乙川畜産食品株式会社は、創業46年の牛肉卸売会社。熟練の技術とシステム化した加工による高品質でコストパフォーマンスの良い国産牛を提供し、スーパーや飲食店、精肉店など幅広い顧客から厚い信頼を寄せられています。2011年に2代目社長に就任した代表取締役社長の乙川隆之氏は、従来のBtoBに加え、BtoCにも進出。2013年にオープンした直営の店舗「焼肉 乙ちゃん」は厳選黒毛和牛をリーズナブルに楽しめるとあって、リピーターも多い人気店に成長しました。「全国の家庭においしい牛肉に届けたい」との想いのもと、さまざまなチャネルで事業展開し、顧客起点のビジネスを追求する乙川さんに、同社の来歴とステークホルダーへの想いを伺いました。
効率化したシステムと熟練の技術で高品質の国産牛を安定供給
―まずは、国産牛の卸売会社としての御社の特長を伺わせてください。
昭和50年に現会長の父が創業し、10年前に私が事業継承して2代目の社長に就任しました。品川駅すぐの東京食肉市場でセリ落とした国産牛をスーパーや百貨店、飲食店、ホテル、小売店などに幅広く納入しています。
同業他社との大きな違いは市場内に専用の加工場を設けていることで、同様の施設を持っているのは約200ある卸売会社の中でも弊社を含めて8社のみです。セリ場から整形加工・梱包されるまでがシステム化され、ムダのない効率的な処理方法を採用することによって高いコストパフォーマンスが可能になり、安心安全で高品質の牛肉を安定供給する卸問屋として、多くのお客様から高い評価をいただいています。
―牛肉の品質は、一般人は価格やブランドなどで推し量っていますが、プロの決め手はどこにあるのでしょうか。
牛肉の品質は、色や肉質、サシの入り方、脂のキメなどで決まります。日本で最も取扱高が多い東京食肉市場には毎日600頭もの牛が運ばれてくるので、目利きをできる時間は一瞬です。弊社では、30年以上に渡って食肉牛を見てきたベテランのバイヤーが血統や銘柄、体形などあらゆる視点から瞬時に見極め、高品質の牛肉を厳選しています。1日に30頭前後を取り扱う牛はすべて1頭買いし、希少部位も安定的に提供できることも弊社の強みです。
「安くておいしい焼肉店を開きたい」。夢を実現、リピーターの多い人気店に成長
―乙川さんが2代目社長に就任され、焼肉店をオープンされました。BtoBから一般の消費者を対象としたBtoCにも進出されたねらいを聞かせてください。
実は、子どもの頃から「将来肉屋になるんだぞ」と父に言われ、その自覚を持って育ちましたが、牛肉自体はとくに好きな訳ではなかったんです。ところが、大学卒業後に3年間大阪に住んでいた時、知り合いに連れていってもらった焼肉店がものすごくおいしく、感動する出来事がありました。その年齢まで牛肉は家で食べるもので、焼肉店は初めてだったのですが、感動するとともに値段がすごく高い。「いつか安くておいしいお店を自分でやりたい」と決意しました。
その夢がかなったのが「焼肉 乙ちゃん(おとちゃん)」です。2013年に鮫洲に1号店をオープンし、現在は大森・目黒の店舗を含めて3店舗を運営しています。
黒毛和牛A4・A5ランクのメス牛を提供。希少部位が常に揃うのも自慢
―「焼肉 乙ちゃん」は焼肉ファンの間で人気が定着し、食べログなどレストランレビューサイトでも評価が高いですね。卸直営のお店はほかにもありますが、貴店ならではのおいしさの秘密を教えてください。
牛肉卸直営のお店というと卸用の余剰の肉を使っていると誤解されることがありますが、そうではなく、店用に独自の牛を仕入れています。卸直営でなかなかそういうところはないと思います。業務用の牛肉卸では国産牛全般を扱っていますが、お店の方は黒毛和牛A4・A5ランクのメス牛だけを使い、細かい脂のキメととろけるような旨味というメス牛ならではの味わいを楽しんでいただけます。
一般の方は高品質の牛肉というと松坂牛などのブランド肉を思い浮かべるでしょうが、ブランドにこだわるとセリ値が高くなり、必然的に価格も高くなります。弊社では、この道30年のベテランが目利きし、その日のいい牛を厳選することで、味・品質にすぐれながらリーズナブルな料金で焼肉を楽しんでいただけます。お店にいらした方は「この値段でこんなにおいしい牛肉が食べられるなんて!」と感動されてリピーターになってくださり、口コミでどんどんお客様が増えました。
―おいしい焼肉はテンションがあがりますが、手頃な価格ならなおのことうれしいです。
1頭買いなので希少部位も取りそろえていることも当店の特長です。来てくださったお客様に常に満足していただけるよう、店用に10頭分くらい確保し、どの部位も切らさずに常にご提供できるのも自慢です。外からは見えない部分ですが、そういう焼肉店はなかなかないと自負しています。
世の中のニーズに応える企業であり続けたい。通販事業にも進出
―BtoCでは、ネット通販事業も手がけられていらっしゃいますね。
「ご家庭でも黒毛和牛のおいしさを味わってもらいたい」という想いで、7年前に通販事業をスタートしました。楽天市場で立ち上げたのを皮切りに、Yahoo!、Amazon、自社専用サイトを展開しています。ネット通販「牛匠 乙ちゃん」では、ステーキ肉や希少部位の盛り合わせなど冷凍中心で販売しています。他に、すきやき肉やしゃぶしゃぶ肉を冷蔵で販売する自社サイト「お家で乙ちゃん」というサイトもあります。
コロナ禍での時短営業で店舗は大きな影響を受けましたが、自宅でごちそうを楽しむ人が増えたことなどで、通販事業が伸びています。東京だけではなく、全国に「焼肉 乙ちゃん」のおいしさを届けたいとの想いが実現できているのもうれしいですね。また、最近BtoB向けのサイトを立ち上げ、小売店などにブロックやステーキ、焼肉用の肉を販売しており、こちらの展開にも期待しています。
―最後に事業の方向性など今後の抱負についてお聞かせください。
弊社は創業以来、食肉という同じ商品を扱いながらも時代のニーズに沿いながら、常に変化してきました。自分たちが良いと思う製品ではなく、消費者のニーズに応えられる食肉を厳選して提供すること、それを安定して供給し続けることを使命としてきましたが、私の時代になり、その使命を果たす領域を拡大してきました。
弊社の経営理念「おいしいしい肉を追求し続け日本の食卓を笑顔でいっぱいにします」を守りながら、牛肉卸、飲食、通販のそれぞれの事業をより発展させていきたいですね。
乙川畜産食品株式会社ステークホルダーへの想い
先代の時代から仕入れを担当しているバイヤーの塚田さんに、感謝の気持ちを伝えたいと思います。この道38年のベテランで、弊社が扱う肉のすべてを担当しています。社長の私は経営に専念し、現場の仕入れは塚田さんが統括する体制で、副社長を務めてもらっています。
目利きの道には終わりはなく、塚田さんも今も日々勉強され、自身でも飲食店を食べ歩いてその経験も活かしつつ、肉の見極めをしてくれています。店舗の肉も自分で試食し、目利きした肉について検証してくれていますから、うちの店の味には絶対の自信があります。塚田さんには感謝してもしきれない気持ちです。熟練のプロの技術を伝えてもらえるよう、後継者の育成にも期待しています。
スーパーなどに一括納入する商社から飲食店、デパート、街の精肉店まで数多くのお客様とお取り引きしており、創業期以来からのおつきあいのお客様も多くいらっしゃいます。弊社は1頭買いをしていますので、1頭分すべてを売り切らないと利益が出ません。1頭丸々納入するお客様から、小口の納入をするお客様まで幅広くお取り引きすることで卸売事業が成り立っています。
そうした中、ひとりひとりのお客様の小さなご要望にもフットワーク軽く対応することを信条とし、そうした柔軟な対応が今の弊社の信頼につながったと考えております。すべてのお客様に深く感謝するとともに、これまで以上のご愛顧をお願いできるよう、今後も一層の努力を重ねていきたいと考えています。
20年前から税務の顧問をお願いしている税理士法人 古田土会計グループは、弊社のパートナー的な存在です。具体的に教示くださり、毎月数字を追ってくれる月次決算というシステムにも満足しています。とりわけ最初に担当してくださった専務取締役の吉田由美子さんには大変お世話になりました。
事務所に伺うと、非常に規律正しく、社員の方々がひとつにまとまっている様子にいつも感心させられます。経営者としても参考になることが多く、今後も引き続き良いパートナー関係を続けていきたいと考えています。
「焼肉 乙ちゃん」の本店がある鮫洲は都心のはずれにあり、繁華街と比べて辺鄙な場所です。そこからスタートしましたので、鮫洲エリアの地域の方にすごくお世話になっています。コロナ禍の自粛期間、本音を言うと営業時間を延長したいし、お酒も提供したい。ですが、地域に迷惑をかけないことをいちばんに考え、厳守してきました。この地で営業できることに感謝しながら、店舗運営に務めていきたいと思います。
会員になっている世界的規模の異業種交流コミュニティ「BNI」では、さまざまな企業の経営者と交流し、ビジネスの知見を広げることができています。とりわけ、ワン・トゥー・ワンという対面セッションでは、交流を深めたい方とお互いのビジネスについて語り合うほか、セッションをきっかけにつながりができた方に営業支援をお願いするなど、弊社の事業にとって良い出会いをいただいています。また、BNIのメンバー方たちにお店に来ていただくなど、人脈はすごく大切だと感じています。食品関係だけではなく、幅広い業界の方と交流することで、経営者としての幅を広げていきたいですね。
株主は会長である父と私の2人ですので、会長について語りたいと思います。会長には、経営について意見を口にすることはありますが、自由にやらせてもらっています。現在80歳、早い段階で私にバトンタッチしてくれましたので、そういう意味でも潔いと思います。現在は週に一度出社し、店舗でも定期的に肉を食べ、的確な意見を伝えてくれます。父が興した会社を守り、発展させていくことが自分の使命だと思っています。
<プロフィール>
乙川 隆之
乙川畜産食品株式会社代表取締役社長。1969年生まれ。大学卒業後乙川畜産食品株式会社に入社。2011年に代表取締役社長に就任。
<企業概要>
株式会社乙川畜産食品株式会社
http://www.otokawa-chikusan.com/
〒108-0075 東京都港区港南2丁目7番19号
東京食肉市場センタービル内
設立:1975年
電話番号 TEL 03-3450-0137
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