
政府は25年6月6日の閣議で2025年版「環境・循環型社会・生物多様性白書」を決定した。白書では初めて循環経済への移行を明記し、資源の有効活用によって成長の好循環を実現する新たな戦略が、企業価値向上や地方創生の鍵になると示された。
環境省白書が示す循環型社会の全体像を読み解く。
「成長のための循環」への大転換
従来の経済モデルは「大量生産・大量消費・大量廃棄」を前提とした、いわば“直線型(リニア)経済”だった。しかし、環境負荷の上昇や資源の枯渇、生態系の危機といった問題が深刻化する中、このモデルは限界を迎えている。
今回の白書は、こうした危機感を背景に、「環境を軸とした経済・社会の統合的向上」を掲げた第六次環境基本計画を受けるかたちで編まれている。その中で「循環経済」への移行は、単なる環境保護ではなく、資源の効率的な活用を通じた新たな経済成長の柱と位置づけられている。
「資源を活かす新成長戦略」としての循環経済は、原材料の使用を最小限にとどめつつ、廃棄物を価値ある資源として再活用することによって、環境負荷を低減しながら、経済を内発的に活性化させていくことを目指すものである。
なぜ今、「循環経済」なのか
2024年に開催された国連環境総会では、日本が気候変動・生物多様性・資源循環といった複合的な課題を一体的に捉えた国際的枠組みの提案を主導した。環境省はこれを「トリプルプラネットクライシス(三重の地球的危機)」への包括的な解決アプローチと位置づけている。
地球温暖化は「炭素資源の過剰利用」、生物多様性の損失は「生態系の無視」、そして資源制約と廃棄物問題は「一次資源に依存した非効率な社会構造」に起因する。これらを統合的に解決しうる鍵が「循環」であるという認識が、今回の白書の根底にある。
特に注目すべきは、循環経済が単なる環境施策ではなく、「競争戦略」であるとした視点である。白書は、資源の効率利用によるコスト低減、サプライチェーンの強靱化、新規市場の創出など、ビジネス上の利点にまで踏み込んで言及している。
廃棄物から価値を生み出す「成長志向型循環」
今回の白書では、「第五次循環型社会形成推進基本計画」の進捗も報告されており、特に「成長志向型の資源自律経済戦略」の明文化が注目される。
そこでは、プラスチックやレアメタルなどの資源を“廃棄物”としてではなく、“循環可能な資産”として扱う方向性が明確に示されている。製品の設計段階から長寿命化や分解性、再利用性を組み込み、ライフサイクル全体での資源効率を最大化するという、いわば産業構造そのものの見直しが求められている。
この戦略はまた、循環型素材の需要を喚起し、新たなイノベーションを生む土壌にもなっている。実際、再生可能資源を活用した素材開発や、廃材を用いた高付加価値商品への転換は、スタートアップから大企業まで幅広いレイヤーで進行している。
企業にとっての「循環経済」の実装メリット
循環経済への移行は、企業価値の向上にも直結する。まず第一に、持続可能な原材料調達や製品回収の仕組みづくりは、コストの削減と同時にレジリエンスの強化につながる。資源価格の変動リスクを低減し、外部ショックにも強い体制を構築できる。
第二に、ESG投資や国際的なサステナビリティ評価指標との親和性が高まる。TCFDやTNFDのような非財務情報開示において、循環型の取り組みは重要な開示項目となりつつある。白書では、循環経済への取り組みが企業の競争力や持続可能性の向上に資するものであり、ESG投資や非財務情報開示においても注目されていると記されている。
さらに、消費者や取引先からの評価も向上する。サプライチェーン全体での資源循環を明示することは、企業の透明性と責任を示すシグナルとなり、ブランド価値の向上につながる。
地方創生と中小企業にも広がる「循環」
循環経済は、都市部の大企業だけでなく、地方や中小企業にとってもチャンスである。白書では、地域資源を活かした「地域循環共生圏」の取り組みが多数紹介されており、農林水産業や観光業と連動した新たな循環モデルの創出が期待されている。
たとえば、地域の未利用バイオマスを活用した発電や熱利用、廃棄野菜を使った食品加工品の開発、古民家材のアップサイクルによる観光資源化など、多様な事例がすでに芽を出している。これらは単に環境負荷を減らすだけでなく、地域に新たな産業と雇用を生み出す原動力にもなっている。
環境省も、「循環」は地方創生政策の柱として位置づけており、今後は自治体や地域金融機関、大学・NPOなどとの連携によるエコシステムづくりがカギとなる。
政策とビジネスが交差する「実装フェーズ」へ
白書は、循環経済の推進にあたって、政策と企業活動の「接合点」を意識した構成となっている。たとえば、製品設計や物流の効率化における補助制度、再資源化の技術支援、ESG金融による循環事業への投融資促進など、実装を後押しする施策が複数紹介されている。
また、国際的には欧州グリーンディールとの接続や、アジア地域での循環産業の展開支援も視野に入れており、日本企業の国際競争力強化にも寄与しうる。
参照:環境・循環型社会・生物多様性白書(環境省)