富士見市ふるさと納税返礼品に採用、地域と企業の協働でSDGs推進
食品ロス問題の中でも、見落とされがちな「かくれフードロス」に光を当てた新商品が、埼玉県富士見市のふるさと納税返礼品として注目を集めている。フードテック企業のASTRA FOOD PLAN株式会社(以下、ASTRA)が開発した『タマネギぐるりこ®』は、吉野家ホールディングスの玉ねぎ端材をアップサイクルして誕生したクラフト調味料だ。
この商品は、単なる食品の販売にとどまらず、持続可能な社会の実現を目指した企業と自治体間の連携の好例として評価されている。
隠れた課題「かくれフードロス」とは
フードロスという言葉は一般的に、食べ残しや消費期限切れの食品を指す。しかし、「かくれフードロス」とは、食品工場や産地で発生する野菜の端材、規格外農作物など、通常のフードロス統計に含まれない食品廃棄を指す。この規模は年間約2,000万トンに達するとされるが、大半が有効活用されていないのが現状だ。
『タマネギぐるりこ®』は、吉野家の野菜加工センターで牛丼用に加工される際に出る玉ねぎの芯や硬い表皮、規格外スライスを原料とする。これらは従来廃棄されていたものだが、ASTRAの特許技術「過熱蒸煎機」により、香り高く栄養価の高い乾燥玉ねぎフレークとして再生された。
香りの強さが通常の135倍、新たな価値創造へ
ASTRAの乾燥技術は、単なる保存性の向上にとどまらない。『タマネギぐるりこ®』は、分析の結果、市販の熱風乾燥オニオンパウダーと比較して香り成分が最大135倍であることが分かっている(同社調べ)。また、玉ねぎの芯部分も使用することで栄養価の向上を実現。こうして生まれた製品は、炒め玉ねぎの代替や調理時間短縮に役立つだけでなく、パンやお菓子のレシピにも応用できる汎用性を備えている。
富士見市のSDGs未来都市選定と地域振興
埼玉県富士見市は、2024年5月に内閣府から「SDGs未来都市」に選定された。その背景には、自治体として持続可能な社会を目指す取り組みが評価されたことがある。
今回の『タマネギぐるりこ®』の返礼品採用もその一環であり、星野光弘市長は「かくれフードロス削減という課題解決に向け、注目を集めているASTRAの活動を富士見市として支援できることを喜ばしく思う」とコメントした。
また、市長は「本返礼品を通じて、多くの方がフードロス削減に関心を持ち、持続可能な社会に向けた取り組みの一端を担うきっかけになれば」と期待を寄せている。
関係者の声と商品への期待
ASTRA FOOD PLANの代表取締役、加納千裕氏は、自身が生まれ育った富士見市での採用を「大きな喜び」と語る。加納氏は「『タマネギぐるりこ®』はご家庭で手軽に使える調味料として、納豆に混ぜるなどのシンプルな使い方でも驚くほどの風味を楽しめます」と述べる。また、「美味しく召し上がっていただくことが、そのままかくれフードロス削減に貢献することになります」と、社会的意義を強調した。
さらに、『タマネギぐるりこ®』のレシピ開発を担当した女子栄養大学の学生たちも、栄養価に注目した多様な利用方法を提案している。商品にはオリジナルのレシピ集も付属し、消費者が家庭で実際に楽しめる工夫が施されている。
循環型フードシステムの可能性
ASTRAが開発した『過熱蒸煎機』は、端材や規格外品などの未利用農作物を、付加価値の高い食材にアップサイクルする技術として注目されている。同社はこの技術を活用し、『タマネギぐるりこ®』以外にもキャベツを使用した『キャベツぐるりこ®』などの製品開発を進めている。
星野市長は「地域と企業が一体となって、持続可能な循環型社会を実現する一助となることを目指したい」と述べ、今後の取り組みへの意欲を示す。この協働モデルは、他の自治体や企業にも応用可能であり、広がりを見せる可能性がある。
フードロス削減と地域経済の好循環を目指して
『タマネギぐるりこ®』を返礼品とするふるさと納税は、単なる寄付の手段ではなく、消費者がフードロス削減と地域振興に直接関与できる方法を提示している。富士見市とASTRAが目指すのは、単に食品端材を活用するだけでなく、新しい価値を創造し、社会課題の解決と地域経済の活性化を両立させることである。
持続可能な未来を築くため、こうした取り組みをさらに広げていくことが期待される。