「実家をどうするか」 誰にも相談できない悩み

「実家をどうにかしなきゃ」そう思いながら、何年も手つかずのまま時間が過ぎてしまっている。
親は高齢、家は古くなり、相続や介護、家財の整理も心配だが、仕事や育児で身動きが取れない。気がつけば、相談先さえわからなくなっている——。
このような“実家にまつわる悩み”を抱える人は、年々増加している。65歳以上の高齢者がいる世帯は全体の約半数にのぼり、その6割近くが単身または高齢夫婦のみで構成されている。
親を見守る人の多くは、40〜60代の働き盛り世代。物理的な距離と精神的な距離の両方を抱えながら、「実家をどうすべきか」という問題は、深く重くのしかかってくる。
こうした社会背景に対し、マークスライフ株式会社(東京都中央区)が2025年6月にリリースしたのが、実家の“困りごと”をまるごと受け止める新サービス「じつまど(実家の相談窓口)」である。
「実家の困りごと」を一括支援する“生活インフラ”

「じつまど」は、介護、空き家、相続、見守り、片付け、仏壇や墓じまいなど、実家に関する幅広い問題を横断的に扱うワンストップ型の相談サービスだ。
サービス開始にあたっては、提携企業や一部地域を対象に概念実証(PoC)として導入されており、「相談内容は千差万別です。
空き家を売りたい人もいれば、介護施設への引っ越しを検討している人もいる。まずは一つの窓口で、何でも相談できる体制を作ることが重要だと思いました」と花原浩二社長は語る。
相談の流れは明快だ。まず「じつまど」の担当者が、家族構成・実家の場所・現在の困りごとを丁寧にヒアリング。
その上で、介護、空き家、相続、見守り、片付け、仏壇や墓じまいといった課題を整理し、信頼のおけるサービス提供企業(介護事業者、士業、ホームセキュリティ会社、清掃会社、葬祭事業者など)と連携しながら、実行支援まで一貫して行う。
「たとえば東京で働いている人が、秋田の実家のことをどうにかしたいと思っても、誰に頼めばいいか分からない。そういう人たちにとって、『じつまど』が“現地にいるもう一人の家族”のような存在になれればと考えています」(花原氏)
不動産は“社会課題解決の手段”になる
マークスライフはこれまでも、「成仏不動産(事故物件のバリューアップと流通促進)」「おまもり不動産(生前整理や相続手続き)」「中立不動産(離婚物件の中立査定)」といったユニークなサービスを立ち上げ、業界に風穴を開けてきた。
その根底にあるのは「不動産は売るものではなく、人を助ける手段である」という視点である。
実際、同社は全国1000社以上の葬儀社、介護事業者、仏壇店、ガス会社、税理士・行政書士などと連携し、葬儀や介護の現場から出てくる“実家の課題”を受け止めてきた。
「成約数だけを追うのではなく、その背景にある人生や想いをちゃんと扱いたい」と花原氏は言う。
同社のビジネスモデルでは、提携先企業に不動産や片付けの相談が来た際、マークスライフが対応。
その成果報酬として仲介手数料の一部を紹介元に還元する。これにより、提携先にとっても“本業外収益”を生む仕組みが構築されている。
「たとえば仏壇屋さんが『仏壇の処分の相談を受けた』というタイミングで、『家も空き家になってしまう』という話になることがあります。そのとき、“不動産会社ではなく、信頼できる相談相手”として、私たちが話を聞く体制を作っています」(花原氏)
“扱いたくない不動産”こそ、扱う
マークスライフのもう一つの特徴は、他社が断るような不動産をあえて積極的に引き受ける姿勢だ。
たとえば建て替えできない物件、相続が未了のままの土地、農地、あるいは「事故物件」と呼ばれる不動産などが典型例である。
「世の中 の“価値が低い”とされている不動産の多くは、実は誰かの大切な思い出の場所だったりします。そうした物件を敬意をもって取り扱えるのが、私たちの強みだと思っています」(花原氏)
同社では全国どこでも対応可能なネットワークを持ち、月間7000件近い不動産相談が寄せられており、そのうち約13%が契約に至っている。
社員も「世のために。人のために。」という企業理念に共感した人材のみを採用しており、月に200〜250名の応募に対して採用は4~5名。採用では、「理念に共感できること」を重視しているという。
地方創生、福利厚生にもつながる“応用力”
「じつまど」は、地方自治体との連携も進んでおり、空き家対策や高齢者福祉施策の一環としての活用が期待される。
一般企業にとっても福利厚生制度の一部として機能させることが可能だ。
たとえば、介護離職の増加が昨今課題となっているが、社員がサービスを利用する際には、通常より安い価格で利用できるよう福利厚生として導入することで、社員の離職を防ぐ取り組みにもなる。
「社員にとっては“安くて安心な福利厚生”。企業にとっては“感謝される福利厚生”。行政にとっては“空き家対策”。一石三鳥なんです」(花原氏)
今後は、「じつまど」を中心に、遺品整理・建築・リノベーション・M&A支援など、生活全般にわたるサービス群を構築する構想もあるという。
社会課題に挑む“理念経営”の力
マークスライフの企業理念は「世のために。人のために。」——。花原氏は、大和ハウス工業で住宅営業をしていた頃、父親の死をきっかけにこの道に進んだ。
「家を建てれば建てるほど空き家が増えている。それって、誰のためのビジネスなんだろう?と疑問に感じたんです。父の葬儀で泣いてくれた人たちを見て、“人に必要とされる人生”を送りたいと思いました」(花原氏)

2016年に創業した当初は、経営や組織作りも厳しい時期があったという。
だが、理念を掲げ、目先の利益より「困っている人の声」に向き合い続けることで、少しずつ仲間が集まり、社会からも信頼を得ていった。
「理念より上に社長がいる会社は続かないと思っています。だから私は“社長という役割を任されているだけ”という立場で仕事をしています」。(花原氏)