し解決しようとしていくアクションは様々ですが、気候変動を解決するカギは「食」にあると思っています。
衰退していく自然と増加していく人口に対処していく為にも自分達の食を見つめ直すこと、いきものたちが豊かに共生する土壌をより多く次世代へ残していくことが大切だと考えているからです。
大気中から炭素を減らす手段は数百年前から存在している!
石井
とはいえ、耕耘しないことによる土壌炭素の貯留量は1ヘクタール辺りたったの2トン。
国土の12%しか農地を持たない小さな日本において不耕起栽培の気候変動へのインパクトはほぼ無力だと絶望的な気持ちになりませんか?
衣川
これは地球規模での取り組みだと思います。
アメリカやカナダなど広大な農地を有する国々が不耕起栽培に転換した時のインパクトは大きく、世界中で不耕起栽培を行うことで確実に農業が「問題」ではなく「解決策」へと転換出来るからです。
例えば、日本は多くの食料品を海外輸入に頼っている現状があります。
今後もしばらく輸入に頼っていくという方向性であれば、輸入する内容を不耕起栽培で作られたものに変えていくことも気候変動対策としては有効な手段とであると考えています。
日本はまだお金で食料を買えているし、海外に比べ温暖化の影響による壊滅的な農業被害は出ていないのかもしれない、そんな今だからこそ日本でも不耕起栽培で土壌の再生を急務に走らせ、消費においてもそういった農産物を生活の中に取り入れていく必要があると思うのです。
『DRAWDOWN ドローダウン‐地球温暖化を逆転させる100の方法』の著者、ポール・ホーケン氏はこう言っています。”全世界が厳格にかつ現実的に 30 年続けていけば、地球温暖化 は元に戻すことができます。
大気中から炭素を減らす手段は、数百年も前から存在していたのです。それはものすごく 単純なことで、植物と土壌微生物に炭素を吸収し蓄えてもらうことなんです“(ドローダウン–地球温暖化を逆転させる100の方法 引用)
石井
人間が破壊してしまった地球を、本来あるべき姿に戻していくことができるのが不耕起栽培なのですね。
分野を問わず、こういうロジックで自然との付き合い方を考えたら、エネルギーや衣食住など私たちが持続可能な社会を目指すのなら見直すべき点はたくさんありますね。
衣川
これはとても大きな課題です。皆さんと一緒に考え取り組み、実践していくため、僕らは“Harvest Commons”という新しいコミュニティを作り畑を共有することにしました。
いわゆるシェア畑みたいなものでなく、共同管理で収穫物も共有していく、大変なことも喜びも関わる全ての人たちで分かち合い、全員がここにある自然を大切にしていく学びの場です。
八一農園が最終的に辿りついたもの
石井
不耕起栽培を学べる場所なんて日本全体を見ても数少ないと思いますが、さらにコミュニティで仲間もできるなんて、日本初の試みだと思います。
環境や農業の知識だけでなく参加される皆さんにとって大切な場所になりそうですね。
衣川
きっとこういった畑で農作業を経験する中で、新規就農をしたいという方も出てくると思うんです。
僕自身がそうだったように、本気で不耕起栽培で農業を志す人の受け皿になるためにも認定農家を取得し研修生を受け入 れて就農支援が出来るように準備を進めています。
石井
日本の農業は高齢化に加え、後継者不足という問題を抱えているので、不耕起栽培で新規就農者を輩出することができたのなら、環境問題と農業問題双方にコミットできますね。ぜひ実現していただきたいです。
衣川
この取り組みは就農させる事がゴールではありません。なぜなら新規就農者を無事に輩出することができても、彼らは営農活動を0からスタートしなければならないからです。
これではいくら高い志を持ち不耕起栽培農家になれたとしても続けてはいけないですよね。だから僕は就農支援の次の営農支援を考え、最終的にたどり着いたのが大豆栽培でした。
地球温暖化を食い止めるアイスクリームとは?
大豆が新規就農者をサポートする鍵となるとは意外です。具体的にはどういったことなのでしょうか?
衣川
新規就農者の借り受ける畑の環境や条件というのは決して良いとは限りません。マメ科の大豆は比較的地力の弱い土地でも栽培でき、畑自体の地力も上げてくれるので新規就農者の即戦力として活躍してくれます。
そういった点 でも大豆と不耕起栽培の相性はとても良いと感じています。何よりも大豆は納豆や豆腐、味噌や醤油など日本人の食 に欠かせない食材です。
そしてお米と同様に収穫した後も長期保存が可能な事からこの大豆を活用したアイスクリームを作ることで営農支援が出来ると考えました。
石井
なるほど!その答えが「地球を冷やすホットなアイスクリーム!?」なのですね!?
衣川
その通りです!新規就農者の大豆で作るこのアイスクリームを応援する皆さんが食べれば食べるほど不耕起栽培の農家が支援され、新たな実践者が増えれば増えるほど不耕起栽培の土壌面積が広がっていく。
そんな取り組みになるはずです。
SDGs13 気候変動対策に真剣に取り組もうよ!という魂の叫びが込められた絶叫大豆
石井
美味しいアイスクリームで心は満たされ、大豆ですからイソフラボンなど美容や健康にもいい。尚かつ気候変動を解決する一端を担うことができるなんて、そんな甘い夢のような話があるとは驚きました。
地球を冷やすアイスクリームと はそういうことだったのですね。ところで気になったのですが、タイトルにある絶叫大豆とはなんの事でしょうか?
衣川
これは地球の叫びであり、僕らの叫びでもあるんです。だから絶叫大豆!SOY(大豆)SCREAM(叫び)なんです(笑)。
石井
重い環境問題を楽しく解決するネーミングですね(笑)。まさにホットなアイスクリームだと思います。
衣川
僕はこの取り組みを、ボーダレスアカデミーでソーシャルビジネスとして磨いてきました。
ボーダレス・ジャパンは本当に社会に対して良いことしか行わない会社の集まりなので、僕も将来的にその中でこのSOYSCREAM!!!を立ち上げたいと考えています。
理想は畑にいるミミズのように生きているだけで地球に役立つ、そんな企業になりたいですね。
衣川さんが学んでいるボーダレス・ジャパンさんの記事はこちらから読むことができます。
衣川さんは気候変動の話を、自分の夢を語る少年のような笑顔で語ってくれた。環境問題はとても大きく、長い期間を要するので重たくなりそうなテーマだが、こんなにも希望に向かって励んでいる農家さんがいることをぜひ皆さんにも知っていただきたい。
衣川さんは、SOYSCREAM!!!の取り組みに共感する志し高い企業や販売店の協力を求めている。ご興味のある方は下記、八一農園さんへ連絡していただきたい。
消費者にもできる具体的な気候変動へのアプローチであり、環境問題やSDGsに取り組む企業などの福利厚生の一環として取り入れても面白そうだ。
今後もSOYSCREAM!!!、不耕起栽培、そして衣川さんに注目だ。
八一農園HP:https://81farm.organic