1,300名のコーチング提供実績をベースに開発されたアプリ「People’s」。人生の歩みを蓄積し、問題にぶつかった時の道標を示してくれる人生支援プラットフォームです。運営会社である株式会社Your Verse の代表取締役社長CEO長谷川朋弥さんには、ある体験に基づいた強い想いがあります。今回はその想いと、彼の想いに共感しサポートしてくれるステークホルダーへの感謝についてお聞きしました。
自分がやりたいことを見つけ社会と繋ぐ
Q.まず起業された動機についてからお伺いしたいのですが、御社ホームページの代表メッセージに起業のきっかけとして、弟さんとお父様についてのお話がありました。
長谷川:弟が2018年に自ら命を断ったことは、私が起業した大きな背景になっています。生前の弟はとてもアクティブな人間で、単身アメリカに渡り路上でドラムを叩いて生活の糧を得ていたような人間でした。そんな彼が日本に戻り、25歳で一人前の「オトナ」になるため就職した途端、心身を摩耗し、転職を繰り返してうつ病を患い、遂には自らの人生にピリオドを打った。私は彼の苦しんでいた姿を見ていて、彼が本当にやりたいことができなかったこの社会とは何なのか、と大きな疑問を持ったのです。
そしてもう1つの動機が父です。父は地場に根を下ろす、ある水道関連物品を扱う商社に勤めていました。仕事も会社も大好きで、土日も関係なく仕事をしている父でしたが、それがある時を境に一変した。父は50歳の時に支店長に昇進したのですが、管理職になるとそれまでの仕事とは異なり、部下をマネジメントし業績を上げていかなければならない。この新しい仕事に父は必死に取り組みましたが、その頑張りの果てに弟と同じくうつ病になってしまった。
「自分が本当にしたいことが分からない。この会社のことを好きでいたいが、好きでいられない」。誇らしく自分の仕事を話していた父が、そう言うようになってしまったのです。
仕事が楽しい、この会社がいいと滅私奉公して数十年働き続けた後に、振り返ってみたら友達も、趣味も、何も残っていなかった。それはとても辛いことだと思います。
Q.お話と同様の問題は、今日本だけでなく様々な国で問題になっていると聞きます。
長谷川:弟と同じ若い世代が、自分がしたいと思っていることと社会を上手く繋ぎきれない、もしくは自分がどうしたいのか分からないまま、それに焦りを感じて潰れていっています。幸福先進国といわれるフィンランドなどでさえも同じ問題が起こり、若者の自殺率が上昇している。
この問題をどのようにして解決せねばならないか。私はそこにチャレンジしたいのです。弊社の事業の目的は「自分を生きる社会を実現する」ことです。父も弟も、自分が生きたいと思ったやり方を社会に上手く接続できなかった。それを自分で見つけられなかったことも問題ですし、それを受容しきれなかった社会にも問題がある。だからどちらも変えていかねばならないのです。
学校教育でも就職活動でも企業内でも「君は何がしたい?」とよく問いかけられます。しかし実際にどうしたいのか考えることは本人任せになっている。そして結局行きつく先は社会のレールに乗らなきゃいけない、レールに乗れなかった人は一人前の「オトナ」ではない、という決めつけです。私はこの構造的な問題を解決したい。
自分を見つめ直し、新たな一歩を後押しする「People’s」
Q.御社が提供している「People’ s」は、その問題意識に対してどのようなアプローチをされているのでしょうか。
長谷川:「People’s」は人生支援プラットフォームと位置づけています。人生には色々悩んだり選択を迫られるシーンがある。その時に立ち止まって自分をもう一度考え直す起点として使えるプラットフォームが「People’s」です。
People’sではアプリの中に人生史を作ります。ゆくゆくはSNSやスケジューラーなどから自分に起こった出来事や行動をインプットし、それをトラッキングして1つのデータベースに入れ込まれるようになっていきます。このログを蓄積していくことで、「自分はこういうことが好きだった」「こういうことに興味があったんだ」と内省的に自分を見つめ直すことができます。
このデータは完全にクローズしていて、他のSNSのように人に見せるためのものではありません。もっとコアなプライバシー、例えば旅行に行ったこと、誰かと恋愛したこと、過去に運動部に入っていたことなども全て入れていきます。
これらのデータを人生で選択が必要な時、例えば就職や進路選択の時などに引き出して見てみることで、自分が歩んできた道が分かるようになる。
Q.キャリアアドバイザー的な立ち位置なのでしょうか。
長谷川:キャリアアドバイスよりも、より大きく長い視点で振り返ることができます。つまり、人生を包括的に振り返るため、あらゆるライフイベントの際に使える。そのため、キャリアアドバイザーの方にも活用していただけますし、他にも学校の先生や子育てに悩む親御さん、社員の自己実現を叶えたい企業さんにも同様に使って欲しいなと思っています。
このライフログ機能の他、履歴書機能、そして性格分析機能などもリリースしていきます。
すでにリリースした性格分析については、今まで自分が使ってきた言葉・インプットしている言葉にポジティブ・ネガティブの評価を与えていくことで、自分がどんな性格なのかを見せてくれる機能です。他にもワードクラウドで自分がよく使う言葉を抽出することもできます。
Q.今後はどのような機能を実装していく予定なのでしょうか。
長谷川:リアルな人生教材を加えることを考えています。イチローや本田圭佑などは非凡すぎて、彼らの人生について学んでもあまり参考にならない人も多いようです。それに対し、私は以前NHKの『プロフェッショナル仕事の流儀』で、日本通運で働いている普通の引っ越し作業員のおじさんを取り上げた回を観たことがあったのですが、そのおじさんには凄く共感できてとても面白かった。こういう方はなかなかメディアに取り上げられることはありませんが、私たちは彼のような普通の人たちの日々の仕事を記録していきたい。彼らの仕事を人生の教材として蓄積していけば、100人いれば100通りの教科書ができるでしょう。その中から受け取る側が何かを感じ取って、自分はこれを真似したい、取り入れていこうとカスタマイズできるようになればいいと思います。
企業や学校が人を理解する助けになる
Q.企業に対して「People’s」はどのようなメリットがあるのでしょうか。
長谷川:企業が採用を考える時、スキルマッチングだけで人を考えると「この人は優秀なんだけどどうもウチに合わないな」という問題がよく起こります。しかしPeople’sを活用すれば、就職希望者がどういう人生を送ってきたか、どのようなことを大切に考えているかが明確になる。カルチャーマッチのフィットを強くすることができるのです。採用後もこの人がどういう人間なのかをよく理解できますし、どういう活躍のさせ方をすればやりがいを感じてくれるのかも分かり易くなる。
もちろんそれには企業側もどういう人材が欲しいのかを充分に把握しておく必要があります。今後は企業向けプランとして、社員がどういうことを考えているのか集積する機能を追加することを考えています。今、活躍している社員にはどのような経歴・考え方を持っている人が多いのかを具体的にすることを目指しています。
Q.学生や学校が利用することでも大きなメリットがあると思います。
長谷川:大学や高校では結局、受験を頑張れ、良い大学に合格しようという教育になっています。ですが大学に入ってから何をするかまで教えないと、社会に出た時に困ることは大半の人は分かっています。しかし先生は公務員で、就職活動をあまり知らないから具体的なアドバイスができないのが現状です。そこに私たちが入ることで先生も生徒たちの希望をより深く理解できるようになり、また学外や県外から共感が高い生徒や先生を招くこともできるようになると考えています。
自分が良いと思う人生を生きてほしい
Q.お話を伺っていく中で、長谷川さんが主体性や能動性などをとても重視していることを感じました。
長谷川:仕事を閉じすぎない、ことだと思います。自分が基本になって、どうしていきたいのかを考え、オープンに仕事も消費もパートナーも選んでいけるようになってほしい。それが最終的な目標です。他人が決めた人生ではなくて、他人から評価される人生でもなくて、自分が良いと思う人生を生きてほしい。そしてそれを企業が共感し受け入れられる社会が作られていってほしい。
いつか父と弟のように苦しむ人がいなくなる社会を作ることが私の願いです。
感謝を伝えたいステークホルダー
コンサルサービスを提供している企業のSさんとIさんにまず感謝をお伝えしたいです。
Iさんは私の前職時代の同僚で、彼が転職した先がこの企業でした。この企業は現在、全国各地や海外にも展開していて、数多くの店舗があります。しかし人事評価制度は店舗ごとに異なるものですので、会社の拡大に併せて、ビジネスとしてグループ全体を考えていくためコンピテンシー制度を刷新したい要望が生まれた。そこでIさんから弊社に人事制度について相談したい、とオファーを受けたのです。現在、コンピテンシー評価制度を作るプロセスを共にさせてもらっています。
またこの企業さんとお二人を大変尊敬しているエピソードがあるのですが・・・Iさんは中核として頑張っていて、彼がいないと仕事が滞ってしまうほどだそうです。その件で一度Sさんから相談を受けました。「Iさんがあまりに仕事を楽しそうにしているので、Your Verseに転職したほうがいいのではないか」と。Iさんが弊社に来てしまったらSさんは絶対困るはずなのですが、Iさんのことを思って、と話してくれました。そういう仕事とか会社とかを抜きにして人を主体で考えている会社なのだと思いました。私がA社さんに伺った時も、皆さん大きな声で挨拶してくれますし、とても良い会社なのだなと感じています。
お聞きしたいのは、なぜ弊社に頼んでくれたのか。今とても成長して大きな企業になられているのに、まだ駆け出しの弊社に依頼してくれたことについてはお伺いしたいです。
日本CFO協会さんは日本の名だたる大企業のCFOの方々が集まり、日本のCFOのレベルの底上げをしようとしている団体です。数百社が入会されていて、エクセレントカンパニーも多い。ただ会員の方々の年齢層としては40代が多く、どうしても保守的になりがちです。企業を育てるためには底上げをもっと若いうちからしなければならない、と谷口さんがおっしゃっていて、「長谷川が起業したら若手をもっと育てるためになんかやろう」と誘っていただきました。今、企画を一緒に作らせてもらったりしています。企画の一つとして「未来エグゼクティブ会議」という若手向け研修イベントを開催していて、これからCFOになりたい人材を社外交流しながらスキルアップを図るイベントも企画させてもらっています。
谷口さんは私のことを息子のようにかわいがってくれていて、とても感謝しています。厳しいことも色々言われましたが、私が潰れそうな時にはお前は優秀だから大丈夫だ、と声をかけていただいた。聞いてみたいことは私のことをどう思っているのか、改めてお伺いしたいですね。
彼は私の前職の時の同期でした。私が前職を辞した後も半年か1年後、彼も退職した。それで次はどこに行こうかと悩んでいた時に色々話して、結局弊社に加わることになりました。彼が最初のコアメンバーです。現在はCTOとしてPeople’sの設計や開発のマネジメントに取り組んでもらっています。そしてもう1つ彼の大事な役割が「会社のリトマス試験紙」。弊社のサービスはビジネスとして取り組むとお金を稼ぐ方向に行き過ぎてしまう。そこを彼がチェックし、誠実に行動できているのか管理してもらっています。
例えば、ある顧客のオンラインセッションコーチングの様子を、私が良かれと思ってYouTubeにアップし、期間限定でお客に渡してあげたことがあります。それをお客様も歓迎してくれていたのですが、廣野さんがある時「録画したくないお客様もいらっしゃるかもしれないから、それはおかしい」と意見してくれたので、止めることにしました。今ではお客様から要望がある時だけYouTubeにアップしてお渡ししています。
彼に1 番伝えたい言葉は、恥ずかしいですが「愛しているよ」です。彼は会社が何もなかった時から参加してくれましたから、本当に感謝しています。
聞いてみたいのは、Your Verseの好きなところと、そしてこれからあなたはどんな人生を送りたいか、です。
永井さんは勤められていた大企業を辞めて弊社に加わってくれた人物です。彼は良くも悪くも真っ直ぐな性格の持ち主。嘘偽りがなく、本当に正しいことを言ってくれるのが私にはとてもありがたいです。ちゃんとしていない部分をはっきりと指摘してくれるのが嬉しいと思っています。
ただ彼は今病気を患っていて心身ともに疲れている。もし伺うことができるのなら、それらの病気がもしなかったとしたら、弊社に来てくれたのか尋ねてみたいです。
春日さんはWantedlyで応募してきてくれた方です。実は彼が前職で何の会社にいたのかとかは全く知りません。彼と出会ったのは2021年の1月か2月でしたが、そこで聞いたのは、彼がこれからどういう人生を歩んでいきたいかということだけで、過去については全く聞きませんでした。しかしそれだけでお互いに気が合って働いてもらうことになりました。
彼には採用面と広報面の活動をお任せしていて、Your Verse のコミュニティの輪を高純度のまま広げてもらっています。業務処理能力やコーチング、採用もバックオフィスもできてスキルが高く、オールラウンドプレイヤーな人です。
春日さんは弊社のなりたい姿を表現してくれます。春日さんがいないとYour Verse じゃない、とすら感じています。この会社に入ってくれて、本当にありがとうと言いたい。
聞いてみたいのは今後、春日さんがどういう人生を歩んでいきたいか、どういう人生を思い描いていますか?ということです。
春日さんと同じくWantedlyからジョインした方です。彼は10数年、学校の先生をされていた方で、とてもクレバー。なのに子供心を持っていて、あどけなさを残している人です。未来世代である子供たちに対して、私たちが何を伝えていけるのかを真剣に考えている人だと思います。
彼にも、これからどんな人生が送りたいか、聞いてみたいですね。
弊社のロゴやPeople’sのロゴをデザインしてくれた小田切さんには感謝しかありません。私が前職の時、対面に座って採用サイトやHPを作っていたのが小田切さんでした。私が起業した時にもデザインをお願いしたのですが、私たち以上に私たちのことを理解してくれていて、ロゴをお願いした時も雑談のような感じで、こういう風な会社にしたいと1時間くらい話をしただけで素晴らしいデザインを生み出してくれた。しかもそれが会社の想いやビジョンを完全に表現してくれていました。
お伺いしたいのは、弊社の仕事は楽しいですか?ということ。一度とてもやりがいがあります、とは聞いているのですが改めて今の気持ちを聞いてみたいですね。
WeWorkさんに移転してきてから、お客様にとてもウチらしいオフィスと言われます。私たちの世界観をハード面で最も楽に表現してくれているのがWeWorkさんだと思っています。会議室などそれぞれの部屋に絵が飾ってあり、お客様と「今日はどこでお話ししましょうか」と選んだりしています。コミュニティを招待したり、Your Verse らしい動きを全てやらせてもらえているのでとても感謝しています。移転して良かったと心から思っています。
一番私たちのことを考えてくれている方です。こういう大人になりたい、と私が人生で初めて思ったのが齋藤さんです。まだ私が前職で会社に残るか起業するか悩んでいた時に黒澤伶さんから、齋藤さんが開講されているセルフストーリーチャートを紹介されたのがお会いしたきっかけです。それまでにも様々な自己啓発に参加していたのですが、どうしても答えが見つからなかった。しかし齋藤さんから「悩むのが正解」と教えてもらった。では悩みは何のためにあるのか、セルフストーリーチャートを使えば正しく悩める、と知ることができた。私にとって大きな気づきでした。
それで起業したい、セルフストーリーチャートを使ったビジネスをしていきたいと思い、一緒にやりましょうと齋藤さんにも参加していただきました。
齋藤さんにはYour Verseをどう思っているのか、そして齋藤さんの人生の中でYour Verse にはどういう意味があるのか、伺ってみたいです。
私には1歳8か月になった娘がいて、日々その姿からたくさん学ばせてもらっています。子供は毎日楽しそうに生きているだけなのに、周りの大人はその姿を見て最高だなと感じる。ピュアでいることが幸せだと、娘は私に教えてくれています。
私たちより上の世代は経済的豊かさを残してくれました。これからの、私たちの世代は何を残せるのか。それは精神的な豊かさだと思っています。次の世代にいいバトンを伝えていきたいですね。
将来、成長した娘には「かっこいい大人って誰?」と聞いてみたいです。そこに自分が入っていられたらいいと思います。私も小さい時、父の姿をかっこいいと思っていましたから。
株式会社Your Verse 長谷川 朋弥 プロフィール
2015年早稲田大学卒。大学在学中、学生向けアジア新興国インターンシップを提供するベンチャー企業にて、プログラムの全国展開を経験。
大学卒業後、グローウィン・パートナーズ株式会社入社。新卒2名とともに、新規事業の立ち上げを推進し、JTグループ、東急グループ、JCBなど大手上場企業へRPAサービスやペーパーレスサービスを多数提供。その後、入社3年で最年少部長に就任。他にも大手上場企業とのアライアンス戦略やセミナー講師も数多く務める。
2019年、株式会社Your Verse 設立。若手活躍をキッカケとしたコンサルティングで、大手企業からベンチャー企業まで規模業種かかわらず、採用から退職までの組織開発を一手に支援。転職希望者への個人サービスでは、企業側のビジネス視点と個人の自己実現の視点から、入社後活躍できる転職を支援。日本CHRO協会研究委員を兼任。
株式会社Your Verse
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