「価値創造ストーリーとは一体なに?」
「どのように作成すれば良いの?」
自社でサステナビリティ対応を進める時、このような悩みを抱えていないでしょうか?
企業の価値創造プロセスをステークホルダーに分かりやすく伝え、共感を得るためには価値創造ストーリーの作成がとても効果的です。
そこで今回は、価値創造ストーリーの概要や作成するメリット・書き方について解説します。
記事の最後に実際の企業例もご紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
価値創造ストーリーとは?
価値創造ストーリーは、企業の資本を事業活動に投入し、環境や社会・ステークホルダーにどのような価値を提供していくのかという『価値創造プロセス』を、ストーリー立てて説明するものです。
価値創造プロセスは、下記のフレームワークを参考にすると分かりやすいです。
資本の流れを表す線がタコ足に似ていることから、オクトパスモデルと呼ばれています。
この図では、
- どのような資本を事業に投入し(インプット)
- その事業がどのような商品・サービスを生み出し(アウトプット)
- その結果、社会にどのような価値をもたらすのか(アウトカム)
- これらの事業活動が自社資本にどのように影響を与えるのか
この価値を生み出す流れを『価値創造プロセス』と呼びます。
現在、多くの企業では価値創造プロセスの作成にオクトパスモデルを使用しています。
価値創造ストーリーと価値創造プロセスの違い
価値創造プロセスは、「自社の資本を活用してどのような商品・サービスを展開し、社会にどのような影響(価値)を与えるのか」といった一連の流れを表したものです。
一方で、価値創造ストーリーは、価値創造プロセスにストーリー性を持たせて説明することを指します。
価値創造プロセスを表に表しただけでは、それぞれの取り組みに関する背景情報が伝わりにくく、読み手であるステークホルダーにとって理解しにくいというデメリットが発生します。
東急不動産ホールディングス株式会社の事例で詳しく説明します。
上記の項目の羅列を見ただけでは、企業の具体的な取り組みや取り組みに掛ける思いなどの背景情報を読み解くことは難しいのではないでしょうか。
また、「過去にどんな経緯があって、現在どのような戦略を実施しているのか」という、企業の進捗についても上記の表だけでは理解しにくいのではないかと思います。
値創造プロセスが直感的で分かりやすいというメリットはありますが、上記のような一枚絵だけではどうしても伝えられない情報があります。
このような価値創造プロセスの表記だけでは伝わりにくい、時間軸や背景情報を伝えるのに役立つのが『価値創造ストーリー』です。
価値創造ストーリーが求められる背景
価値創造ストーリーが求められるようになった背景に、企業側に対して、ステークホルダーに理解しやすい情報開示が求められていることが挙げられます。
企業には、ステークホルダーに対する説明責任があり、自社の経営方針や事業活動・財務情報、また、それらから生み出される価値など、自社の価値創造プロセスについて統合的に報告し納得させる責務があります。
この情報開示により、ステークホルダーは、自身の関わる企業に対して理解を深めたり、投資の判断基準に役立てたりします。
しかし、ただ経営方針や事業活動・財務情報などの情報を並べただけでは、読み手であるステークホルダーにとっては、項目ごとのつながりが分かりにくく企業の全体像を理解できないのが実状です。
そこで求められるのが、価値創造ストーリーの作成です。情報同士を線で結びストーリー性を持たせることで、情報間の関係性や背景情報が理解しやすくなります。
また、説明責任の観点からだけでなく、ESGに関する情報開示の点においても価値創造ストーリーは重要です。
2021年6月に行われたコーポレートガバナンス・コードの改訂では、サステナビリティについての基本的な方針や取り組みに関する情報を開示することが求められるようになりました。
これにより、企業としては、財務面だけでなく非財務面の価値創造プロセスも含めて情報開示することが必要となりました。しかし、財務面と非財務面の情報は、元々相反するものです。
事業を成長させるためには、地球の資源を利用する必要があり、一方で、社会貢献や自然環境保護活動などを行えば、余計なコストがかかり財務面に影響を及ぼします。
ただ、現在ではこの相反する両項目を事業活動を通して好循環させていくことが求められ、ESG投資と呼ばれる投資機会を獲得するためにも、ステークホルダーが納得するような情報開示を行うことが大切です。
例えば、下記の情報から繋がりを推測することはできるでしょうか?
- 資本:社会関係資本
- 事業:責任あるコーヒー豆の調達、高品質なコーヒーの提供
- 事業を通じた提供価値:日常に豊かな時間を提供する
- 社会的価値:生産国の人々の暮らしの向上
こちらは価値創造プロセスの図に沿って、資本▶︎インプット▶︎アウトプット▶︎アウトカムのそれぞれの内容を記載してみたものです。
一つ一つの項目を読んでいるだけでは、そのつながりが見えにくいのではないでしょうか。
特に、社会的価値として挙げた「生産国の人々の暮らしの向上」という項目と、それ以前の項目とのつながりが見えにくいのではないかと思います。
この個別に別れた項目の関連性を明確にし、分かりやすくステークホルダーへ伝えるためにも、価値創造ストーリーの作成が求められます。
価値創造ストーリーを作るメリット
では、価値創造ストーリーを書くことで得られるメリットは、どのようなことが挙げられるでしょうか。
メリットとして挙げられる項目は、以下の通りです。
- 価値創造プロセスがステークホルダーに伝わりやすくなる
- 企業の取り組みに独自性を出せる
- 自社の向かうべき方向性を再認識できる
上記について、一つずつ解説していきます。
1.価値創造プロセスがステークホルダーに伝わりやすくなる
ステークホルダーに価値創造プロセスを分かりやすく伝えられます。
先にもお伝えしましたが、現在では価値創造プロセスを描くとき、旧IIRCが提示するフレームワークにて公開されている一枚絵(オクトパスモデル)を使用します。
オクトパスモデルでは、
- 資本がどのように事業に投入され
- 事業を通してどのような商品やサービスが生み出され
- 商品・サービスが社会にどのような価値を提供し
- 最終的に、自社資本がどのように増加・減少・変化するのか
これらの情報が直感的に、プロセスの流れを理解しやすいでしょう。しかし、時間軸や背景情報、各項目ごとの具体的な関連性などが把握しにくいことがデメリットになります。
そこで、この価値創造プロセスを、
- 過去〜現在〜未来という時間軸
- 各項目の関連性や背景情報
- パーパス(企業の存在意義)
などを明確にしストーリー性を持たせることで、企業のビジネスが『現在どのように成り立っていて、将来的にどのような価値を生み出すのか』といった事業の一連の経緯が伝わりやすくなります。
2.企業の取り組みに独自性を出せる
企業の独自性を出せることもメリットのひとつです。
企業が行うサステナビリティ対応の方法には、似通ったものがたくさんあり、ステークホルダーからすると「いったい何が違うの?」と、疑問に持たれることがあります。
そこで競合企業との差別化、自社の独自性を出せるのが、「価値創造ストーリー」です。
では企業の独自性はどのようなところに表れるでしょうか。
例えば、ネットスーパーや食材宅配サービスでは、循環型経済に力を入れている企業がとても多く見受けられます。
そして、ほぼ全てのサービスでリサイクル・リユース・リデュース(3R)の実施を謳っています。このように、行き着く先が同じ目標である以上、取り組む内容も類似するのは当然のことです。
しかし、取り組みに対する背景情報や具体的なやり方などは、各企業によって異なるはずです。一例として、リユースの取り組みとして「リユースびん」を使用した牛乳の提供について考えてみましょう。
同じリユースびんを活用した取り組みでも、回収したびんを洗浄する過程では企業それぞれで取り組みが異なります。
ある企業では、自社で回収・洗浄し店頭に並べます。しかし、一方の企業では、びんの洗浄を障害者自立支援施設に依頼し、障害者の社会的な自立支援につなげているケースもあります。
このように同じ取り組みでもやり方が異なり、そのやり方を選択した経緯や思いは企業ごとに異なるはずです。
つまり、同じ目的に向かうプロセスに企業の独自性が隠れていて、それを分かりやすく伝えられるのが「価値創造ストーリー」のメリットです。
3.自社の向かうべき方向性を再認識できる
価値創造ストーリーを作成するためには、過去〜現在〜未来へと向かう時間軸と背景情報を踏まえた情報の整理・把握が必要です。
把握する項目は、以下のような内容となります。
時間軸 | 項目 |
過去〜現在 | ・企業の歴史 ・資本(財務・非財務) ・現在のビジネス |
現在〜未来 | ・成長戦略 ・将来的な資本の変化(増加、減少、変化) ・パーパス(企業の存在意義) |
つまり、価値創造ストーリーを作成する過程を経ることで、自社についての理解が深まり、自社の向かうべき方向性を再認識するきっかけにもなります。
価値創造ストーリーの書き方
価値創造ストーリーを作成するためのポイントは、パーパス(企業の存在意義)起点で自社の取り組みについて書いていくことです。
そして、自社の取り組みについては、以下の3つの視点を取り入れて説明すると、ステークホルダーから共感を得やすい価値創造ストーリーを作成できます。
- 自社(自社の沿革)
- ステークホルダー(共通の体験)
- 社会課題の解決
1.自社の沿革
ストーリーの書き方のひとつ目が、『自社』の視点です。
パーパスに向けて自社がどのような歴史を辿り、現在どのようなビジネスを展開し、将来的にどのような方向に向かっているのか、などパーパスと自社の経営を結びつけ記載するようにすると良いでしょう。
2.ステークホルダー(共通の体験)
次に、『ステークホルダー』の視点です。
ステークホルダーの視点については、パーパスに向けた自社の取り組みによって、ステークホルダーがどのようなメリットを受け、将来的にどのように価値を受けられるのかを描いていくと良いでしょう。
3.社会課題の解決
最後に、『社会課題の解決』の視点です。
この視点については、マテリアリティを特定し、自社の取り組みがどのようにしてマテリアリティの解決につながっていくのかを記載すると良いでしょう。
マテリアリティについて記載する場合は、マテリアリティを特定した経緯や特定方法も併せて説明すると、より説得力の高いストーリーとなります。
価値創造ストーリーの作成例
ここまで、3つの視点について簡単に解説しましたが、一例としてコーヒー業界の取り組みを例に挙げて、価値創造ストーリーの作成について考えてみたいと思います。
前情報として、コーヒー業界の歴史について以下の情報を説明させてください。
【コーヒー業界の歴史】 コーヒー業界では生産国に対する労働の搾取が問題となっており、コーヒーの品質がどんどん下がってしまった結果、一時期コーヒー離れが起こってしまった歴史があります。 その歴史を経て、現在では適正な価格で取引を行うフェアトレードや、適正価格での取引だけでなく生産者と共に品質の高いコーヒー豆の生産を行えるダイレクトトレードを実施する企業が増えています。 |
このことを踏まえて、「1.自社」・「2.ステークホルダー」・「3.社会課題」の3つの視点と、過去・現在・未来の時間軸を含めてストーリー化してみたいと思います。
例としては、以下のようになります。
(例)価値創造ストーリーに含める項目 | |
過去 | 安価な価格でのコーヒー豆取引により生産者の生活が圧迫され、それに伴いコーヒーの品質が下がった |
コーヒーの品質が下がったことにより、コーヒー離れが起こり、自社としても業績悪化につながった | |
コーヒーは、品質が重要だということを再認識。そして、再度コーヒーの品質向上を図り、お客様に最高のコーヒーを味わってもらうために試行錯誤 | |
現在 | 現在では、生産国の農家と直接取引を行う『ダイレクトトレード』を実施し、生産者とともにコーヒーの品質向上に向けて協働する仕組みを確立 |
適正な価格での取引を行うことで、生産者の生活支援にもつながり、高品質なコーヒーを安定して供給し続けられるようになった | |
未来 | このビジネスモデルを拡大していくことで、コーヒー業界の発展と、生産者・消費者双方が幸せになれる世の中を実現することが自社の存在意義 |
上記のような事象を線で結び、そこに創業者の経験や思いなどの背景情報を踏まえてストーリー性を持たせることで、ステークホルダーが理解しやすい内容となります。